イスラエルはジェノサイドをやめよ──パレスチナ・ガザ地区で広がる死と破壊 国境なき医師団日本・会長の訴え
2025年09月11日
2023年10月以降、パレスチナ・ガザ地区ではイスラエル軍による攻撃が激化し、多くの民間人が命を奪われている。攻撃や封鎖により、ガザの人びとは食料や水など生きるために必要不可欠な暮らしの基盤すらも奪われ、深刻な危機に直面している。

Q1. ガザでは今、どのような状況が続いていますか。
ガザでは、2023年10月以降、イスラエル軍による激しい攻撃が続いています。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、2025年8月時点で、死者数は6万2000人を超え、うち1万8000人以上が子どもです。負傷者は15万人以上にのぼり、推定4万4000人の子どもが孤児となりました。
これらの数字は、まだ行方不明で確認されていない人びとを含んでおらず、ガザで広がる死と破壊の全体像を語るにはあまりにも不十分です。

ガザに「安全な場所」は存在しません。
イスラエル軍による意図的かつ無差別で容赦ない攻撃は、ガザの住民すべてを「正当な標的」とみなし、集団的懲罰を加えていることを物語っています。民間人への攻撃は繰り返され、爆撃によって地域一帯はがれきと化し、一世帯がまるごと消えてしまう──。そんな惨状が日常となっています。イスラエル軍は、病院、避難所、学校、浄水施設などの不可欠なインフラを次々と破壊しています。
パレスチナ人が生きるための暮らしの基盤そのものを、意図的かつ体系的に消し去ろうとしているのです。
Q2. ガザの医療体制とMSFの活動を教えてください。
2023年10月以降、ガザの医療体制は壊滅的な打撃を受け、ほぼ崩壊しています。現在ガザで完全に機能している病院は一つもありません。2025年8月9日時点で、36カ所ある病院のうち18カ所が部分的に稼働しているのみで、絶え間ない攻撃の中、必要とする人びとに医療が届かない状況が続いています。
また、イスラエル軍の攻撃により、およそ1580人の医療従事者が殺害されました。その中にはMSFの同僚12人も含まれています。

現在MSFはガザで、日本からの派遣を含む国際スタッフと現地スタッフ計1000人近くが医療援助にあたっています。
私自身も救急医・麻酔科医として、2023年11月から12月にかけてガザ南部のナセル病院で活動に従事しました。爆撃を受けて運ばれて来る人びとの命を必死でつなぎましたが、空爆などの攻撃の圧倒的な破壊力を前に援助の限界を感じる日々でした。

Q3.ガザの封鎖は、人びとにどのような影響を与えていますか。

MSFの診療所では、幼児と妊婦の4人に1人が栄養失調と診断されています。これは「意図的につくられた飢餓」と言える深刻な状況です。
食料、水、電力などの基本的な援助が断たれたことで、人びとの間には本来防げたはずの死や栄養失調、深い心の傷が広がっています。
イスラエル当局が搬入物資を完全に管理しているため、ガザの人びとの暮らしと命は、その裁量に委ねられているのです。こうした状況は、今を生きる人びとだけでなく、次世代にも深い影響を残すことになるでしょう。

Q4.「ガザ人道財団(GHF)」による食料配給は機能していますか。
人道援助が紛争の道具として利用され、人びとは「飢えるか撃たれるか」の選択を迫られているのです。MSFはこの仕組みの解体を求めています。

Q5. MSFがイスラエル当局の行為を「ジェノサイド」と表現するのはなぜですか。
私たちMSFがこれまでにガザで目撃してきたことは、イスラエル当局による「ジェノサイド」です。ジェノサイドとは、第2次世界大戦のホロコーストを繰り返してはならないと作られた国際条約で、特定の国民や民族、人種、宗教の集団を破壊する意図をもって殺害したり危害を加えたりする行為と定義されています。
「ジェノサイド」の認定は司法機関が行うものであるため、医療・人道援助団体であるMSFはこの言葉を使用することに慎重であり続けました。しかし2年近くにわたり、イスラエル軍による大規模な殺害や破壊、民族浄化をガザで直接目撃してきて、今、「ジェノサイド」と呼ばざるを得ないという決断に至りました。
イスラエル当局が、ガザからパレスチナ人を消し去る意図で残虐行為を行っているのは明らかです。
この状況に対し私たちは現場を目撃した者として声を上げる責任があると考えます。

Q6. MSFの訴えを教えてください。
私たちはこのように訴えます。
- ガザでのジェノサイドの停止
- 民族浄化と強制移動の停止
- 即時かつ持続的な停戦の実現
- ガザ封鎖の解除と独立した人道援助の大規模な実施
- 医療施設への攻撃の停止
- 飢餓を紛争の手段として使うことの禁止
- 「ガザ人道財団(GHF)」の解体
- ガザで治療を受けられない患者の緊急医療搬送(ただし人びとの「帰還の権利」を尊重し、ガザの医療体制の再建を前提とする)
- 各国に対し、民間人や患者を危険にさらすイスラエルへの武器輸出の停止
ガザで起きている悲劇は、政治的決断で止められるものです。