【写真で見るガザ2年】レンズがとらえた子どもたちの日常:栄養失調・心の傷編
2025年09月30日
パレスチナ・ガザ地区での紛争激化から2年。最も弱い立場にある子どもたちは、今なお厳しい現実の中にいる。栄養失調、攻撃による負傷、心の傷、そして劣悪な生活環境──。ガザの子どもたちは日々、こうした過酷な「日常」に直面している。
この記事では、国境なき医師団(MSF)が現地で撮影した写真を通じ、ガザの子どもたちの現状を2回にわたって伝える。第1回は栄養失調と心の傷に焦点を当て、紛争が子どもたちの心身に与えている影響を考える。
※第2回「攻撃による負傷・生活環境」は10月2日公開予定
※第2回「攻撃による負傷・生活環境」は10月2日公開予定
栄養失調:過去最多の患者数
紛争の激化以来、栄養不足は深刻化し、特に2025年6月以降は栄養失調の患者数が急増している。
2025年8月9日現在、ガザ市で栄養失調としてMSFに登録されている患者は1599人に上り、5月末から2カ月あまりで5倍に増加。そのうち672人は5歳未満の子ども、その9割は生後6~23カ月の乳幼児だった。この数はMSFがこれまでに確認してきた中で最多だ。
背景には、イスラエル軍によるガザの封鎖がある。食料、清潔な水、医薬品、そして援助物資の搬入が厳しく制限されているのだ。この「意図的な飢餓」によって、人びとの命と健康はかつてない危機にさらされている。
5人に1人が栄養失調

MSFの診療所を訪れた1歳の男の子。重度の急性栄養失調に陥っており、胸部には湿疹も見られる。家族は度重なる避難を強いられ、食料や衛生用品を購入する余裕はない。
ガザ市と南部ハンユニスで、MSFが子どもを対象に行っているスクリーニングでは、約20%──つまり5人に1人が、中程度または重度の急性栄養失調であることが明らかになった。この数値は、緊急事態とされる基準値(15%)を大きく上回っている。
幼少期の栄養失調は、身体的・認知的発達に生涯にわたる悪影響を及ぼし、学習能力、生産性、健康を損なう可能性がある。こうした損失は、後からどれほど食料援助を行っても取り戻せない。その影響は世代を超えて広がり、地域社会全体の回復力や持続的な再建を妨げる。
影響は母親や妊婦にも

栄養失調の診察を受けるため、ガザ市内のMSFの診療所で順番を待つ1歳の男の子とその母親。母親は妊娠8カ月で、自身も栄養失調に陥っている。
このように、栄養失調は母親や妊婦にも広がっている。MSFがガザ市で実施している栄養失調プログラムでは、登録者の半数以上が妊娠中および授乳中の女性だ。妊娠中の栄養失調は、早産などの合併症のリスクを高める可能性もあり、母子ともに命に関わる深刻な問題となっている。
与えられるのは「水」だけ

ガザ市内の病院では、栄養失調の診察を受けるために親子が長い列を作っている。彼らの哺乳瓶に入っているのは水だ。
生後8カ月の赤ちゃんを抱いた母親は言う。
水をミルクだと思い込ませて飲ませないと、眠ってくれないんです。他に与えられるものがないので、仕方ありません。
栄養失調は単に食べ物が足りないのではなく、命を脅かす病態だ。回復には時間がかかるため、もし今ガザに大量の食料が届いたとしても、この危機がすぐに終息することはない。命を守るには、栄養治療食などを用いた専門的な治療へのアクセスが不可欠だ。
心の傷:深く刻まれる「見えない傷」
攻撃を受ける、自宅が破壊される、家族の投獄や殺害を目の当たりにする──ガザでは、こうした過酷な体験によって、多くの子どもたちが心的外傷後ストレス障害(PTSD)や急性ストレス症候群など、深刻な心の傷に苦しんでいる。
MSFはガザ市内や西部マワシ地区などで、子どもたちが安心して感情を表現できる心のケアのプログラムを実施している。遊びや対話を通じて、子どもたちが「見えない傷」を乗り越えられるよう、心理士が継続的な支援を行っている。
悪夢や恐怖に揺れる幼い心

ガザ地区南部ハンユニスのMSF施設で行われたレクリエーション活動で、絵を描く避難民の子どもたち。
MSFの心理士によると、過酷な状況を目の当たりにしてきた子どもたちには、悪夢、夜尿症、不安、恐怖などの症状が見られるという。
MSFはまた、母親たちへの心理教育も実施し、子どもに起こり得る反応やその対処法を伝えている。
心の痛みに寄り添う場所

心のケアの活動の一環として、MSFがガザ地区南部ラファの診療所で開催した「子どもカーニバル」。さまざまなアクティビティを通して、子どもたちは心の痛みを癒し、複雑な感情に向き合う方法を学ぶ。
「安心して、前向きに気持ちを表現できる場を作ることが私たちの役割です」とMSFの心理士は言う。
子どもたちにとって最大の課題は、『安全な場所がない』ということ。停戦がなければ、彼らがこの状況を乗り越えるのは非常に難しいでしょう。
望むのは「普通の日常」

MSFが行った心のケアのイベントで、願い事を壁に書く3人の少女。
学校に戻れますように、家に帰れますように、清潔なマットレスで眠れますように、友達や親戚、愛する人たちに会えますように、紛争が終わりますように──どれも「普通の日常」を望む声だ。
「思春期は人格やアイデンティティが形成される大切な時期です」とMSFの精神科医は言う。
そんな若者たちにとって、悲劇的な出来事に遭うことは、厳然たる苦痛以外の何ものでもありません。彼らの心の傷を癒すには、時間をかけたケアが必要です。
第2回は攻撃による負傷、そして、ガザの子どもたちが置かれている生活環境について伝える(10月2日公開予定)。