イベント報告

【トークイベント報告】命がけの「地中海ルート」最前線 国境なき医師団の捜索・救助の現場

2022年03月10日
国境なき医師団(MSF)は2月28日、森ビル株式会社が運営する「アカデミーヒルズ」と共同で、オンライントークイベント『命がけの「地中海ルート」最前線 国境なき医師団の捜索・救助の現場をジャーナリストと助産師が報告』を開催しました。

命がけで欧州を目指す難民・移民を乗せた船の沈没が相次ぎ、昨年だけで2000人以上(国際移住機関調べ)が死亡・行方不明になった地中海。中でもリビア沖から地中海中央部の海域は、移民・難民が命を落とす最も危険なルートだと言われています。

そのリビア沖で救助活動を担うMSFの捜索・救助船「ジオ・バレンツ号」に、日本人ジャーナリストとして初めて、村山祐介さんが乗船。冬の地中海ルートの最前線を取材しました。MSFの助産師 小島毬奈は、2016年から地中海の捜索救助船での活動を続けています。

村山さんからは、人びとが移民・難民となった背景や移動経路、救助された人びとのストーリーについて、船上で取材・撮影した動画も紹介しながら、わかりやすく説明いただきました。小島からは、船上での助産師としての仕事(妊婦検診、新生児検診、性暴力被害者の診察、下船時の新型コロナ感染症のテストなど)の他にも、救助された人びとの食事の手配や喧嘩の仲裁、そして毎日数百人が使用するトイレの掃除など、多岐に渡る船上での業務や救助活動での思いを伝えました。

小島は、「夜消灯後に巡視を続け、明け方に静かな船上でふと、『生まれた国が違ったら、自分もあのボートにいたひとりだったかもしれない』と思うことがある。日本は地中海の出来事を身近に感じるのは難しいかもしれないし、「難民・移民」というグループとして括られがちだが、一人一人がいろいろな思いで海を渡って来ている。そうした一人一人の尊厳を大切にしたい」と思いを語りました。

また、「日本は世界の情報が入ってくるのが遅かったり、十分に入ってこないこともある。自分から信頼の高いリソースにアクセスし、情報貧乏にならないようにする必要があるのではないか」と呼びかけました。

村山さんは、「どちらかというと内向きになり、関心自体が海外に向かない中で、地中海の難民救助活動に関心をもっていただけたことがとてもありがたい。遠い世界の話ではなく、日本を含めた世界全体がどう動いていくのかを感じていただきたい」と話しました。

当日のライブ視聴では213人の方々が参加し、「映像やトークを通じて、地中海難民の厳しい現実や、MSFのリアルな活動の様子を知ることができ、身近に感じることができた。」「自分にできることは何か考えていきたい」といった感想をいただきました。

登壇者プロフィール:村山 祐介氏(ジャーナリスト)

1971年、東京都生まれ。立教大学法学部卒。1995年、三菱商事株式会社入社。2001年朝日新聞社入社。09年からワシントン特派員として米政権の外交・安全保障、12年からドバイ支局長として中東情勢を取材し、国内で経済産業省や外務省、首相官邸など政権取材を主に担当した。GLOBE編集部員、東京本社経済部次長(国際経済担当デスク)などを経て20年3月に退社してフリージャーナリストに。現在オランダ・ハーグ在住。米国に向かう移民の取材で2021年講談社本田靖春ノンフィクション賞、2019年ボーン・上田記念国際記者賞、2018年第34回ATP賞ドキュメンタリー部門奨励賞を受賞。

登壇者プロフィール:小島 毬奈(MSF助産師)

🄫 MSF
🄫 MSF
2009年、助産学校(東京医療センター付属東が丘看護助産学校助産学科)を卒業後、東京医療センター、都内産婦人科クリニックなどで勤務。その後、タンザニアにて助産師で医療ボランティア活動に参加。2014年3月より国境なき医師団に参加し、以来、母子保健・産科医療のプロジェクトに参加。近年は地中海を渡り欧州を目指す難民・移民の海難捜索救助船での活動に多く参加している。2018年10月に著書『国境なき助産師が行く——難民救助の活動から見えてきたこと』(ちくまプリマー新書)を上梓。1984年東京都生まれ。

MSF活動歴:
2014年3月~7月 パキスタン・ペシャワール
2014年10月~12月 パキスタン・ハングー
2015年3月~9月 イラク・ドミーズ
2015年12月~2016年1月 レバノン・ベッカー高原
2016年4月~9月 レバノン・ベッカー高原
2016年11月~2017年2月 地中海(アクエリアス号)
2017年5月~9月 南スーダン・ベンティウ
2017年11月~2018年1月 バングラデシュ(ロヒンギャ難民キャンプ)
2018年12月~2019年3月 カメルーン
2019年6月~10月 地中海(オーシャン・バイキング号)
2020年8月~12月 地中海(シー・ウォッチ4号)
2021年5月~10月 地中海(ジオ・バレンツ号)

この記事のタグ

関連記事

活動ニュースを選ぶ