国境なき医師団、国連安保理で訴え 「ガザには即時かつ持続的な停戦が必要」
2024年02月29日![国連安保理でガザの状況を伝える、MSFインターナショナル事務局長のロックイヤー © UN Photo/Loey Felipe](/news/detail/headline/vcsnmk0000000lw0-img/MSB187232_Medium.jpg)
国境なき医師団(MSF)インターナショナル事務局長のクリストファー・ロックイヤーは2月22日、国連安全保障理事会において、パレスチナ・ガザ地区での即時かつ持続的な停戦の必要性を訴えた。安保理のガザに関する会合で演説したもので、医療施設、医療スタッフ、そして患者を明確に保護するよう求めた。
医療の提供が困難に
ガザでは10月7日以降、イスラエルによる絶え間ない爆撃と攻撃の中で3万人近い人びとが犠牲になった。さらに、人口の75%に当たる約170万人が強制的に移動させられていると推定される。安全も命も保証されない場所で、人びとはけがや病気に直面している。医療施設であっても攻撃の対象となり、医療を提供することも困難な状況だ。
さらに、ガザの医療現場の状況をこう報告した。
外科医たちは、患者の出血を止めるためのガーゼすら使い果たしています。一度使ったガーゼの血を絞り出して洗い、殺菌し、次の患者に再利用しているのです。
国際人道法を軽視
紛争が激化して以来、MSFはガザの9つの医療施設からの退避を余儀なくされ、5人のスタッフの命が奪われた。激しい爆撃や砲撃が続いているため、救命医療を提供すること、ましてやその規模を広げることはほぼ不可能だ。
「国際人道法を軽視した結果は、ガザの外にも波及するでしょう。それは、私たちの良心に重荷を背負わせ続けることになります。これは単なる政治的な不作為ではなく、政治的な共犯なのです」とロックイヤーは語った。
国連安全保障理事会におけるMSFインターナショナル事務局長 クリストファー・ロックイヤーの演説全文
地上侵攻という恐怖の中で生きている
![攻撃を受けたMSFの避難所=2024年2月21日 © Mohammed Abed](/news/detail/headline/vcsnmk0000000lw0-img/MSB186964_760.jpg)
砲弾は爆発して火災が発生し、2人が死亡、6人が大やけどを負いました。負傷者6人のうち、5人は女性と子どもでした。
私たちは、このような攻撃から64人のスタッフとその家族を守るため、紛争の当事者に私たちの居場所を知らせ、建物にMSFの旗をはっきりと掲げるなど、あらゆる予防措置を講じました。
にもかかわらず、私たちの建物は戦車の砲弾だけでなく、激しい銃撃も受けました。執拗な銃撃によって救急車の到着が遅れたため、燃え盛る建物の中に閉じ込められた人もいました。今朝、私はその被害の壊滅的な状況を示す写真、そして、救助隊が瓦礫の中から黒焦げの遺体を運び出す映像を見たのです。
![イスラエル軍によって破壊されたMSFの車両=2024年11月24日 © MSF](/news/detail/headline/vcsnmk0000000lw0-img/MSB181669_760.jpg)
このような攻撃は、意図的なものか、無謀かつ無能であることを示すものかのどちらかです。
ガザの全住民に対し、非道の頂点を極めている──
人道援助に携わる者として、私たちは民間人に向けられる暴力に愕然としています。
これまでの死、破壊、強制的な移動は、市民の命を軽視した軍事的・政治的な選択の結果です。全く異なる選択をすることができたはずですし、今、そうすることもできるはずです。
それは集団懲罰の戦争であり、ルールのない戦争であり、あらゆる犠牲を払う戦争なのです。
![ガザのアル・アウダ病院への攻撃で11月21日に亡くなった国境なき医師団のマフムード・アブ・ヌジャイラ医師が、病院のホワイトボードに書いた言葉。「最後まで残った人は伝えてください。私たちはできることをした。私たちを忘れないでください」 © MSF](/news/detail/headline/vcsnmk0000000lw0-img/MSB180816_Medium.jpg)
医療への攻撃は、人道への攻撃
人道援助を行うために、私たちがよりどころとしている法律や原則は、今や無意味なまでに侵食されてしまっています。今日のガザにおける人道援助は、もはや幻想です。この戦争が国際法に則って行われている、という“見せかけ”を永続させるための都合のよい幻想なのです。
