イベント報告

【イベント報告】エンドレスジャーニー展・長崎、名古屋──12日間で8000人近く来場

2025年10月10日
名古屋会場のJRゲートタワー1階イベントスペース。電光掲示板には、紛争が激化する前にパレスチナ・ガザ地区で撮影された日常の光景を流しました=2025年9月30日 Ⓒ MSF
名古屋会場のJRゲートタワー1階イベントスペース。電光掲示板には、紛争が激化する前にパレスチナ・ガザ地区で撮影された日常の光景を流しました=2025年9月30日 Ⓒ MSF

終わりの見えない命懸けの旅を強いられた人びとの現状と、国境なき医師団(MSF)の活動を伝える体験・思考型の企画展「エンドレスジャーニー展」。2025年は8月11~17日に長崎市で、9月26~30日に名古屋市で実施し、共に初めての開催地となりました。

長崎には7日間で3755人、名古屋には5日間で4000人が来場。2019年に東京で初回の展示を始めて以降、福岡、大阪、広島、札幌、仙台と計2万5000人近い方々にお越しいただいたことになります。

「エンドレスジャーニー(Endless journey)」を終わらせる、「エンドディスジャーニー(End this journey)」に──。来場者の声や展示の様子を交えながら、長崎、名古屋での取り組みをご紹介します。

見て!触って!運んで!体験する子どもたち

会場には数多くの体験型コーナーを設置しました。

世界では年間270万人以上が毒ヘビにかまれ、このうち10万人以上が犠牲となっています。

恒例コーナーの「熱帯・毒ヘビチャレンジ!」では、アフリカ・南スーダンで毒ヘビにかまれた事態を想定。パネルに書かれた六つの課題をこなしながら、現地の診療所で有効な解毒剤をもらうまでの流れを体験していただきました。

ゴール地点にはコブラのぬいぐるみが置いてあり、課題を達成した子どもたちは笑顔で記念撮影していました。 

「熱帯・毒ヘビチャレンジ!」を達成し、コブラのぬいぐるみで遊ぶ1歳の女の子=名古屋会場で2025年9月29日 Ⓒ MSF
「熱帯・毒ヘビチャレンジ!」を達成し、コブラのぬいぐるみで遊ぶ1歳の女の子=名古屋会場で2025年9月29日 Ⓒ MSF


また、人道援助の現場では、何よりも「水」が大切です。人びとの命や衛生環境を守るため、安全な飲み水や生活用水が求められます。

人は1人当たり1日約15リットルもの水が最低でも必要とされていますが、遠く離れた給水所へくみに行かないといけない地域もあります。

そこで「水の重量体験」コーナーでは、20リットルの水が入ったポリタンクを用意。実際に短い距離を持ち運んでいただくことで、現地の人びとが水を手にする苦労を体感していただきました。

名古屋会場では小学生の女の子(右奥)が「重い、無理~!」と声を上げながら、水20リットル入りのポリタンクを両手で持ち上げていました=2025年9月29日 Ⓒ MSF
名古屋会場では小学生の女の子(右奥)が「重い、無理~!」と声を上げながら、水20リットル入りのポリタンクを両手で持ち上げていました=2025年9月29日 Ⓒ MSF


名古屋会場に来られた沖縄県出身の女性(76)は「まさに私も小学3、4年生の頃、1キロほど離れた湧水地まで行き、(約18リットル入る)一斗缶にくんで家まで運んでいたことを思い出しました。戦後の沖縄と似た状況の国・地域があることを学び、とても切ない気持ちです」と話し、ご自身の幼少期と重ね合わせていました。

会場では、計4カ所に置かれたスタンプを集めるスタンプラリーも実施。お子さんたちはうれしそうにスタンプを集めて、景品のオリジナルシールやクラフトペーパーをゲットしていました。

スタンプを押して顔をほころばせる男の子=名古屋会場で2025年9月28日 Ⓒ MSF
スタンプを押して顔をほころばせる男の子=名古屋会場で2025年9月28日 Ⓒ MSF

