「お前は外国人だ、出ていけ」 妊婦を暴行、住宅に放火、生きるための薬の中断も…南アフリカで激化する“移民排斥” 10万人超が避難

2026年07月29日
南アフリカ共和国(以下、南アフリカ)各地で発生した移民排斥デモと暴力を受け、大勢の人びとが自宅からの避難を余儀なくされた=2026年6月30日 © Tadeu Andre/MSF
南アフリカ共和国(以下、南アフリカ)各地で発生した移民排斥デモと暴力を受け、大勢の人びとが自宅からの避難を余儀なくされた=2026年6月30日 © Tadeu Andre/MSF

南アフリカ共和国(以下、「南アフリカ」)各地で「移民排斥」を掲げる暴力や脅迫が急増し、10万人を超える人びとが避難や移動を余儀なくされている。

移民の間では必要な医療を受けられない事態が広がっている。生きるために必要なエイズウイルス(HIV)治療薬や慢性疾患の薬を入手できなくなった人も少なくない。

国境なき医師団(MSF)は緊急援助を開始。南アフリカ北部のムシナや、国境を挟んだジンバブエ側のベイトブリッジで活動し、必要な治療薬などを提供するほか、暴力によって心に深い傷を負った人びとを診療している。

相次ぐ移民襲撃

「家に帰ると、跡形もなく燃やされていました」

こう話すのは、ジンバブエ出身のトゥラニさん(45歳、仮名)。21年間にわたって南アフリカで暮らし、働いてきた。2008年に起きた移民襲撃を除けば、これまであからさまな排外主義に直面したことはなかったという。

6月30日に南アフリカで移民排斥のデモが実施されると知り、身の危険を案じたトゥラニさんは妻を別の地域へ避難させた。デモ当日の夜は、自身も大事を取って近所の友人宅に身を寄せた。

日付が変わった未明の1時20分ごろ、自宅の方向から騒がしい音が聞こえたが、気にしないようにした。早朝5時前に起きて、シャワーを浴びようと自宅へ戻ると、目の前の光景に衝撃を受けた。

すべてが燃やされていたのです。大人が泣いてはいけないと思いましたが、ただ泣くことしかできませんでした。さらにテレビ、冷蔵庫、ソファ……家にあった私物が持ち去られていました。いま私に残っているのは、身につけているものだけです。これから何も持たずにジンバブエへ帰ります。

南アフリカの自宅を焼かれたジンバブエ出身者 トゥラニさん

南アフリカ各地で発生した移民排斥デモと暴力を受け、大勢の人びとが自宅からの避難を余儀なくされた=2026年6月30日 © Tadeu Andre/MSF
南アフリカ各地で発生した移民排斥デモと暴力を受け、大勢の人びとが自宅からの避難を余儀なくされた=2026年6月30日 © Tadeu Andre/MSF


さらに、移民への襲撃事案も多発している。

同じジンバブエ出身で、妊娠して間もないグレースさん(30歳、仮名)。2018年から、南アフリカの首都プレトリアから30キロ離れた北西州ヘブロンで暮らしていたが、ある日、反移民グループの襲撃を受けた。
 

あれは金曜日の夜10時過ぎでした。3人の子どもと自宅にいると、いきなり人びとがドアを蹴破ってきたのです。警察に電話しようとすると、携帯電話を奪われて壊されました。「私はいま妊娠2カ月です」と伝えましたが、殴られました。現在でも全身がひどく痛みます。隣の家では、モザンビーク出身の男性が鎖で殴られていました。

南アフリカで襲撃を受けたジンバブエ出身の妊婦 グレースさん

その後、グレースさんは妊婦健診の登録と診察を受けるため、地域の診療所へ向かった。しかし、入口で見張りをしていた反移民団体によって中に入ることを拒まれた。

グレースさんのように医療施設で排外主義的な妨害を受けた患者は他にも報告されている。

南アフリカで地元の病院にかかった際、医師に「ここにいるのは安全ではない」と告げられた女性。現在はジンバブエ側のベイトブリッジに身を寄せている=2026年7月19日 © Conrad Gweru/MSF
南アフリカで地元の病院にかかった際、医師に「ここにいるのは安全ではない」と告げられた女性。現在はジンバブエ側のベイトブリッジに身を寄せている=2026年7月19日 © Conrad Gweru/MSF

移民排斥を訴えるデモ、暴力へ発展

そもそもなぜ、このような事態になったのか。

南アフリカの反移民団体が最近、正規の滞在資格を持たないすべての移民に対し、6月30日までに国外へ退去するよう一方的に要求した。

主催者側は「要求の対象は非正規滞在者に限られる」と主張する。しかし、MSFが診療した患者によると、難民や保護申請者、正規の滞在資格を持つ移民も暴力や脅迫を受けていた。

退去期日に設定された6月30日には、移民排斥を掲げる大規模なデモが南アフリカ国内で発生。外国人が経営する店舗が狙われたほか、一般家庭への襲撃や嫌がらせも続出した。

