国境なき医師団、国連安保理で訴え 「ガザには即時かつ持続的な停戦が必要」

2024年02月29日
国連安保理でガザの状況を伝える、MSFインターナショナル事務局長のロックイヤー © UN Photo/Loey Felipe
国連安保理でガザの状況を伝える、MSFインターナショナル事務局長のロックイヤー © UN Photo/Loey Felipe

国境なき医師団(MSF)インターナショナル事務局長のクリストファー・ロックイヤーは2月22日、国連安全保障理事会において、パレスチナ・ガザ地区での即時かつ持続的な停戦の必要性を訴えた。安保理のガザに関する会合で演説したもので、医療施設、医療スタッフ、そして患者を明確に保護するよう求めた。

医療の提供が困難に

「安保理は会合や決議を重ねるばかりで、この紛争に効果的に対処できていません。一般市民が命を落とし続けている中で、安保理の動きが極めて遅々としたものであることを私たちは目撃してきました。これまでの死、破壊、強制的な移動は、市民の命を軽視した軍事的・政治的な選択の結果です。全く異なる選択をすることができたはずですし、今、そうすることもできるはずです」。そうロックイヤーは訴えた。

ガザでは10月7日以降、イスラエルによる絶え間ない爆撃と攻撃の中で3万人近い人びとが犠牲になった。さらに、人口の75%に当たる約170万人が強制的に移動させられていると推定される。安全も命も保証されない場所で、人びとはけがや病気に直面している。医療施設であっても攻撃の対象となり、医療を提供することも困難な状況だ。

さらに、ガザの医療現場の状況をこう報告した。
 
「私たちの患者は、命に関わるけがや、手足の切断や粉砕、そして重度のやけどなどを負っています。彼らには、高度な治療や長期にわたるリハビリが必要です。しかし、戦場や、破壊され、がれきになった病院では、治療することはできません」

外科医たちは、患者の出血を止めるためのガーゼすら使い果たしています。一度使ったガーゼの血を絞り出して洗い、殺菌し、次の患者に再利用しているのです。

国際人道法を軽視

米国が国連安保理の停戦決議に拒否権を発動したのと同じ2月20日、イスラエル軍の戦車がハンユニスのアル・マワシ地区にあるMSFスタッフの避難所を攻撃し、スタッフの妻と娘が死亡、6人が負傷した。
 
その前には、イスラエル軍はガザ南部最大の医療施設であるナセル病院にいる人びとに退去するよう命じ、病院を襲撃した。ガザ北部は破壊されていて戻ることはできず、南部のラファはイスラエル軍が空爆を行い、大規模な地上作戦の計画が発表されていて安全ではない。ガザの人びとは行き場を失っている。

紛争が激化して以来、MSFはガザの9つの医療施設からの退避を余儀なくされ、5人のスタッフの命が奪われた。激しい爆撃や砲撃が続いているため、救命医療を提供すること、ましてやその規模を広げることはほぼ不可能だ。

「国際人道法を軽視した結果は、ガザの外にも波及するでしょう。それは、私たちの良心に重荷を背負わせ続けることになります。これは単なる政治的な不作為ではなく、政治的な共犯なのです」とロックイヤーは語った。

国連安全保障理事会におけるMSFインターナショナル事務局長 クリストファー・ロックイヤーの演説全文

地上侵攻という恐怖の中で生きている

私がこうして話している間にも、150万人以上の人びとがラファに閉じ込められています。ガザ南部に暴力的に強制移住させられた人びとは、イスラエルの軍事作戦の矢面に立たされているのです。

私たちは、地上侵攻という恐怖の中で毎日を過ごしています。

攻撃を受けたMSFの避難所=2024年2月21日 © Mohammed Abed
攻撃を受けたMSFの避難所=2024年2月21日 © Mohammed Abed
この恐怖は、経験に基づいたものです。わずか48時間前、ハンユニスにあるMSFスタッフとその家族が避難している家で、皆がテーブルを囲んでいたとき、120ミリ戦車の砲弾が壁を突き破りました。

砲弾は爆発して火災が発生し、2人が死亡、6人が大やけどを負いました。負傷者6人のうち、5人は女性と子どもでした。

私たちは、このような攻撃から64人のスタッフとその家族を守るため、紛争の当事者に私たちの居場所を知らせ、建物にMSFの旗をはっきりと掲げるなど、あらゆる予防措置を講じました。

にもかかわらず、私たちの建物は戦車の砲弾だけでなく、激しい銃撃も受けました。執拗な銃撃によって救急車の到着が遅れたため、燃え盛る建物の中に閉じ込められた人もいました。今朝、私はその被害の壊滅的な状況を示す写真、そして、救助隊が瓦礫の中から黒焦げの遺体を運び出す映像を見たのです。

