ヨルダン川西岸地区:イスラエルが進める「民族浄化」──南部に家屋の85%以上が破壊された村も

2025年10月20日
パレスチナ・ヨルダン川西岸地区の南部にあるハーレト・アタバア村。一帯がイスラエル軍に破壊され、国境なき医師団(MSF)のチームは必要な援助の調査に訪れた=2025年9月22日 Ⓒ MSF
パレスチナ・ヨルダン川西岸地区の南部にあるハーレト・アタバア村。一帯がイスラエル軍に破壊され、国境なき医師団(MSF)のチームは必要な援助の調査に訪れた=2025年9月22日 Ⓒ MSF

パレスチナ・ヨルダン川西岸地区の南部にあるマサーフェルヤッタ地域では、イスラエルによる家屋破壊と入植者の暴力が相次いでいる。

ある村では、85%以上の家や避難所ががれきと化した。住民たちは洞穴での生活を余儀なくされ、電気も水も失った中で日々の脅威にさらされている。医療、衛生、食料などの支援が急務だが、何よりも人びとが求めているのは「保護と尊厳」、そして「自分たちの土地にとどまる権利」だ。

国境なき医師団(MSF)の人道問題マネジャー、フレデリケ・ファン・ドンゲンは「この地域で起きていることは、パレスチナ人を強制的に排除する民族浄化の一環だ」と警鐘を鳴らしている。

MSF人道問題マネジャー フレデリケ・ファン・ドンゲンからの報告

繰り返される破壊、奪われた日常

ヨルダン川西岸地区の南部にあるヘブロン県。
 
県内のマサーフェルヤッタ地域にあるハーレト・アタバア村では、住民のパレスチナ人たちが日々、イスラエル軍の保護下にある入植者らから嫌がらせや脅迫、暴力行為を受けています。

多くの住民は家を破壊され、十分な住まいや水、電気のない苦境に置かれています。

2024年にMSFが撮影していたハーレト・アタバア村の家。その後、イスラエル軍に破壊され現在はなくなっている。建物には「ここはあなたの家と同じ“家”なのです」と英語で大きく書かれていた Ⓒ MSF
2024年にMSFが撮影していたハーレト・アタバア村の家。その後、イスラエル軍に破壊され現在はなくなっている。建物には「ここはあなたの家と同じ“家”なのです」と英語で大きく書かれていた Ⓒ MSF


地元住民の話によると、2025年2月以降、イスラエル軍は4度にわたる大規模な破壊行為に及びました。
 
家屋や避難所のうち85%以上ががれきと化し、家族たちは洞穴へ移り住まざるを得なくなりました。

しかしそこにも入植者がやってきて、襲撃される被害に遭っています。

その上、イスラエル軍は数週間前にも再び戻ってきて、避難所7カ所、テント9カ所、洞窟6カ所、そして14基以上の水タンクと村の電力システム全体を破壊しました。
 
住民たちは、身を寄せられる安全な場所をほぼ失いました。この村に残っているのは、学校とわずか3軒の家だけです。

イスラエル軍によって一帯が破壊されたハーレト・アタバア村。現在、学校などの数カ所しか身を寄せられる建物は残っていない=2025年9月22日 Ⓒ MSF
イスラエル軍によって一帯が破壊されたハーレト・アタバア村。現在、学校などの数カ所しか身を寄せられる建物は残っていない=2025年9月22日 Ⓒ MSF


こうした壊滅的な状況にもかかわらず、ここに暮らす約100人はいまも立ち退きに抵抗を続けています。
 
ある住民は「入植地が日ごとに拡大しており、少しずつ村に近づいてきています」と不安を口にしました。

「私たちは難民にならない」──土地に残る住民たち

MSFのチームはハーレト・アタバア村を訪問。聞き取りの結果、住民たちが医療や心のケア、衛生用品、食料、そして水・衛生サービスを求めていることが分かりました。

しかし、人びとが何よりも強調したのは、「保護」「尊厳」「生活基盤」の必要性でした。

がれきの山があちこちにあるマサーフェルヤッタで、現地に必要な支援を調査するMSFのチーム=2025年9月22日 Ⓒ MSF
がれきの山があちこちにあるマサーフェルヤッタで、現地に必要な支援を調査するMSFのチーム=2025年9月22日 Ⓒ MSF


MSFはマサーフェルヤッタ周辺にある計5カ所の村で、移動診療を通じて基礎医療、心のケア、心理社会的支援を届けています。
 
ある住民の女性はMSFのチームにこう証言しました。

1カ月前、9人の入植者たちが私の家に押し入りました。そのとき家には、私と4人の子どもしかいませんでした。彼らは金属棒で子どもたちを殴り始め、生後3カ月の乳児の頭も殴ろうとしました。私と乳児は催涙スプレーを噴射され、かばおうとした私は何度も殴られて手を骨折しました。13歳の子どもは腕の骨を折り、3歳の子どもは頭を骨折しました。乳児は病院に運ばれましたが、嘔吐(おうと)が続いているため現在も経過観察中です。

イスラエルの入植者に襲われた女性

ハーレト・アタバア村ではイスラエル軍の破壊行為によって一帯の家ががれきと化した=2025年9月22日 Ⓒ MSF
ハーレト・アタバア村ではイスラエル軍の破壊行為によって一帯の家ががれきと化した=2025年9月22日 Ⓒ MSF


マサーフェルヤッタで起きていることは、この地域からパレスチナ人を強制的に排除するための「民族浄化」の一環です。
 
しかし、繰り返される破壊、攻撃にもかかわらず、誰ひとりとして村を離れていません。住民たちは強く訴えます。

「自分たちの土地で、決して『難民』にはならない」と。

2024年にハーレト・アタバア村で撮影された家。建物には「ここは家族の暮らす場所で、攻撃の対象ではない」と英語で書かれていたが、イスラエル軍に破壊されて現在はなくなっている Ⓒ MSF
2024年にハーレト・アタバア村で撮影された家。建物には「ここは家族の暮らす場所で、攻撃の対象ではない」と英語で書かれていたが、イスラエル軍に破壊されて現在はなくなっている Ⓒ MSF

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