ガザ市攻撃はパレスチナ人に対する「死の宣告」──退避要求の即時停止と停戦、そして命をつなぐ援助を

2025年09月12日
ガザ市は攻撃が激化し、度重なる退避要求が出されているが、避難できない状況にある人びとも多くいる=2025年 © MSF
ガザ市は攻撃が激化し、度重なる退避要求が出されているが、避難できない状況にある人びとも多くいる=2025年 © MSF

パレスチナ・ガザ地区の中心都市であるガザ市が、深刻な人道危機に直面していることは明らかだ。イスラエル軍による新たな攻撃が激化し、人びとは限界にまで追い込まれ、かろうじて残されている医療の存続すら脅かされている。
 
イスラエル軍は9月9日、ガザ市内の住民に対しガザ地区南部へ即時退避するよう要求 した。 しかし国境なき医師団(MSF)は、重篤な患者や新生児を含む推定100万人もの人びとを、ガザ市から強制的に移動させることは不可能だと警告している。これはパレスチナ人に対する死刑宣告に等しい。

水も安全もない避難生活

イスラエル軍による激しい爆撃と地上攻撃により、多くのパレスチナ人が命を落とし、自宅や避難所から何度も追放されている。これは、MSFが以前ガザ地区南部のラファで目撃した地上侵攻を再現しているかのようだ。
 
「2023年以降、11回以上も避難を強いられているMSFの同僚もいます」と、ガザのMSF緊急コーディネーターであるジェイコブ・グレンジャーは言う。
 
爆撃が継続する中、避難した人びとが逃げ込んだ場所さえ標的になることも多く、仮設の避難所ももはや安全とは言えない。現在、100万人もの人びとがガザ地区のわずか15%の地域に押し込められており、水と衛生のシステムの約90%が破壊されたことで状況はさらに悪化している。

MSFはガザ市内での給水活動を続けていますが、貯水施設が失われた今、イスラエル軍が飲料水の供給を不可能にすれば、人びとは数日以内に命を落とすことになります。

ジェイコブ・グレンジャー ガザのMSF緊急コーディネーター

また、過密で不衛生な生活環境により、急性下痢症などの感染症も流行している。

ガザ市にあるテントで生活する少年=2025年 © MSF
ガザ市にあるテントで生活する少年=2025年 © MSF

崩壊寸前まで追い込まれる医療

イスラエルはガザの医療体制を意図的に狙った攻撃も行っており、病院の半数以上が機能停止に追い込まれている。わずかに稼働を続ける病院も攻撃の対象となり、崩壊寸前の状態で活動を続けている。
 
病床使用率はアハリ病院で300%、シファ病院で240%、ランティシ病院で210%に達した。また、ガザ市での戦闘激化により、ガザ地区で部分的にでも機能している18の病院のうち11施設が閉鎖の危機に瀕しており、その他の医療施設も同様の状況にある。

さらに、ガザ保健当局は、必須医薬品の半数以上がすでに在庫切れとなっていると報告している。

医療スタッフは繰り返される攻撃の中で、自らも殺害、拘束、脅迫の危険にさらされている。MSFの医師の1人は、正式な罪状も示されないまま、現在も拘束された状態が続いている。
 
MSFが支援するガザ市内の医療施設では、負傷者の数が増加し、けがの程度も深刻化している。集中治療を必要とする患者が病院の閉鎖によって避難を余儀なくされれば、命を落とす可能性がある。また、障がいのある人びとや、病気・負傷によって移動が困難な人びとは、避難すらままならない状況に置かれている。

イスラエル軍は9月9日、ガザ市に住む100万人に退避要求を出した=2025年 © MSF
イスラエル軍は9月9日、ガザ市に住む100万人に退避要求を出した=2025年 © MSF

封鎖がもたらす飢餓と死

ガザ地区ではまた、イスラエルの封鎖によって飢饉(ききん) が発生している。食料、清潔な水、医薬品、そして援助物資の搬入が厳しく制限されていることで、急性栄養失調の発症率が急激に上昇している。
 
イスラエル軍は「ガザ人道財団(GHF)」が管理する食料配給所へも攻撃を加えており、物資を求めて並ぶ人びとにも命の危険が及んでいる。MSFの診療所では過去数カ月にわたり、こうした攻撃によって負傷した多くの人びとの治療にあたっている。

ガザ市で避難生活を送る人びと=2025年9月4日 © Ibrahim Nofal/ Photographer
ガザ市で避難生活を送る人びと=2025年9月4日 © Ibrahim Nofal/ Photographer

武器供与の停止と国際的圧力が急務

イスラエル軍の目的は、ジェノサイド(集団殺害)、民族浄化、そして人間が生きることのできない環境を作り出すことで、パレスチナ人をガザ市から追い出すことだ。
 
安全な場所はどこにもなく、援助物資は極めて少量しか届けられず、それを入手するルートも人びとにとって非常に危険なものになっている。そして、重要なインフラの破壊は、意図的かつ継続的に行われている。

MSFは強制的な退避要求の即時停止、恒久的な停戦、そして大規模な援助物資の搬入を強く求める。また、医療施設の保護と人道援助に携わる関係者の安全な移動の確保を訴える。
 
ガザ地区とそこに暮らす人びとの生存を脅かす体系的な破壊行為は、今すぐに終わらせなければならない。MSFはイスラエルの同盟国に対し、イスラエルへの武器供与を直ちに停止し、攻撃を止めるための圧力を強化するよう求める。
 
緊急かつ抜本的な対応がなければ、ガザは完全に壊滅する恐れがある。

ガザ市内の沿岸道路近くにある難民キャンプ=2025年9月4日 © Ibrahim Nofal/ Photographer
ガザ市内の沿岸道路近くにある難民キャンプ=2025年9月4日 © Ibrahim Nofal/ Photographer

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