目の前で母を殺され、少女はレイプされた──スーダン・ダルフール地方の性暴力に終止符を

2025年10月08日
スーダン・北ダルフール州タウィラ周辺。多くの人が攻撃を逃れタウィラにたどり着いている=2025年4月20日 Ⓒ Jérôme Tubiana
スーダン・北ダルフール州タウィラ周辺。多くの人が攻撃を逃れタウィラにたどり着いている=2025年4月20日 Ⓒ Jérôme Tubiana

※この記事には性暴力被害を描写した内容が含まれています。

内戦の続くスーダン・北ダルフール州で、性暴力の被害が深刻化している。現地で活動するMSFの助産師は、ある少女の壮絶な体験を語った。母親が加害者の命令で車に轢かれて殺されるのを目撃した直後、繰り返しレイプされたという。

少女と母親は、北ダルフールの州都エル・ファシール近郊にあるザムザム・キャンプから、タウィラへ逃れようとしていた。エル・ファシールは、準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」とその同盟勢力によって1年以上にわたり包囲され攻撃を受けており、2025年4月13日には、RSFがザムザム・キャンプを襲撃し、約38万人がタウィラへと逃れる事態となった。わずか5週間の間に、300人以上の性暴力の被害者・生存者が、MSFが支援するタウィラの医療施設でケアを受けている。

忘れられない日々

2025年4月──それはアンナの記憶に深く刻まれている。MSFで18年の経験を持つ助産師のアンナは、ある日救急外来に急行するよう呼び出された。ザムザム・キャンプが襲撃された直後、性暴力の被害を受けた人びとが次々と避難してきていた。

「忘れられない臭いがしました」

アンナはそう振り返る。「部屋は叫ぶ女性たちであふれていて、その多くがレイプ被害を受けて治療を求めていました。そしてその中心に、静かに座り、私の目をほとんど見ようとしない少女がいたんです」

「何が起きているの?この臭いは何?」とアンナが尋ねたとき、ある女性が「死体があるんです」と答えたという。

その瞬間、少女がようやく顔を上げました。「大丈夫?」と声をかけると、彼女は「一緒に来てくれますか、話したいことがあります」と言ったのです。

アンナ MSFの助産師

民族を理由にした迫害と暴力

少女はアンナに、加害者が最初に「ザガワ人かどうか」を尋ねてきたことを語った。

「違うと答えましたが、司令官はしつこく聞いてきました。母が私を守ろうとすると、彼は運転手に母を車で轢くよう命じ、母は私の目の前で即死しました。その後、彼は私をある場所へ連れて行き、何度もレイプしました」

加害者が他の人びとを襲いに少女のもとを離れたとき、運転手が少女を母の遺体と、共に逃げていた人たちのもとへ連れ戻したという。

私たちは母の遺体をロバに乗せ、タウィラへ向かって移動を続けたんです。

被害者・生存者の少女

2025年4月、準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」がザムザム・キャンプを襲撃し、約38万人がタウィラへと逃れた=2025年4月20日 Ⓒ Jérôme Tubiana
2025年4月、準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」がザムザム・キャンプを襲撃し、約38万人がタウィラへと逃れた=2025年4月20日 Ⓒ Jérôme Tubiana


2023年4月に内戦が激化して以来、マサリート人、ザガワ人、フール人などの非アラブ系住民は特に標的にされてきた。これらの人びとの多くは、20年前のダルフール紛争を生き延びた経験を持つ。

RSFは北ダルフールの州都エル・ファシール包囲し、ダルフール地方の大部分を掌握している。彼らは都市からの主要な脱出ルートを支配し、逃れようとする人びとを攻撃している。避難の途中でレイプや拷問、さらには殺害の被害に遭う人びとも少なくない。

2025年7月初旬に公開されたMSFの報告書『包囲、攻撃、飢餓:スーダン、エル・ファシールとザムザムにおける集団虐殺(Besieged, Attacked, Starved: Mass atrocities in El Fasher and Zamzam, Sudan)』(英文)は、エル・ファシールと周辺地域で民間人が直面している絶望的な状況を詳細に伝えている。

性暴力の被害者・生存者への支援強化を

2025年6月末までに、MSFは避難民キャンプ内の4つの地域拠点を通じて患者の紹介ルートを強化し、地域社会との連携をより深める体制を整えた。2025年1月から3月の間にタウィラの病院でケアを受けた性暴力の被害者・生存者はわずか9人だったが、4月から6月には121人に急増し、7月から8月には339人に達した。

紹介体制の強化が患者数増加につながった一因ではあるものの、これらの数字はケアへのアクセスが改善されたことを示すと同時に、性暴力が広範にまん延している深刻な状況を浮き彫りにしている。多くの被害者・生存者は、避難する途中で複数の武装した加害者から凄惨な暴行を受けたと証言している。ザムザム・キャンプ襲撃後も暴力は止まず、エル・ファシールおよびその周辺では毎週のように新たな暴力が発生しており、アブ・シューク避難民キャンプへの爆撃や襲撃も激しさを増している。タウィラには現在も新たな被害者・生存者がたどり着いている。

タウィラへと避難した人びと。4月のザムザム・キャンプ襲撃後も州都エル・ファシールおよびその周辺では暴力は止まずに続いている=2025年4月20日 Ⓒ Jérôme Tubiana
タウィラへと避難した人びと。4月のザムザム・キャンプ襲撃後も州都エル・ファシールおよびその周辺では暴力は止まずに続いている=2025年4月20日 Ⓒ Jérôme Tubiana


また助産師のアンナは、性暴力の傾向に変化が見られることを指摘する。

「4月と5月には、ほとんどの生存者が襲われてから72時間以内に治療を求めて来院した女性や少女でしたが、8月になると、地域拠点の支援を受けながら、より時間がたってから名乗り出るケースが増えてきました」

また、男性に対する性暴力がほとんど表面化していない現状については次のように話した。

偏見や恐怖によって多くの人が沈黙を強いられています。しかし、他の症状で診察に訪れた際の会話や相談の中に、性暴力が今も続いていることを示す兆しが見られるのです。

アンナ MSFの助産師

緊急の課題──ケアの拡充、保護措置、説明責任

2025年4月から8月の間、紛争により荒廃した北ダルフール州では医療へのアクセスに極めて大きな障壁があるにもかかわらず、600人以上の性暴力の被害者・生存者がMSFの支援する医療施設で治療を受けた。

ダルフールで起きている凄惨な暴力は、決して黙認されてはならない。事実の記録と迅速な対応が求められており、人道援助の資金拠出者、関連機関、すべての関係者は、性暴力の被害者・生存者に対する支援体制の再構築と拡充に直ちに取り組む必要がある。さらに、保護措置の強化と説明責任の徹底も急務だ。民間人は守られなければならず、性暴力の加害者はその行為に対して責任を問われなければならない。

「生存者には、医療ケアや心理社会的支援を含む、包括的で無償かつ迅速な支援が緊急に必要です」とアンナは語る。

ダルフールの生存者たちは、絶え間なく続く非道な暴力にさらされています。世界は決して目を背けてはなりません。

アンナ MSFの助産師

※安全上の理由により、仮名を使用

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