プレスリリース

【世界結核デー】薬剤耐性結核を短期間で安全に治す──新たな治療法と検査の早期普及を

2023年03月23日
ウクライナのジトーミル州でMSFが支援する結核診療所で、GeneXpertを使用した検査キットをスキャンする検査助手=2018年10月25日 🄫 Oksana Parafeniuk
ウクライナのジトーミル州でMSFが支援する結核診療所で、GeneXpertを使用した検査キットをスキャンする検査助手=2018年10月25日 🄫 Oksana Parafeniuk

一部の治療薬に耐性をもつ結核「薬剤耐性結核」を、従来よりも短期間、安全、かつ効果的に治せる治療法を普及させ、そのために必要な診断検査の普及を急ぐよう各国政府と資金拠出機関に対し求める——。3月24日の世界結核デーに先立ち、国境なき医師団(MSF)は、世界保健機関(WHO)や他団体とともに「行動への呼びかけ(Call to Action)」に署名した。MSFは同時に、薬剤耐性結核患者の治療開始にあたって重要となる診断機器『GeneXpert』を製造する米セフィエド社に対し、同機器を使った検査価格を引き下げることも改めて要請する。

経口薬のみ、短期間で有効な治療法

WHOは2022年12月、薬剤耐性結核の治療に、より安全で短期間のBPaLM療法(※)を用いることを各国に推奨する新たなガイドラインを発表した。同ガイドラインの一部は、MSFが主導した臨床試験「TB-PRACTECAL」の結果に基づくもので、その結果には世界初の多国間ランダム化比較試験によって、BPaLMを用いた新たな6カ月間の経口療法が、現行の治療法よりも安全で効果的であることが示された。現行の治療法は、長期にわたり耐え難い副作用を引き起こし、治癒に至る確率は患者の6割にとどまっている。

※BPaLM療法は、抗結核薬のべダキリン(B)、プレトマニド(Pa)、リネゾリド(L)、モキシフロキサシン(M)を用いた6カ月間の治療法。この治療法はベダキリンやリネゾリド、プレトマニド、デラマニドに耐性をもつ結核患者には適切でない。どの国でもBPaLM療法の開始と並行して、これらの薬に対する薬剤感受性試験を急拡大させることが欠かせない。

「この2年は何もかも結核中心の生活でした」。ベラルーシで2年間にわたった治療でも結核が治らず、その後BPaLM療法を受けたマリアさん(仮名)は語る。「あの長期治療を続けるのは無理があります。これまでの治療法を受けている患者は、具合が悪くなって何もできなくなるのです。最初から、いまの短期療法を始めていれば、私の人生は変わっていたでしょう」

シエラレオネのボンバリでMSFのチームから娘の結核症状について説明を受ける母親。同地でMSFは、保健当局とともに2022年10月より短期間で経口のみのBPaLM療法を導入している=2023年1月27日撮影 🄫 MSF/Mary Dumbuya
シエラレオネのボンバリでMSFのチームから娘の結核症状について説明を受ける母親。同地でMSFは、保健当局とともに2022年10月より短期間で経口のみのBPaLM療法を導入している=2023年1月27日撮影 🄫 MSF/Mary Dumbuya

新療法の導入に欠かせない診断検査

しかし、このBPaLM療法を普及させるには大きな壁が立ちはだかる。薬剤耐性の診断検査が行き渡っていないのだ。結核の高まん延国において現在最も利用されている迅速分子診断検査機器は、米セフィエド社の『GeneXpert MTB/RIF』で、第一選択薬であるリファンピシンへの耐性検出に用いられる。高まん延国で売上を大きく伸ばしているが、同社は10年以上にわたり検査キット1回分の価格を9.98米ドル(約1318円)に据え置いている。MSFは独自の分析により検査キットの製造費は5米ドル(約660円)未満だとして、価格を引き下げるよう要請している。

薬剤耐性結核患者を抱える各国は、治療を6カ月で終えられるBPaLM療法の普及を進めるべきだ。同時に、GeneXpert MTB/RIF検査か、WHOが推奨する代替の『Truenat MTB/RIF』検査を国内全土で利用できるようにし、結核とリファンピシン耐性の検出を可能にし、患者が遅延なくこの治療法を受けられるように図るべきだろう。

MSFアクセス・キャンペーンの診断検査顧問であるステイン・デボルグレブは、「結核や薬剤耐性の診断検査を実施しやすくすることが不可欠です。そうすれば、治療を必要とする人をより多く発見し、経口薬のみで完結するこの新たな治療法を提供できるのです。MSFはセフィエド社に対し検査キット価格を5米ドル以下に引き下げることを改めて求めます」と述べる。

薬の価格引き下げを

検査キットの価格とともに、薬価もさらに引き下げる必要がある。そのためには、各国の結核治療プログラムでBPaLM療法の提供を開始して薬の需要を増やす、より多くの医薬品メーカーにベダキリンとプレトマニドの低価格なジェネリック(後発医薬品)版を供給させる、ことが有効だ。現在、BPaLM療法の最安値は570米ドル(約7万5269円)にとどまっているため、MSFは、BPaLM療法を含む薬剤耐性結核の治療価格を1回分あたり500米ドル(約6万6025円)以下にするよう呼びかけている。ベラルーシ、ウズベキスタン、タジキスタン、シエラレオネ、パキスタンといったMSFが活動する国々では、BPaLM療法の導入が始まっている。価格が下がれば、より多くの国でこの治療法を使えるようになるだろう。

アフガニスタン・カンダハルにあるMSF結核病院で血圧を測ってもらう2歳の女の子。母親は結核治療を終えたばかり。MSFは結核患者の家族にも検査を行う © Lynzy Billing
アフガニスタン・カンダハルにあるMSF結核病院で血圧を測ってもらう2歳の女の子。母親は結核治療を終えたばかり。MSFは結核患者の家族にも検査を行う © Lynzy Billing
ゲケ・フイスマン<br> (MSF医療コーディネーター)
ゲケ・フイスマン
(MSF医療コーディネーター)
アフガニスタンでMSFの医療コーディネーターを務めるゲケ・フイスマン医師は「アフガニスタンのような国で、人びとは通院費や病院への医療費の支払いだけでなく、食べることにも苦労しています。薬物耐性結核の患者を最長2年かかる従来の方法ではなく、6カ月以内に治療できるようになれば幸いなことです。アフガニスタンやこの地域の国々では、検査費が高額で手頃な価格の診断検査へのアクセスが大きな課題です。政府、資金拠出機関、製薬会社は、より多くの命を救うために、これらの重要な結核検査と治療法を安価で供給できるよう、今すぐ行動する必要があります」と指摘する。

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