南スーダン:暴力激化で難民急増──コンゴ北部へ3万人超が避難、医療援助も限界に
2025年08月15日
2025年2月に戦闘が始まってから治安は悪化し、これまでに3万3000人以上が南隣のコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)北部へと逃れた。ただ、人びとが逃れた先のコンゴも長年の紛争にさらされ、医療や生活環境は全く整っていない。限られた物資や医療体制が、急増する避難民によってひっ迫している。
国境なき医師団(MSF)は5月、コンゴ北部で緊急援助を始めた。移動診療所や地域ケアセンターの設置、栄養失調の治療などを通じて、深刻化する人道危機に対応している。
襲撃に遭った人びと
南スーダンから避難したアタイ・ローズさん(30)は、攻撃が始まった当時の状況をこう振り返る。
ローズさんはコンゴとの国境に近い、南スーダン中央エクアトリア州のモロボ郡パニュメに住んでいた。ここでは2025年4月に攻撃が始まり、ローズさんは3人の子どもを連れて脱出。国境を越え、コンゴ北東部イトゥリ州にある町アディへと逃れてきた。

大きな道を通ると武装勢力に見つかって殺される危険性があるため、やぶの中を3日間歩き続けたという。
「女性は少女か既婚かを問わずレイプされます。荷物を奪われそうになった時、拒否すると射殺されます」とローズさんはうなだれる。
パニュメは、そういう場所になってしまったのです。
南スーダン難民 アタイ・ローズさん
同じ南スーダン難民のヴィオラ・カニさんも故郷で襲撃に遭い、きょうだい、子ども4人とコンゴに避難してきた。「人びとは殺され、ヤギや牛、鶏といった家畜から服に至るまで全てのものが奪われました」と証言する。
和平から再び戦火へ
暴力は国内各地へと拡大し、中央エクアトリア州の武装勢力も巻き込む事態に発展。2025年1~3月だけで730人以上の民間人が死亡するなど、内戦終結以降で最も深刻な状況と化している。
情勢の悪化によって、元々整っていなかった公共サービスは完全に崩壊。医療施設への攻撃も相次いだことで、MSFは南スーダンの病院2カ所を閉鎖し、活動縮小も余儀なくされた。

避難民の人数について、国連は上半期で推定30万人に及んだと推計する。このうち、半数近い12万5000人がコンゴ、スーダン、エチオピア、ウガンダなどの周辺国へ逃れたという。
コンゴの政府機関であるコンゴ難民委員会によると、4月以降だけで南スーダンから3万3000人以上が国内に避難した。
コンゴに到着した人びとの多くは、ローズさんのようにモロボ郡から逃れてきた。一連の戦闘激化により、モロボは特に不安定な治安となっているためだ。
医療従事者が武装勢力に拉致される事案も増えている。中にはMSFのスタッフも含まれ、MSFはモロボと、隣接するイエイリバーの両郡での活動を全て停止した。
逃れた先でも
ただこのイトゥリも、数十年にわたって紛争下にある。暴力や民族間の対立が続いており、武装勢力が各地で活動している。難民が来る前から国境地帯の保健体制はひっ迫しており、ほとんど機能していなかった。
コリンズ・セメドゴさんはMSFがこの地域で活動していると聞いて、家族を連れて南スーダンからイトゥリまでやってきた。

だが避難生活は苦しく、「食べ物、医療、教育の三つが足りていません」とうなだれる。地元の住民が食べ物を分けてくれることがあり、何とか日々をしのいでいるという。
MSFが国境付近で診察した生後6カ月〜5歳未満の子どものうち、6%が重度の栄養失調だった。アディでMSFの医療活動を統括する医師、レオナール・ワビングワは「これは深刻な公衆衛生上の課題だ」と指摘する。
始まった緊急援助
MSFは急増する難民への対応として、5月から緊急援助を始めた。二つの移動診療チームを整備し、6カ所の地域ケアセンターを開設した。
活動開始から2カ月足らずで、診察件数は3000件を超えた。週平均は370件以上で、いまなお増加傾向にある。
症例の半数以上はマラリアで、次いで呼吸器感染症、急性胃腸炎が多い。MSFは5歳未満の子どもに栄養失調の検査をして、必要な場合は治療用の栄養食を提供している。
性暴力の被害者もこれまで複数回にわたってケアしました。中には12歳ほどの子どもたちもいます。
アディでMSFの医療活動を統括する医師 レオナール・ワビングワ

また、難民の間ではしかの発生も報告されている。MSFは流行を防ぐため、8月から子ども6万2000人を対象に大規模な予防接種を始める。並行して、乳児520人と妊婦310人にも定期接種をする計画だ。
「南スーダンでは情勢の不安定さから、定期予防接種が中断されています。命からがら逃げるような状況で、予定通りに診察を受けることは難しいのです」
アディでMSFのプロジェクト・コーディネーターを務めるフェリシアン・ルイテオはこう語り、「感染症が流行する危険性は非常に高く、迅速な対応が欠かせません」と強調する。
MSFは生活環境を改善するため、インフラ整備にも取り組んでいる。
8月中旬までに6カ所の給水所と200基のトイレ、シャワーを設置するほか、蚊帳やせっけん、バケツなどの必需品をまとめたセット約6000個を、特に支援が必要な世帯に配る計画を進めている。
足りない支援の手
ただ、コンゴには今も毎日のように新たな難民が流入しており、MSFの対応能力は限界に近づいている。
このまま他の組織から支援を得られなければ、さらに多くの命が失われる恐れがあります。
現地のMSFプログラム責任者 アシヤット・マゴメドワ
この地域を統括するMSFのプログラム責任者、アシヤット・マゴメドワはこう警鐘を鳴らす。現地で活動する国際機関・団体はごくわずかなうえ、MSFと同じ幅広い医療サービスを提供している組織は他にないためだ。

南スーダンでMSFの活動責任者を務める医師のフェルディナン・アッテも「状況は危機的だ」と警告する。
「南スーダンで活動を再開するには、支援を必要とする人びとのもとへ安全に行ける環境を確保しなければなりません。また医療施設を含め、民間人や生活基盤が守られることも不可欠です」と訴える。
人びとに医療を届ける意志にいまも揺るぎはないですが、安全が確保されない状況でスタッフを働かせるわけにはいかないのです。
南スーダンのMSF活動責任者 フェルディナン・アッテ
“戻る”ということは“死ぬ”ということです。どうしてそのような場所へ、戻れるでしょうか。
南スーダン難民 ヴィオラ・カニさん