モノと写真から考える難民・移民たち

難民・移民の状況をより身近に感じていただけるよう、会場にはさまざまな展示物や写真を並べました。

「難民の現状」コーナーでは、海を漂流する人びとを見つけた際、安全な救助船に移る前に渡して身に着けてもらうライフジャケットを展示しました。

その横には、実際に海上で救出された妊娠8カ月の女性(当時22歳)が着ていたTシャツも置かれました。ボートでの過酷な移動で海水がかかったのか、Tシャツには船の燃料の臭いが染みついています。

海を漂流する人びとに渡すライフジャケット(左)や、救出された妊娠8カ月の女性が実際に着ていた白いTシャツ(右奥)=名古屋会場で2025年9月30日 Ⓒ MSF
海を漂流する人びとに渡すライフジャケット(左)や、救出された妊娠8カ月の女性が実際に着ていた白いTシャツ(右奥)=名古屋会場で2025年9月30日 Ⓒ MSF


また、紛争が激化してから2年がたつパレスチナ・ガザ地区の現状を伝えようと、現地で撮影された写真およそ20枚を並べました。

名古屋会場では、ガザ地区への2度目の派遣から7月に帰ってきたばかりのロジスティシャン、村元菜穂の写真も展示。地元・名古屋市出身の村元が現地でスタッフと活動する姿を、多くの来場者にご覧いただきました。

名古屋会場に飾られたガザ地区の写真の数々。地元出身のロジスティシャン、村元菜穂の活動風景(右端の縦列)などをご覧いただきました=2025年9月30日 Ⓒ MSF
名古屋会場に飾られたガザ地区の写真の数々。地元出身のロジスティシャン、村元菜穂の活動風景(右端の縦列)などをご覧いただきました=2025年9月30日 Ⓒ MSF

さらに、会場の壁面にある大きな電光掲示板では、2023年10月より前にガザで撮られた写真のスライドショーを流しました。

笑顔の子どもや彩りある食卓、夕暮れの海岸などの光景から、ガザの人びとにも私たちと同じ大切な日常があったことを知っていただけたと思います。

スライドショーはこちら(動画2分35秒)

そのほか、毎日午後に開催していた展示ツアーでは、海外派遣スタッフが各回2人ずつ登壇し、自身の活動経験を交えつつ展示物を紹介しました。
 
30ほどの席は来場者の方々で毎回ほぼ満席となり、皆さまから多くのご質問をいただきました。

展示ツアーで自身の体験を語る外科医の小杉郁子(左)と、ロジスティシャンの今村沙耶(右)=名古屋会場で2025年9月28日 Ⓒ MSF
展示ツアーで自身の体験を語る外科医の小杉郁子(左)と、ロジスティシャンの今村沙耶(右)=名古屋会場で2025年9月28日 Ⓒ MSF
詩人・谷川俊太郎さんがMSFに寄せた詩作品も掲示しました=名古屋会場で2025年9月29日 Ⓒ MSF
詩人・谷川俊太郎さんがMSFに寄せた詩作品も掲示しました=名古屋会場で2025年9月29日 Ⓒ MSF

「希望を届け続けたい」──名古屋でトークイベント

名古屋会場では、開催3日目の9月28日に「答えは変えられる!私たちがあきらめないで活動する理由」と題したトークイベントを実施しました。

社会課題を分かりやすく発信する動画メディア「RICE MEDIA」代表のトム(廣瀬智之)さんをゲストに招き、MSF日本会長で医師の中嶋優子と対談。それぞれが現在の活動をしているきっかけや内容、やりがいなどをテーマに語りました。

「困難に遭遇したときどうするか」という話題になると、トムさんは「いま社会が混沌(こんとん)としていっている感覚はあるが、そういうときだからこそ希望を見出せるような存在が必要だと思う。自分は動画を通して『社会は良くなっていっているかもしれない』という希望を届け続けたい」と力を込めました。

