「医療空間の中立順守を」──ガザの命綱・ナセル病院で活動再開、国境なき医師団
2026年04月21日
支援の一部を中断していたパレスチナ・ガザ地区南部ハンユニスのナセル病院について、国境なき医師団(MSF)は、4月13日から主要な活動を再開した。
武装した覆面姿の男たちの出入りや患者の恣意(しい)的な拘束などを受け、MSFは1月20日から命に直接関わらない活動を中断。その後の関係当局の対応により、院内の状況が改善したと判断した。
「ナセル病院はガザの人びとにとって命を守るために欠かせない医療の拠点で、民間の医療施設として保護されなければなりません」
そう語るMSF緊急対応責任者ミシェル・ラシャリテが、活動再開の理由を説明する。
支援再開の理由
──なぜMSFはナセル病院において主要な活動を再開したのですか。
そのうえで、関係当局の対応により、スタッフの安全を守りつつ、私たちの活動原則に沿った医療を届けられる最低限の環境が整ったと判断しました。
MSFは、ナセル病院で外来診療、理学療法、3Dプリンター製の特別なマスクを用いたやけど対応、心のケアなどの支援を中断して以降、院内の状況が明らかに改善してきたことを確認しています。
MSFは1月20日、スタッフが現場で看過できない複数の事案を目の当たりにしたことを受けて、こうした活動をすべて止めるという苦渋の決断を下しました。目の当たりにしたのは、覆面姿の武装した男たちの存在に加え、威圧行為、患者の恣意的な拘束、武器が持ち込まれた疑いのある事案です。
いずれも決して容認できるものではなく、MSFは関係当局に対して強く申し入れてきました。
現在、MSFは活動を再開しています。その背景には、いまなお極めて大きい医療ニーズに加え、院内の管理体制が改善したことがあります。武器や武装した人物の立ち入りを防ぐための措置も講じました。
いまのガザでは、十分に機能している医療施設そのものがごく限られています。そのため、切迫したニーズが一部の病院に集中し、患者、スタッフ共に深刻な混乱と緊張のなかで病院に来る状況です。
こうした状況では、院内の混乱を抑え、出入りをある程度まで管理することは避けられません。これは、治療を受ける人を選別するためではなく、誰に対しても安全かつ公平に医療を届けられる環境を保つためです。
警察や治安要員が施設の周辺や内部にいること自体は、ほかの地域でも起こりうることです。
しかし、それはMSFが医療施設内で武装した人びとの存在を容認していることを意味しません。病院は守られるべき中立の場所であり、誰もが安心して利用できなければなりません。この原則に変わりはなく、MSFは今後も状況を注意深く見ていきます。
再開した活動内容
──MSFはどの活動を再開したのですか。
MSFはこの間も、ナセル病院で患者の命に関わる活動は続けてきました。例えば、骨折、外傷、やけどの患者を受け入れる入院病棟と外科部門です。
そのうえで、活動を続けるための条件が整ったと判断し、外来診療、理学療法、作業療法、3Dやけど対応、心のケアも再び始めることにしました。
現在、MSFは外科入院病棟の計94床を支えており、このうち23床はやけど患者のためのベッドです。
病院の中立性を守るため
──病院が軍事利用されない中立の場所であることを、どのように維持していくのでしょうか。
それでも、現場にどのようなリスクがあるのかを継続的に見極めています。保健省と協議を重ね、公平な医療を提供できる環境であるか、そして患者とスタッフの安全が保たれているかどうかを確認しています。これは、私たちが活動するすべての現場で実施していることです。
ただし、MSFがナセル病院で活動を続ける前提としているのは、この病院があくまで民間の医療施設として機能していることです。地元保健省は、私たちが安全に患者の治療を続けられる環境を維持すると約束しています。
ナセル病院は、ガザの人びとにとって命を守るために欠かせない医療の拠点です。そして、地元保健省が運営する病院として、いまなお機能している数少ない施設の一つです。国際人道法に照らしても、民間の医療施設として尊重され、保護されなければなりません。
私たちの訴えが、攻撃を正当化する口実にされてはいけません。
イスラエルは「病院が指令拠点や軍事目的に使われている」と主張して、ガザの医療体制を破壊してきました。しかし、MSFはそのような事実を一度も確認していません。
ナセル病院は、イスラエルの攻撃対象にされてはいけません。同時に、ハマスを含むいかなる武装勢力も、この病院を軍事目的に使うことは許されません。
数え切れないほど多くのパレスチナの人びとの命が、この病院にかかっているのです。




