【動画】「医療が息絶えようとしている」──ガザ:崩壊する医療体制 医師が訴える壊滅的な状況とは

2025年08月19日
ベッドが満床のため、ナセル病院の廊下や屋外に身を寄せる患者=2025年8月12日 Ⓒ MSF
ベッドが満床のため、ナセル病院の廊下や屋外に身を寄せる患者=2025年8月12日 Ⓒ MSF

1年10カ月にわたるイスラエルの全面攻撃により、パレスチナ・ガザ地区の医療体制はほぼ崩壊している。医療施設および医療従事者は絶えず攻撃の対象となり、病院の半数が機能を停止、残る病院の稼働も一部にとどまっている。2025年3月以降、ガザはほぼ完全に封鎖されており、医療施設には物資が届かず、医療スタッフも十分な食料を確保できていない。一方、7月にはガザ全域の医療施設において、2023年10月以降で最多の入院患者数が記録された。

MSFガザ副医療コーディネーター、ムハンマド・アブ・ムガイシーブ Ⓒ MSF
MSFガザ副医療コーディネーター、ムハンマド・アブ・ムガイシーブ Ⓒ MSF
国境なき医師団(MSF)のガザ副医療コーディネーターを務める医師のムハンマド・アブ・ムガイシーブが、現地の壊滅的な医療状況について語り、改めて停戦を訴える。


(動画:1分59秒)

命を守るべき医療さえも

ガザの医療体制は、もはや機能をほとんど失い、壊れた抜け殻のようです。

ガザで、人びとが生きるためのすべてが計画的に破壊されていくなか、命を守るべき医療さえも押し潰されてしまったのです。

現在、私たちが医療施設で目にしているのは、これまでに見たこともないような患者の波です。空爆や爆撃による負傷者だけではありません。慢性疾患を抱えながらも、治療を受けられなくなった人びとも押し寄せています。この患者の急増は前例のない事態です。
 
そして今、私たちは新たな恐怖に直面しています。
 
イスラエルが「ガザ人道財団(GHF)」を通じて支援している「食料配給所」と呼ばれる施設です。本来、飢えに苦しむパレスチナ人を支援するはずの場所が、殺りくの場となっています。イスラエル軍が食料を求めて集まる民間人に発砲するため、負傷者は日々増え続けています。

MSFのマワシ診療所に運ばれるGHFの配給所で銃撃を受けた人びと=2025年8月3日 Ⓒ Nour Alsaqqa/MSF
MSFのマワシ診療所に運ばれるGHFの配給所で銃撃を受けた人びと=2025年8月3日 Ⓒ Nour Alsaqqa/MSF

過去最多の外傷患者

2025年7月、ガザのMSFチームは、数百人にのぼる外傷患者の治療を行いました。その数はガザでこれまでに記録された中で最も多いものです。

特に7月末の1週間だけで1200人が入院し、6月と比べ大幅に増加しました。世界保健機関(WHO)によると、7月、ガザにおける負傷者数は1万3500人に達し、2023年の紛争激化直後の最初の3カ月間以降、これほど多くの負傷者が報告されたのは初めてです。

MSFの診療所の中には、わずか数時間で200人以上を治療した後、午前9時30分には患者の受け入れを停止せざるを得ないところもあります。私たちがみることができる患者は、医療を必要としている人びとのほんの一部にすぎません。追加の医療物資やベッドもなく、スタッフもいなければ、より多くの患者に適切な治療を提供することは不可能です。

ナセル病院では多くの患者が屋外で治療を待つ=2025年8月12日 Ⓒ MSF
ナセル病院では多くの患者が屋外で治療を待つ=2025年8月12日 Ⓒ MSF

治療にたどり着けず命を落とす

多くの人びとが、私たちのもとにたどり着く前に命を落としています。また、過密状態の救急室や廊下で何時間も出血したまま横たわっている人びともいます。

他の場所であれば治療可能な傷も、ここでは命の終わりを意味するのです。

四肢切断、重度の感染創、粉砕骨折、動脈損傷——緊急手術と集中治療が必要な外傷患者が次々と運び込まれます。しかし、対応できる外科や集中治療部門は機能していません。ガザに残る病院では、鎮痛剤も麻酔薬も抗生物質も不足しています。骨折患者用の創外固定器も、手術器具も足りません。

多くの患者が運び込まれる中、ベットは足りず人びとは屋外で待つ=2025年8月12日 Ⓒ MSF
多くの患者が運び込まれる中、ベットは足りず人びとは屋外で待つ=2025年8月12日 Ⓒ MSF


すべての病院が患者であふれています。MSFの施設は100%以上の稼働率で運営されており、シファ病院をはじめとする保健省管轄の病院では200%を超えています。外科処置が必要な患者が非常に多く、手術を行う前に死亡する患者も少なくありません。

医師たちが1日1食で24時間勤務を続ける中、飢えもまたもう一つの脅威となっています。やけどや骨折、重度の外傷を負った患者にも、栄養価の低い少量の食事しか提供されていません。タンパク質や十分なカロリーが不足すれば、骨折ややけどは治らず、感染症は広がります。

675回目の訴え──即時停戦を

2023年10月7日以前から、ガザの医療体制はすでにぜい弱でした。現在、ガザの医療はかろうじて機能している状態です。しかし、圧倒的な患者数、供給網の崩壊、深刻化する飢餓、そして民間人への攻撃によって、その体制は完全に限界を超えています。

人びとの予防可能な死や永続的な障害が、私たちの日常となっています。

また、WHOによると、少なくとも1万4500人がガザでは受けられない専門医療のための緊急医療搬送を必要としています。しかし、イスラエル当局は、こうした医療搬送を円滑にするどころか、恣意的に阻止したり遅らせたりしています。

多くの患者が病院の廊下で治療を待つ=2025年8月12日 Ⓒ MSF
多くの患者が病院の廊下で治療を待つ=2025年8月12日 Ⓒ MSF


2023年10月に今回の紛争が激化してから、私は毎日同じことを訴えてきました。675回目となった今日、もう一度繰り返します。

即時停戦がなされず、持続的な医療と人道援助へのアクセスが確保されない限り、もはや救えるものは何ひとつ残らないでしょう。病院も、患者も、そして未来さえも──。

2025年8月13日 ムハンマド・アブ・ムガイシーブ

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