「家が怪物になってしまった」──トルコ、震災被災地で求められる心のケア

2023年04月26日
絵を描くことも子どもたちの心の回復につながる © Mariana Abdalla/MSF
絵を描くことも子どもたちの心の回復につながる © Mariana Abdalla/MSF

トルコでは現在も、今年2月に起きた大震災の爪あとが生々しく残っている。 3月には、春の訪れとともに発生した豪雨による洪水も起き、被災地にさらなる困難をもたらした。さらに、2万5000回以上起きている余震が、人びとの恐怖を長引かせている。

被災した人びとの心はいま──。現地からの声を伝える。

心のケアを行う現地団体を支える

震災直後の数日間、多くの人びとは全半壊した自宅の外で、捜索救助隊が負傷者を助け出すのを見守っていた。がれきの中から遺体が見つかると、一体一体、家族や友人かを確認するのだ。トルコ当局によると、4月上旬の時点でトルコ国内だけで5万300人以上が亡くなった。

今回の地震は、人びとの心に重大な影響をもたらしている。国境なき医師団(MSF)は、トルコの現地団体へのサポートを通じて、被災した人びとに心理社会面の支援を行っている。

アドゥヤマン県とマラティヤ県ではイメジェ・イニシアティフ協会を通し、またハタイ県とカフランマラシュ県ではマヤ・バクフィを通して支援し、3月24日までに7500人を超える人びとに心のケアを届けた。

イメジェ・イニシアティフの心理療法士であるナーズル・シーナム・コイタク氏は次のように語った。

「家が、守られる場所から恐怖の場所に」 ──心理療法士

現地団体の心理療法士・コイタク氏<br> © Mariana Abdalla/MSF
現地団体の心理療法士・コイタク氏
© Mariana Abdalla/MSF
「通常、『命の危機』の段階が過ぎた後は、時間が経つにつれて恐怖心が薄れていきます。しかし余震が続いているので、恐怖心がずっと続いているのです。皆、肉体的にも精神的にも疲れ果てています。
 
話を聞くと、『怖くて家に入れない』と大半の人が話します。家の中にいても安全を感じられないのです。たとえ日中に家に入らなければならないとしても、できるだけ早く出て、テントで夜を明かそうとします。これは、家が一部しか壊れていない人たちにも言えることです。
 
ある村では、心のケアのプログラムの参加者が『家が怪物になってしまった』と話していました。これまで家は守られる場所でしたが、いまは恐怖の場所、人を殺す場所となってしまったのです。
 
元に戻るには、長い時間がかかるでしょう。そのため私たちの活動では、家族、特に親と子どもたちの間の信頼を回復するための活動に力を入れています」

子どもの心への影響も

極度の警戒感が抜けず、何かに集中したり睡眠をとったりするのが難しくなっている人も多い。毎晩悪夢を見たり、物忘れがひどくなったり、食欲がなくなったり……というケースも少なくない。

余震は今も毎日続いているので、過去の経験が絶えずよみがえり、次の地震が起きるかもしれないという思いが離れないのだ。トルコ災害・緊急事態対策庁(AFAD)によると、2月6日の地震以降、2万5000回以上の余震が発生し、そのうち47回はマグニチュード5以上の地震が発生している。

また、震災による心のダメージは体にも影響を与え、時としてパニック発作や摂食障害などを引き起こす。

アドゥヤマンのカヤテペ村(レズィプ)村に暮らす姉妹はこう話した。

「本を読んでも何も頭に入ってこないんです」 ──11歳の少女

上:姉のエイリュルさん、下:妹のエミネさん <br> © Mariana Abdalla/MSF
上:姉のエイリュルさん、下:妹のエミネさん 
© Mariana Abdalla/MSF
「最近、よく眠れません。勉強も手につかなくて。頭の中にあった情報がすべて消えてしまったような感じです。前は知っていたことも、もう分からなくなってしまいました」
エイリュルさん(13歳)
 
 
「友達はみんな地震で出て行ってしまいました。みんなに会えないのはとても寂しい。私は家でテレビを見ているだけです。地震の前は、学校に行って、家に帰ったら本を読んだり友だちと遊んだりしていたのに……。いまは友達もいません。本を読んでも集中できなくて、何も頭に入ってこないんです」
エミネさん(11歳)

MSFがサポートする現地団体は、地震で被災したさまざまな人びとへの心理社会面の支援に当たっている。トルコの医療従事者、シリア難民、ボランティア、男性、女性、そして子どもたちだ。

心理社会面の支援にはさまざまな形があり、特に子どもたちは絵を描いたり、踊ったり、音楽を聴いたりといった活動で心理面の効果が表れることが多い。

現地団体が行う心のケアのプログラムに参加する子どもたち  © Mariana Abdalla/MSF
現地団体が行う心のケアのプログラムに参加する子どもたち  © Mariana Abdalla/MSF

再び立ち上がるために

イメジェ・イニシアティフが支援活動を行うアドゥヤマンのバシュプナル村(キュルム)やカヤテペ村(レズィプ)などの農村部では、ほとんどの家族が少なくとも1人を失いながら、何とか生活を立て直そうとしている。都市部から危険を逃れて来た親族を受け入れている家庭もある。
 
一方、都市部に残る人びとの間では、震災によって生じたニーズのため、複数の集団の間でこれまで以上に緊張が高まっている。被災の規模が大きいため、都市部における食料、水・衛生、テントなどの救援物資へのニーズは圧倒的に高い。そのような中、現地団体のヤルドゥム・コンボユは、MSFの支援を受け、公園や駐車場に設置された非公式の仮設キャンプにいる人びとへ物資の配布を行っている。

壊滅的な被害をもたらした地震の余波は、今後何年にもわたって人びとの生活に影を落とすと考えられる。MSFは現地の団体と協力して心理社会面の支援を行い、被災した人びとが再び立ち上がるために必要な強さと回復力を高められるよう支えていく。
 

被災した人びとの心のケアに当たる現地団体の心理療法士 © Mariana Abdalla/MSF
被災した人びとの心のケアに当たる現地団体の心理療法士 © Mariana Abdalla/MSF

MSFの支援先団体

イメジェ・イニシアティフ協会

トルコのイズミルに拠点を置く非営利団体で、共同作業による助け合いを重視するトルコ伝統の習慣「イメジェ」を中心に据えて活動。地域に根差したアプローチによる地域発展を重視し、震災後は救援物資の配布、弱い立場に置かれた人びとへの心理社会面の支援などを行っている。

マヤ・バクフィ

5歳から24歳までの子どもと若者とその保護者の心身と学びの発展に焦点を当てて活動。現在、被災者の対処能力を高めるための心理社会面の活動やイベントを行っている。長期にわたって被災地で対応する公務員の能力開発と健康促進活動も担っている。

ヤルドゥム・コンボユ

イスタンブールに拠点を置く緊急援助団体。災害などの危機に見舞われた地域で、医療、水と衛生、食料などの面で救援活動に当たっている。震災発生以来、カフラマンマラシュ、アドゥヤマン、ハタイ、ガジアンテプで活動。

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