一連の暴力によって少なくとも4人が死亡、多数が負傷し、住宅への放火なども起きた。特に被害が大きかったのは、クワズール・ナタール州、西ケープ州、ハウテン州、フリーステイト州の4州。その後も規模は縮小したが、一部地域で抗議活動が続いている。

ジンバブエ・ベイトブリッジの病院で重度のやけど治療を受ける男性。南アフリカの首都近郊で起きた移民排斥デモの際、茂みに隠れていたが、反移民グループに見つかって火を付けられた。一緒にいた仲間のうち2人は焼死した=2026年7月22日 © Conrad Gweru/MSF
ジンバブエ・ベイトブリッジの病院で重度のやけど治療を受ける男性。南アフリカの首都近郊で起きた移民排斥デモの際、茂みに隠れていたが、反移民グループに見つかって火を付けられた。一緒にいた仲間のうち2人は焼死した=2026年7月22日 © Conrad Gweru/MSF


大勢の移民が身を守るために自宅から避難した。出身国はマラウイ、モザンビーク、ジンバブエ、ナイジェリア、ガーナなどさまざま。公園、教会、領事館など南アフリカ各地に身を寄せており、緊急の医療・人道援助が必要となっている。

不安に包まれた帰還センター

そこでは乾いた土地に砂ぼこりが舞い、大きな白いテントが点在していた。冬にもかかわらず気温は30度前後にまで上昇する。
 
ここは南アフリカ政府が運営する一時帰還センター。ジンバブエとの国境の町ムシナの市街地から車で約20分離れた場所にある。帰国を待つ何千人もの人びとが集まり、辺りには重苦しい空気が漂っていた。
 

南アフリカ北部ムシナの一時帰還センターで、宿泊するテントへ向かう女性と子どもたち。移民排斥デモや暴力の影響で避難を余儀なくされた人びとの中には、同センターで夜を過ごしながら帰国や次の移動先への準備を進める人もいる=2026年7月15日 © Kate Stegeman/MSF
南アフリカ北部ムシナの一時帰還センターで、宿泊するテントへ向かう女性と子どもたち。移民排斥デモや暴力の影響で避難を余儀なくされた人びとの中には、同センターで夜を過ごしながら帰国や次の移動先への準備を進める人もいる=2026年7月15日 © Kate Stegeman/MSF


南アフリカ当局は、これまでに5万3000人を超える移民の帰還手続きをしたと発表した。だが、公的な手続きを経ず、非公式な経路を使って移動する人も多い。

報道によると、すでに約3万4000人がマラウイへ、約10万人がジンバブエへ戻ったとされる。人びとの避難が南アフリカ国内だけでなく、地域全体に及ぶ大規模な事態であることが浮き彫りとなっている。

南アフリカ北部ムシナでは、多くの人が平均1泊ほど滞在した後、帰国や次の目的地へ向かう=2026年7月15日 © Kate Stegeman/MSF
南アフリカ北部ムシナでは、多くの人が平均1泊ほど滞在した後、帰国や次の目的地へ向かう=2026年7月15日 © Kate Stegeman/MSF


こうして南アフリカを離れる人びとの動きは「自主帰国」と呼ばれている。

しかし、これをすべて本人の意思によるものとみなすことには疑問が残る。マラウイ、モザンビーク、ジンバブエ出身の多くの人びとは、正規の滞在資格を証明する書類を持っているのに「身の安全を守るため逃げる以外に選択肢がなかった」と訴えているからだ。

MSFでムシナの緊急医療チームを率いるキャロライン・マスンダは指摘する。

10万人を超える人びとが避難する事態は、通常は激しい紛争地域で目にするものです。南アフリカのような比較的安定した民主主義国家で起きていること自体が異例です。周辺の各国政府は連携をさらに強化し、患者が移動先でも治療を受けられる体制を整える必要があります。

ムシナのMSF緊急医療チームリーダー キャロライン・マスンダ

MSFが各地で緊急対応、医療や心のケア提供

移民は都市部だけでなく、農村部や農業地域を含む、南アフリカ全土から避難している。

そのため、MSFは各最大10人で構成する移動診療チームを南アフリカ国内に三つ配置した。基礎医療や慢性疾患の診療、心のケア、応急処置のほか、衛生用品などの生活必需品を渡している。

避難してきた人びとが集まる場所では公衆衛生の状況も確認している。より専門的な治療が必要な患者は、他の診療所や病院へとつないでいる。

国境なき医師団(MSF)は公衆衛生のため、避難民が集まる場所では水や衛生環境の状況を確認している=南アフリカ北部ムシナで2026年7月16日 © Kate Stegeman/MSF
国境なき医師団(MSF)は公衆衛生のため、避難民が集まる場所では水や衛生環境の状況を確認している=南アフリカ北部ムシナで2026年7月16日 © Kate Stegeman/MSF

