暴力とコレラ:南スーダンを襲う紛争と感染症──影響は隣国エチオピアにも

2025年04月04日
コレラで重体となった子どもを抱く母親。さらなる治療を受けるため医療施設へと向かう=エチオピア、ガンベラ州 Ⓒ Metasebia Teshome/MSF
コレラで重体となった子どもを抱く母親。さらなる治療を受けるため医療施設へと向かう=エチオピア、ガンベラ州 Ⓒ Metasebia Teshome/MSF

南スーダンエチオピアの国境の両側で、人道危機が急速に進行している。激化する暴力や避難民の増加、コレラのまん延により、現地の人びとは危機的な状況に置かれており、国境なき医師団(MSF)は支援の拡大が急務だと訴える。

南スーダン北東部の上ナイル州で始まった政府軍と武装勢力の衝突は、いまや国内各地に拡大する危険性があり、国境を越えたエチオピアのガンベラ州ではすでに暴力の影響が広がっている。国連によると、3月に入ってから約1万人の避難民がエチオピアに逃れた。現地でいま何が起きているのか。南スーダン、エチオピアの両国で活動するMSFのチームが状況を伝える。

紛争によりコレラのまん延が悪化

「すでにいくつかの地域で、暴力がコレラのまん延を助長している状況を目の当たりにしています。この紛争が拡大すれば、国全体が前例のない人道的な大惨事に追い込まれる可能性があります」

南スーダンにおけるMSFの現地活動責任者を務めるザカリア・ムワティアはそう話し、続ける。

私たちは緊急に、すべての紛争当事者に対し以下を求めています。民間人、医療従事者、医療施設の保護を確保すること。また国際人道法に則り、医療・人道援助のための自由なアクセスの保証も重要です。

ザカリア・ムワティア 南スーダンにおけるMSFの現地活動責任者

南スーダンでは2024年から、国内各地でコレラの流行が深刻だ。上ナイル州から始まった直近のコレラの流行は、ジョングレイ州、大ピボール行政区、そして国境を越えてエチオピア西部のガンベラ州へと広がっており、MSFは急増する患者の治療にあたっている。

アコボにあるMSFのコレラ治療ユニット=南スーダン、ジョングレイ州 Ⓒ MSF
アコボにあるMSFのコレラ治療ユニット=南スーダン、ジョングレイ州 Ⓒ MSF


MSFは、南スーダンの上ナイル州において暴力で負傷した人びとの治療を行うとともに、ウラン、マラカル、レンクのコレラ治療施設を支援。ジョングレイ州では、MSFはランキエンとアコボで対応を行っている。アコボ郡病院にMSFが設置した100床のコレラ治療ユニットは、わずか2週間余りで300人以上の患者を治療した。またMSFは大ピボール行政区のピボールでも活動。3月初旬以降、MSFのチームは南スーダン全土で1000人以上のコレラ患者を治療し、暴力で負傷した30人以上の患者を受け入れている。

コレラ治療ユニットで朝の回診を行うMSFのチーム=南スーダン、ジョングレイ州 Ⓒ MSF
コレラ治療ユニットで朝の回診を行うMSFのチーム=南スーダン、ジョングレイ州 Ⓒ MSF


「商売道具や財産は、すべて燃えてしまいました。住んでいた家も含め、何もかもが焼失しました」

暴力により負傷し、ウランのMSF病院に入院したルアック・リエク・チュオルさんはそう語った。

影響は隣国エチオピアにも

エチオピアのガンベラ州では、MSFは保健省と協力し、3月上旬以降、マタール、モアン、ブルベイエにあるコレラ治療センターとコレラ治療ユニットで560人以上の患者を治療した。またMSFは経口補水施設を運営するほか、水と衛生、家庭訪問によるコレラの啓発、浄水を含む地域密着型の活動を実施し、5000人以上に支援を届けている。コレラの治療に加え、MSFのチームは南スーダンの戦闘で負傷した160人の患者のケアにもあたった。

コレラに関する情報や予防法を伝えるMSFの健康推進チーム=南スーダン、上ナイル州 Ⓒ MSF
コレラに関する情報や予防法を伝えるMSFの健康推進チーム=南スーダン、上ナイル州 Ⓒ MSF