人道援助の拡大を求める声が、この会場に響き渡っています。 しかし、ガザでは、場所も、医薬品も、食料も、水も、安全も、日に日に少なくなっています。 私たちはもはや、人道援助の拡大について語っているのではなく、どうすれば最低限の物資がなくても生き延びられるかを語っているのです。
今日、ガザで提供できる援助は、行き当たりばったりで、間に合わせでしかなく、まったく不十分なのです。民間人と戦闘員の区別が無視されている環境で、どうやって救命援助を提供できるというのでしょう。医療従事者が標的となり、攻撃され、負傷者を救助したことで誹謗中傷を受けるような状況で、どのような対応を維持できるというのでしょう。
医療への攻撃は、人道への攻撃です。
「医療施設が軍事目的に使用されている」という釈明が聞こえますが、独自に検証された証拠はまったくありません。本来、保護されるべき病院がその地位を失うような例外的な状況であっても、攻撃は国際人道法上の「均衡性」と「予防」の原則に従わなければなりません。
10月7日以来、私たちは9つの異なる医療施設からの避難を余儀なくされています。
![ガザ南部最大の医療施設だったナセル病院(2023年11月24日の様子)。<br> 砲撃を受け、2024年2月15日にスタッフは全員、退避せざるを得なくなった。 © MSF](/news/detail/headline/vcsnmk0000000lw0-img/MSB181728_Medium.jpg)
砲撃を受け、2024年2月15日にスタッフは全員、退避せざるを得なくなった。 © MSF
私たちの患者は、命に関わるけがや、手足の切断や粉砕、そして重度のやけどなどを負っています。彼らには、高度な治療や長期にわたるリハビリが必要です。しかし、戦場や、破壊され、がれきになった病院では、治療することはできません。病院のベッドも、薬も、物資も、足りません。外科医は、麻酔なしで子どもたちに切断手術を施すしかありません。
外科医たちは、患者の出血を止めるためのガーゼすら使い果たしています。一度使ったガーゼの血を絞り出して洗い、殺菌し、次の患者に再利用しているのです。
ガザでは、妊婦が何カ月も医療から遠ざけられています。陣痛に苦しむ女性たちが、設備の整った分娩室にたどり着くことはできません。ビニールテントや公共の建物で出産しているのです。
医療チームの中で、新しい略語が作られました。
WCNSF──wounded child, no surviving family.
負傷した子ども、ただし、生存する家族はなし、という意味です。
![砲撃で重傷を負った子どもの火傷を治療する<br> MSFスタッフたち=2023年10月20日 © MSF](/news/detail/headline/vcsnmk0000000lw0-img/MSB173620_344.jpg)
MSFスタッフたち=2023年10月20日 © MSF
医療スタッフにとっての危険は計り知れません。私たちは日々、リスクが高まっているにもかかわらず、仕事を続ける、という選択をしています。
私たちは恐怖を感じています。そして、疲れ果てています。
必要なのは「一時的な平穏」ではなく、持続的な停戦
一般市民が命を落とし続けている中で、安保理の動きが極めて遅々としたものであることを私たちは目撃してきました。私たちは、即時かつ持続的な停戦を求める、という最も明白な決議の採択を、常任理事国としての権限を行使することで妨害しようとしている、米国の姿勢に愕然としています。
安保理はこれまで、切実に必要とされている停戦に賛成票を投じる機会が三回ありましたが、いずれも米国は拒否権を行使しました。一番最近では、今週の火曜のことです。
ガザの人々が停戦を必要としているのは、「実行可能な時」ではなく「今」です。「一時的な平穏」ではなく、持続的な停戦が必要なのです。
民間人、インフラ、医療従事者、医療施設の保護は、紛争当事者の責任であることは言うまでもありません。しかし、それは集団的責任でもあり、本理事会と、ジュネーブ条約の締約国である個々の理事国にも課せられた責任でもあるのです。
あなたがたは、何を危険にさらしているかお分かりですか?
私たちは国際人道法の下、約束された保護を求めます。紛争の両当事者へ停戦を訴えます。幻想と化した援助を、意味のある援助に変えるための場所を要求します。
![荒廃したガザで子どもを抱えて歩く男性=2023年10月7日 © MSF](/news/detail/headline/vcsnmk0000000lw0-img/MSB173611_Medium.jpg)