イスラエル軍によって破壊されたMSFの車両=2024年11月24日 © MSF
イスラエル軍によって破壊されたMSFの車両=2024年11月24日 © MSF
イスラエル軍は私たちの車列を攻撃し、スタッフを拘束し、車両をブルドーザーで破壊しました。そして、病院は爆弾を落とされ、襲撃されました──こういったことは日常茶飯事です。そして今、MSFスタッフの避難所が2度目の攻撃を受けました。

このような攻撃は、意図的なものか、無謀かつ無能であることを示すものかのどちらかです。
 
ガザにいる私たちの仲間は、今こうして話している間にも、明日には自分たちが罰せられるのではないかと恐れています。 

ガザの全住民に対し、非道の頂点を極めている──

私たちは毎日、想像を絶する恐怖を目の当たりにしています。
 
私たちも多くの人びとと同様に、10月7日にイスラエルで起きたハマスの大虐殺に恐怖を覚え、イスラエルの対応に慄然としています。10月7日に愛する人を人質に取られた家族、そして、ガザとヨルダン川西岸から恣意的に拘束された人びとの家族の苦悩を感じています。

人道援助に携わる者として、私たちは民間人に向けられる暴力に愕然としています。

これまでの死、破壊、強制的な移動は、市民の命を軽視した軍事的・政治的な選択の結果です。全く異なる選択をすることができたはずですし、今、そうすることもできるはずです。

138日間、私たちは、ガザの人びとの想像を絶する苦しみを目の当たりにしてきました。
138日間、私たちは、意味のある人道援助を実施するために、あらゆる手を尽くしてきました。 
138日間、私たちは、数十年にわたって支援してきた医療システムが、組織的に抹殺されるのを目の当たりにしてきました。患者や同僚が殺され、傷つけられるのを見てきました。

この状況は、イスラエルがガザの全住民に対して行ってきた戦争の集大成です。

それは集団懲罰の戦争であり、ルールのない戦争であり、あらゆる犠牲を払う戦争なのです。

ガザのアル・アウダ病院への攻撃で11月21日に亡くなった国境なき医師団のマフムード・アブ・ヌジャイラ医師が、病院のホワイトボードに書いた言葉。「最後まで残った人は伝えてください。私たちはできることをした。私たちを忘れないでください」 © MSF
ガザのアル・アウダ病院への攻撃で11月21日に亡くなった国境なき医師団のマフムード・アブ・ヌジャイラ医師が、病院のホワイトボードに書いた言葉。「最後まで残った人は伝えてください。私たちはできることをした。私たちを忘れないでください」 © MSF

医療への攻撃は、人道への攻撃

人道援助を行うために、私たちがよりどころとしている法律や原則は、今や無意味なまでに侵食されてしまっています。今日のガザにおける人道援助は、もはや幻想です。この戦争が国際法に則って行われている、という“見せかけ”を永続させるための都合のよい幻想なのです。

人道援助の拡大を求める声が、この会場に響き渡っています。 しかし、ガザでは、場所も、医薬品も、食料も、水も、安全も、日に日に少なくなっています。 私たちはもはや、人道援助の拡大について語っているのではなく、どうすれば最低限の物資がなくても生き延びられるかを語っているのです。

今日、ガザで提供できる援助は、行き当たりばったりで、間に合わせでしかなく、まったく不十分なのです。民間人と戦闘員の区別が無視されている環境で、どうやって救命援助を提供できるというのでしょう。医療従事者が標的となり、攻撃され、負傷者を救助したことで誹謗中傷を受けるような状況で、どのような対応を維持できるというのでしょう。

医療への攻撃は、人道への攻撃です。

ガザには、医療システムなど残されていません。イスラエル軍は次々と病院を破壊してきました。そのような大破壊の後で機能し続ける医療は、ごくわずかです。こんなことは、あってはならないことです。

「医療施設が軍事目的に使用されている」という釈明が聞こえますが、独自に検証された証拠はまったくありません。本来、保護されるべき病院がその地位を失うような例外的な状況であっても、攻撃は国際人道法上の「均衡性」と「予防」の原則に従わなければなりません。 
 
国際法を遵守する代わりに、病院は組織的に無力化されています。これにより、医療システム全体が機能不全に陥っているのです。

10月7日以来、私たちは9つの異なる医療施設からの避難を余儀なくされています。

ガザ南部最大の医療施設だったナセル病院(2023年11月24日の様子)。<br> 砲撃を受け、2024年2月15日にスタッフは全員、退避せざるを得なくなった。 © MSF
ガザ南部最大の医療施設だったナセル病院(2023年11月24日の様子)。
砲撃を受け、2024年2月15日にスタッフは全員、退避せざるを得なくなった。 © MSF
1週間前、ナセル病院が襲撃されました。医療スタッフは、ここに残って患者の治療を続けられると幾度となく保証されていたにもかかわらず、結局は退去を余儀なくされました。
 