「動画を通じて希望を届けたい」と訴えるトムさん(左)=名古屋会場で2025年9月28日 Ⓒ MSF
「動画を通じて希望を届けたい」と訴えるトムさん(左)=名古屋会場で2025年9月28日 Ⓒ MSF

中嶋は「現地で活動する中でも『こんなにも不条理な状況で、私一人がやることにどれだけの意味があるのか』と思うことも多い」としたうえで、「だからと言ってやらない理由にはならない。最後に『できることは全てやった』と思えるよう、自分の信じることを続けていきたい」と応じました。

「自分の信じたことを続けていく」と語るMSF日本会長の中嶋優子(右端)=名古屋会場で2025年9月28日 Ⓒ MSF
「自分の信じたことを続けていく」と語るMSF日本会長の中嶋優子(右端)=名古屋会場で2025年9月28日 Ⓒ MSF

平和へ思い寄せた長崎

長崎市でのエンドレスジャーニー展は、80回目の長崎原爆の日の2日後の8月11日から始まりました。JR長崎駅前のアミュプラザ長崎かもめ広場には、初日から多くの方々が集まりました。

長崎と名古屋の展示内容は、トークなどのイベントを除けば同一です。会場を視察した人の中には、長崎県の大石賢吾知事や、長崎市の鈴木史朗市長の姿もありました。

鈴木市長は1人で会場に現れ、展示物を熱心に見たあと、会場内のメッセージコーナーでペンを取り、平和への強い思いを込めた、以下のメッセージをお寄せいただきました。

「NO MORE HIROSHIMA

NO MORE NAGASAKI

NO MORE WAR

NO MORE HIBAKUSHA!」

(ノーモア広島、ノーモア長崎、ノーモア戦争、ノーモア被爆者!) 

長崎の会場で手書きのメッセージを手にする鈴木史朗・長崎市長=2025年8月13日 Ⓒ MSF
長崎の会場で手書きのメッセージを手にする鈴木史朗・長崎市長=2025年8月13日 Ⓒ MSF

多くのご支援・メッセージをありがとうございます

MSFの活動について来場者にご説明するスタッフ(左)=名古屋会場で2025年9月29日 Ⓒ MSF
MSFの活動について来場者にご説明するスタッフ(左)=名古屋会場で2025年9月29日 Ⓒ MSF

長崎、名古屋ともに会場では皆さまからさまざまな展示のご感想をいただきました。

30代女性

ガザ地区の状況に胸を痛めていて、何かできることがないかと思って親子で来ました。生まれる国が違うだけで、こんなにも境遇が変わってしまうのはとてもつらい。これからも自分にできることを考えていきたいです。

70代女性

ロヒンギャの人びとを巡るミャンマーの状況を「こんなことが世界で起きているのか」と涙ながらに見ました。中学生、高校生など多くの若い世代にも課外授業などで来てもらい、「平和」について考えてみてほしいです。

また、会場では来場者の方々に多くのメッセージを紙に書いていただきました。

100以上が寄せられた名古屋会場では、市内から来た30代の女性が1歳の娘さんとともにこう記していました。

「世界中のお友達が 笑顔で楽しい毎日をおくれるように」

来場者の皆さまから寄せられたメッセージの数々=名古屋会場で2025年9月29日 Ⓒ MSF
来場者の皆さまから寄せられたメッセージの数々=名古屋会場で2025年9月29日 Ⓒ MSF

よく「寄付や活動への参加以外に何かできることはありますか?」とのご質問をいただきます。多くの方々が難民・移民を巡る状況を知り、共に考え、伝えることが、現状を変える一歩となります。これからも皆さまと一緒に、前向きな変化を生み出していけることを願っています。

MSFは今後もさまざまなイベントを通じて、世界各地で目の当たりにした人道危機や、そこで生きる人びとの声を伝えてまいります。また皆さまとお会いできる日を心待ちにしています。

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