子どもの医療が後回しに 紛争と新型コロナに苦しむガザ地区

2021年09月27日掲載

交通事故で大けがを負った少女。地域の病院では治療を受けられず、国境なき医師団の病院に転院した © Virginie Nguyen Hoang交通事故で大けがを負った少女。地域の病院では治療を受けられず、国境なき医師団の病院に転院した © Virginie Nguyen Hoang

2020年5月にイスラエル軍による空爆を受けたパレスチナ自治区・ガザ地区では、人道援助とそのための活動資金の多くが、紛争によるけが人の治療と新型コロナウイルス感染症への対応に充てられ、通常の外科手術や子どもの外傷ケアなど、他の医療ニーズが後回しにされるケースが相次いでいる。

こうした状況に対処するため、国境なき医師団(MSF)はガザ地区北部にあるアル・アウダ病院の小児病棟で、他の病院から移送されてきた子どもの急性外傷患者の対応を6月から開始した。およそ2カ月の間に、この病院で手足の専門的な治療を受けた子どもの数は234人。交通事故で右足に大けがを負った4歳の女の子、ハラちゃんもその一人だ。

突然の事故──搬送先の病院は満床

手術室で治療を受けるハラちゃん
© Virginie Nguyen Hoang手術室で治療を受けるハラちゃん
© Virginie Nguyen Hoang

事故は7月14日、ガザ北部の町に住むモハメド・アブドさんが、自宅で礼拝をしているときに起こった。娘のハラちゃんが家の前の道路で車にひかれたのだ。すぐに病院に運ばれたがベッドに空きがなく、治療に必要な薬も不足していた。足の傷は化膿し始めており、ハラちゃんはMSFが運営するアル・アウダ病院の四肢再建ユニットに移送された。

大きく開いた傷口は感染症を起こしやすい。そこで、ハラちゃんの治療を担当したハフィズ・アブ・クサ医師は、検査のために骨や周辺部位の組織を採取し、抗菌薬を処方した。傷口を閉じて早く治すための特別な処置も施したが、傷が非常に深いため、包帯の交換は、毎回手術室で麻酔をかけて行う必要があるという。

クサ医師は言う。「感染症が治ったら、足の皮膚の移植手術をする予定です。皮膚移植は長い時間が必要で、何度も手術をしければなりません」。父親のモハメドさんも言葉を失うほどひどいけがを負っていたハラちゃんだったが、入院から1カ月が経過し、足は皮膚移植に進める状態にまで回復した。

体の治療に加え、今後は心のケアのカウンセラーが家族と共に定期的に面談を行い、衝撃的な事故から立ち直る手助けをする。今後もしばらくは抗菌薬を飲み続ける必要があるが、順調に治療が進めば数週間後には退院し、帰りを待ち望んでいる家族と一緒に暮らせるようになる。

手術の翌日、自宅で待つ家族とビデオ通話をして笑顔を見せた © Virginie Nguyen Hoang手術の翌日、自宅で待つ家族とビデオ通話をして笑顔を見せた © Virginie Nguyen Hoang

慢性疾患の患者にも対応

MSFはアル・アウダ病院の小児病棟で、ハラちゃんのような急性の外傷患者だけでなく、先天性疾患や慢性的な症状に悩む子どもたちの治療も行っている。

ガザでMSFの活動責任者を務めるブノワ・バスールはこう説明する。「MSFは以前から外傷患者を治療していましたが、現地の医療施設への負担を軽くするため、私たちは患者の受け入れ基準を広げました。その結果、やけどや傷の後遺症に苦しむ子どもの患者を多く診察するようになったのです」

つらい症状を抱えていても、治療を受けられるまでに長いこと待たされるケースが多いため、MSFはガザで子どもたちへの医療サービスの改善、付き添う家族へのサポートにも努めている。

広がる抗菌薬耐性

ガザでは現在、抗菌薬の耐性の問題が広がっている。原因は抗菌薬を間違った方法で使っていることや、処方箋なしに誰でも市場で買えてしまうことにある。2019年、MSFは保健省と協力して微生物学検査所を設立。感染症を引き起こす細菌の種類や、どの抗菌薬に対して耐性を持っているか臨床チームが判断できるようになった。

またMSFは、現地の医療スタッフに抗菌薬の処方と使用法を教え、理解を深めるとともに、業務を改善するためのサポートも行っている。

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