「故郷のナーシルでは人が殺されています。だからここに来たのです」

エチオピアのブルベイエに到着した南スーダン人の女性はそう話す。

食べるものもなく、一休みできる場所に着くと子どもたちが病気になりました。すぐにかかれるような医療施設はありませんでした。

南スーダンから逃れた女性

南スーダンの暴力を逃れた数千人が、安全を求めて国境を越えており、状況は急速に悪化している。ワントア郡では、ほぼ一夜にしてブルベイエに新たな野営地が出現し、地元当局によると新たに6500人以上が到着したという。その多くは女性、子ども、高齢者で、人びとは何日もかけてたどり着いていた。

南スーダンの紛争から逃れた親子。母親は息子をMSFのコレラ治療ユニットに連れてきた=エチオピア、ガンベラ州 Ⓒ Metasebia Teshome/MSF
南スーダンの紛争から逃れた親子。母親は息子をMSFのコレラ治療ユニットに連れてきた=エチオピア、ガンベラ州 Ⓒ Metasebia Teshome/MSF


「避難してきた人びとは、ほとんど何も持たずにガンベラにたどり着いています」

エチオピアにおけるMSFの現地活動責任者を務めるジョシュア・エクリーは、そう話す。

MSFはコレラの流行に対応し、疲れ果てひどく悪い状態で到着した人びとにケアを提供しています。大きなニーズがあり、追加支援がなければ状況はひどくなるでしょう。

ジョシュア・エクリー エチオピアにおけるMSFの現地活動責任者

資金削減による医療活動の閉鎖も

この危機は、南スーダンとエチオピアが、拠出国による大幅な資金削減に直面している際に起きた。それには最近の米国際開発局(USAID)の対外援助の凍結も含まれる。MSFは米国政府からの資金提供を受けていないが、医療・人道分野における援助の削減は、このような危機に対応する他団体の対応を著しく低下させることになる。

「ジョングレイ州のアコボなどでは、資金削減によって重要な医療サービスの閉鎖などが起きており、コレラ対応に大きな影響が出ています」

南スーダンでの現地活動責任者、ザカリア・ムワティアそう話す。

米国の資金削減を受け、すでに多くの移動診療の活動が閉鎖されました。またコレラ治療ユニットを含む医療施設を支援していたいくつかの団体は、すべての活動を停止しています。これは全国的に起きている現象の一部です。

ザカリア・ムワティア 南スーダンにおけるMSFの現地活動責任者

コレラ治療ユニットで患者の容体を確認するMSFの医療スタッフ=エチオピア、ガンベラ州 Ⓒ Metasebia Teshome/MSF
コレラ治療ユニットで患者の容体を確認するMSFの医療スタッフ=エチオピア、ガンベラ州 Ⓒ Metasebia Teshome/MSF

南スーダンの医療体制は、慢性的な資金不足、スキルを持つ医療スタッフ、医薬品および医療物資の不足に直面しており、緊急事態への対応は限られている。またすでに自国の医療・人道ニーズへの対応に苦慮している同国は、隣国スーダンで続く内戦を逃れてたどり着いた100万人以上の人びとによって、さらなる負担を強いられている。安全な水の供給、コレラの集団予防接種の実施、コレラ患者と外傷患者への対応強化を行うためには、緊急の支援が必要だ。

「コレラの治療サービスの中断は、経口予防接種を支援する関係者の対応低下と相まって、さらなる感染拡大のリスクを高めています。危機が深刻化する中、MSFは資金拠出国に対し、南スーダンと隣国エチオピアにおける緊急対応に迅速に資金を配分するよう要請します」と先ほどのザカリア・ムワティアは語る。

南スーダンからエチオピアへと広がったコレラの流行に対応するMSF=エチオピア、ガンベラ州 Ⓒ Metasebia Teshome/MSF
南スーダンからエチオピアへと広がったコレラの流行に対応するMSF=エチオピア、ガンベラ州 Ⓒ Metasebia Teshome/MSF

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