「自宅を何度も壊された」イスラエル、パレスチナ住民に強制移住の圧力

2023年02月02日
ヨルダン川西岸のマサーフェルヤッタでパレスチナ住民が立ち退きの危機にさらされている © Salam Khatib/MSF
ヨルダン川西岸のマサーフェルヤッタでパレスチナ住民が立ち退きの危機にさらされている © Salam Khatib/MSF

「当局はあえて冬に家を壊すのです。今夜は家族全員、車中かテントで眠るでしょう。外の気温は5℃まで下がるようです」

こう語るのは、イスラエルが占領するヨルダン川西岸に暮らすパレスチナ人だ。先月からイスラエルとパレスチナの間で暴力の応酬が再燃する中、農村地帯でもあまり知られていない問題が深刻化している。イスラエル新政権が、ヘブロン南部に位置するマサーフェルヤッタのパレスチナ人住民を強制移住させる計画を進めているのだ。

現地で医療活動を行う国境なき医師団(MSF)はこの動きを非難し、直ちに立ち退き計画を停止するよう要請している。

立ち退きの脅威は数十年前から

「1000人ほどいる全住民のほとんどに立ち退きを強いるもので、到底受け入れられません。これらの世帯にどこへ行けというのでしょうか」と現地のMSF活動責任者、ダビド・カンテロ・ペレスは憤る。

1980年代にイスラエルはマサーフェルヤッタを射撃演習場に指定した。以来数十年の間、この地区に散在する12の村のパレスチナ人住民は、繰り返し住居を破壊され、立ち退きの不安にさらされながら暮らしてきた。

事態が悪化したのは2022年5月。イスラエル最高裁判所が、マサーフェルヤッタを軍事区域として認め、パレスチナ人を強制移住させるための法的な壁を取り除く判決を下した。パレスチナ当局によると、今年1月までにほとんどの住民が自宅の取り壊し命令を渡され、強制退去の危機に瀕している。

マサーフェルヤッタには何度も自宅が破壊された住民も © Salam Khatib/MSF 
マサーフェルヤッタには何度も自宅が破壊された住民も © Salam Khatib/MSF 

繰り返される家屋の取り壊し

イスラエル当局は、住民をマサーフェルヤッタから立ち退かせるために異常な圧力をかけてきた──家屋の取り壊しだけでなく、検問所の設置、住民が所有する車の没収、夜間外出禁止令などの移動制限も行われている。

現地のMSFスタッフによると、これらの措置はここ数カ月で強化され、住民の移動やメンタルヘルス、医療をはじめとする基本的なサービスの利用に深刻な影響を及ぼしているという。

病人や高齢の患者たちが検問所で何時間も待たされ、診療所まで延々と歩かされる。医療の緊急事態でも移動は制限される。ある住民は「死ぬ間際でなければ検問を通れない」と嘆く。

立ち退きに反対するグラフィティが描かれた壁 © Salam Khatib/MSF
立ち退きに反対するグラフィティが描かれた壁 © Salam Khatib/MSF

「常に恐怖の中で暮らしているのです。子どもたちのメンタルへの影響は計り知れません。住居の取り壊しが増える時期は、うつや不安の症状を訴えてMSFを訪れる人が一層多くなります」とペレスは話す。

ある女性は、イスラエル当局が2年間で4度目の自宅取り壊しをするためにやって来たときのことをこう語る。「息が詰まり、視界を失って、両手を縛られたような心地でした。子どもたちも取り壊しを見ようと学校から戻ってきたのですが……。どの子もショックを受け、言葉を失っていました」

“自分たちの土地と家で暮らしたいだけ”

MSFはイスラエル当局に対し、立ち退き計画を直ちに停止し、マサーフェルヤッタのパレスチナ人住民が医療を含む公共サービスの利用を制限する措置を停止するよう求める。また、国際社会に対しては、マサーフェルヤッタ住民の保護と人権を確実なものとするために必要な措置を要請する。

ある住民はMSFのスタッフにこう告げる。「ここで何が起きているのか、世界に知られるべきです。私たちは、ただ自分たちの土地と家で暮らすことを望んでいるだけなのです」

MSFはマサーフェルヤッタ地区で3カ所の診療所を運営し、基礎的な医療を提供している。女性や子ども、慢性疾患患者に重点を置いた心のケアやリプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する診療)なども含まれる。2022年、MSFはこの地区で3066件の診療を行った。

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