こうした無差別攻撃や、人口密集地で使用されるさまざまな武器や弾薬によって、何万人もの死者と何千人もの負傷者が出ているのです。

私たちの患者は、命に関わるけがや、手足の切断や粉砕、そして重度のやけどなどを負っています。彼らには、高度な治療や長期にわたるリハビリが必要です。しかし、戦場や、破壊され、がれきになった病院では、治療することはできません。病院のベッドも、薬も、物資も、足りません。外科医は、麻酔なしで子どもたちに切断手術を施すしかありません。

外科医たちは、患者の出血を止めるためのガーゼすら使い果たしています。一度使ったガーゼの血を絞り出して洗い、殺菌し、次の患者に再利用しているのです。

ガザでは、妊婦が何カ月も医療から遠ざけられています。陣痛に苦しむ女性たちが、設備の整った分娩室にたどり着くことはできません。ビニールテントや公共の建物で出産しているのです。

医療チームの中で、新しい略語が作られました。

WCNSF──wounded child, no surviving family.
負傷した子ども、ただし、生存する家族はなし、という意味です。

砲撃で重傷を負った子どもの火傷を治療する<br> MSFスタッフたち=2023年10月20日 © MSF
砲撃で重傷を負った子どもの火傷を治療する
MSFスタッフたち=2023年10月20日 © MSF
子どもたちは、この戦争を生き延びたとしても、外傷という目に見える傷だけでなく、度重なる避難、絶え間ない恐怖、目の前で家族が文字通りバラバラにされるのを目撃するなど、目に見えない傷をも背負うことになります。このような精神的ダメージによって、5歳にも満たない子どもたちが「死んだほうがましだ」と言うのです。

医療スタッフにとっての危険は計り知れません。私たちは日々、リスクが高まっているにもかかわらず、仕事を続ける、という選択をしています。

私たちは恐怖を感じています。そして、疲れ果てています。
 
国際法の遵守と引き換えに、私たちは病院が組織的に機能不全に陥っているのを目の当たりにしています。これにより、医療システム全体が崩壊してしまっているのです。

必要なのは「一時的な平穏」ではなく、持続的な停戦

皆さん、このようなことは、止めなければなりません。
 
私たちは世界中の人びととともに、この安保理とその理事国が、ガザ紛争にどのように対処するのか、注目しています。安保理は会合や決議を重ねるばかりで、この紛争に効果的に対処できていません。

一般市民が命を落とし続けている中で、安保理の動きが極めて遅々としたものであることを私たちは目撃してきました。私たちは、即時かつ持続的な停戦を求める、という最も明白な決議の採択を、常任理事国としての権限を行使することで妨害しようとしている、米国の姿勢に愕然としています。

安保理はこれまで、切実に必要とされている停戦に賛成票を投じる機会が三回ありましたが、いずれも米国は拒否権を行使しました。一番最近では、今週の火曜のことです。

米国による新たな決議案は、表向きは停戦を求めています。しかし、これは誤解を招きかねません。安保理は、現地での人道援助をさらに妨げ、ガザでの暴力と大量残虐の継続を黙認することにつながるいかなる決議も、拒否すべきです。
 

ガザの人々が停戦を必要としているのは、「実行可能な時」ではなく「今」です。「一時的な平穏」ではなく、持続的な停戦が必要なのです。

これができないのは、重大な怠慢と言わざるを得ません。
 
ガザの人びとを守るためには、人道主義が政治的目的を曖昧にするために利用されるような、この安保理決議によって左右されるわけにはいきません。

民間人、インフラ、医療従事者、医療施設の保護は、紛争当事者の責任であることは言うまでもありません。しかし、それは集団的責任でもあり、本理事会と、ジュネーブ条約の締約国である個々の理事国にも課せられた責任でもあるのです。

国際人道法を軽視した結果は、ガザの外にも波及するでしょう。それは、私たちの良心に重荷を背負わせ続けることになります。これは単なる政治的な不作為ではなく、政治的な共犯なのです。
 
2日前、MSFスタッフとその家族は、保護されていれると言われた場所で攻撃され、命を落としました。それでも今日、私たちのスタッフは仕事に戻り、命をかけて再び患者と向き合っています。

あなたがたは、何を危険にさらしているかお分かりですか?

私たちは国際人道法の下、約束された保護を求めます。紛争の両当事者へ停戦を訴えます。幻想と化した援助を、意味のある援助に変えるための場所を要求します。

これらを可能にするために、あなたがたにできることは何でしょうか?
 
ありがとうございました。

荒廃したガザで子どもを抱えて歩く男性=2023年10月7日 © MSF
荒廃したガザで子どもを抱えて歩く男性=2023年10月7日 © MSF

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