「命を守る薬」を取り戻すために

また、MSFはムシナ近くの一時帰還センター周辺で診療所を運営している。しかし、治療が必要でも帰国するためのバスを待つ列から離れることをためらう人がいるなど課題は残る。

MSFは避難を余儀なくされた人びとに対し、医療援助に関する情報提供や聞き取りをしている=南アフリカ北部ムシナで2026年7月17日 © Kate Stegeman/MSF
MSFは避難を余儀なくされた人びとに対し、医療援助に関する情報提供や聞き取りをしている=南アフリカ北部ムシナで2026年7月17日 © Kate Stegeman/MSF


MSFの看護師、プムラ・ツォテツィは話す。

MSFが特に懸念しているのは、糖尿病や高血圧、精神疾患、HIV、結核などの慢性疾患を抱える人びとの治療が途切れることです。治療や薬の服用が中断すれば、健康上の深刻な問題につながります。また、幼い子どもや妊産婦への緊急支援を優先しており、なかにはデモが始まる数日前に帝王切開を受けて傷がまだ治っていない産婦もいました。

MSFの看護師 プムラ・ツォテツィ

実際、ムシナでは移民であることを理由に南アフリカの医療施設で診療を断られ、数カ月にわたってHIVや結核の治療を受けられなかった患者が相次いでいる。

マラウイ出身のジョセフさん(49歳、仮名)もその一人。1995年から南アフリカで服の仕立て屋として働き、2008年からは抗レトロウイルス薬(ARV)によるHIV治療を受けていたという。

ジョセフさんは避難の経緯についてこう振り返る。

MSFは南アフリカ北部ムシナでジョセフさん(仮名)に抗レトロウイルス薬を提供している=2026年7月16日 © Kate Stegeman/MSF
MSFは南アフリカ北部ムシナでジョセフさん(仮名)に抗レトロウイルス薬を提供している=2026年7月16日 © Kate Stegeman/MSF

急に移民排斥派が家に押しかけてきて「お前は外国人だ、出て行け」と脅してきました。私はすぐに逃げて、友人の家に身を隠しました。その後、他の場所へ移りましたが、バスターミナルで寝泊まりするしかありませんでした。雨が降っても外にいました。

南アフリカで30年以上働いたマラウイ出身の避難民 ジョセフさん

逃げる際、薬は自宅に置いたままだった。

薬も服も、すべて家に置いてきました。でも、そんなことを気にしている場合ではありません。生きてさえいれば、また手に入れられます。ここ数週間、薬を飲めていませんでしたが、今日MSFから受け取ることができてほっとしています。

南アフリカで30年以上働いたマラウイ出身の避難民 ジョセフさん

MSFの緊急対応コーディネーター、クレア・ウォーターハウスはこう強調する。

MSFは数十年にわたってアフリカ南部地域で活動してきました。ジンバブエではすでにチームが対応しており、モザンビークでも帰国する移民の医療・人道ニーズを調査しています。南アフリカでの排外主義的な暴力や脅迫により、いかにひどい扱いを受けたかという証言が移民から寄せられています。

MSFの緊急対応コーディネーター クレア・ウォーターハウス

MSFは今後も、影響を受けた人びとや南アフリカ各州の保健当局、市民社会組織などの関係者と協力し、変化するニーズに応じて緊急対応を続けていく。

南アフリカ北部ムシナにあるMSFの診療所で、乳児の健康状態を確認する医師と看護師=2026年7月16日 © Kate Stegeman/MSF
南アフリカ北部ムシナにあるMSFの診療所で、乳児の健康状態を確認する医師と看護師=2026年7月16日 © Kate Stegeman/MSF

南アで20年以上続く排外主義的暴力、MSFの対応

MSFはこれまでも南アフリカで、南アフリカ人をはじめ、移民、保護申請者、難民に無償で医療を提供してきた。

排外主義的な行為による健康被害にも繰り返し対応しており、2008年、2009年、2015年、2019年に大規模な暴力が起きた際にいずれも活動した。こうした暴力は20年以上にわたって続いており、社会的、経済的な緊張が高まった時期に発生することが多い。

なかでも2008年の襲撃は最も多くの犠牲者を出し、少なくとも62人が死亡、10万人を超える人びとが家を追われた。

MSFは他の市民団体と共に申し立てを実施し、2025年12月、同国ハウテン州高等裁判所から「国籍や在留資格を理由に医療を拒んではならないこと」を改めて確認する判決を勝ち取っていた。判決では、反移民団体や一部の医療従事者が公立医療施設への立ち入りを妨げている問題について、政府に対し、速やかに断固とした措置を取るよう命じた。

誰もが医療を受けられるようにすることは、法的な義務であるだけでなく、公衆衛生上も不可欠。個人と地域社会の健康を守り、感染症の流行を防ぐことにもつながるのだ。

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