水の不足、感染症……パキスタン、大洪水から3カ月以上続く緊急事態

2023年01月05日
洪水の被害に遭い、国境なき医師団から物資の提供を受けた一家=2022年11月16日    © Asim Hafeez for MSF
洪水の被害に遭い、国境なき医師団から物資の提供を受けた一家=2022年11月16日  © Asim Hafeez for MSF

昨年8月末に発生した大洪水で、国土の3分の1が水没したパキスタン。いまだ一部の地域では冠水したままで、感染症のリスクが人びとを脅かしている。安全な水も食料も不足し、子どもの栄養失調も深刻だ。そして屋外での避難生活が続くまま、季節は冬へ──。いま被災地では何が求められているのか。現地から住民とスタッフの声を伝える。

続くテント生活 医療も受けられず

「洪水から3カ月が経っても、緊急事態のままです」。そう訴えるのは、バルチスタン州東部で国境なき医師団(MSF)の緊急対応プロジェクトコーディネーターを務めるシード・イスラール・アリ・シャーだ。
 
バルチスタン州東部とシンド州の複数の地域では、人びとはいまも浸水した場所のそばで生活を送っている。このような場所では、水や虫を媒介する感染症のリスクが高い。
 
緊急対応コーディネーターのエドワード・テイラーは「これらの地域の人びとは医療を満足に受けられないまま、テント生活を送っています。冬の到来で、これまでにも増して厳しい状況に追い込まれるにも関わらず、行く当てもないのです。私たちの活動地では、水がまだ引いていません。被災した人びとのニーズは高いままです」 と話す。

浸水した場所のそばでのテント生活。水や虫を介した感染症のリスクが高い=2022年10月21日 © Zahra Shoukat/MSF
浸水した場所のそばでのテント生活。水や虫を介した感染症のリスクが高い=2022年10月21日 © Zahra Shoukat/MSF

マラリア検査を受けた半数以上が陽性に

バルチスタン州東部とシンド州北部で10月と11月に行われたマラリア検査では、3万8301人中、半数以上の2万361人が陽性と診断された。冬が近づくにつれ気温の低下で媒介する蚊の繁殖が抑えられ、マラリアの患者は少なくなるものだが、ここでは流行が長く続いている。

そのため、検査や治療のニーズが高まることがが懸念される。マラリア患者の急増を受けて、MSFはシンド州のダードゥ県で移動診療に入るマラリア対応スタッフを増やした。

もう一つ心配されるのは、栄養失調だ。多くの人びとが畑や家畜を失ったため、食料事情が悪化。さらに悪いことに、地域によっては次の種まきの季節に間に合わないところも出てきている。

MSFの緊急対応医療コーディネーターであるジュニパー・ゴードンは、こう報告する。「9月から11月にかけて、バルチスタン州東部とシンド州北部で5歳未満の子ども2万1777人に栄養失調の検査を行いました。そのうち、5578人が重度の急性栄養失調、6812人が中等度の急性栄養失調だったのです」

栄養失調の検査を受ける子ども。畑や家畜が失われたことで食料不足が深刻に © Zahra Shoukat/MSF
栄養失調の検査を受ける子ども。畑や家畜が失われたことで食料不足が深刻に © Zahra Shoukat/MSF

また、いくつかの村では飲料水の供給網に大きな被害が出ている。そのため、人びとは遠くまで水を汲みに行かなければならない。水源が汚染されていたり、破損していたりするため、安全な水を手に入れることは極めて困難だ。
 
「私たちはもう2カ月以上、村のそばの道端で生活しています。村は全て水浸しになってしまったのです」と、洪水で被災したある男性は話す。「土地が完全に乾いて帰れるようになるまでに、数カ月はかかるでしょう。洪水が起きてから、飲み水も生活用水も汚い水しか手に入りません」

移動診療、水の提供──被災した人びとへ必要な援助を届ける

MSFは現在 、バルチスタン州、シンド州、カイバル・パクトゥンクワ州の3つの州で活動を展開している。バルロチスタン州とシンド州では10の移動診療チームが活動し、マラリア、下痢、呼吸器感染、栄養失調の患者に多く対応。これまでに、移動診療を通じて9万5940人以上の人びとに診療を行った。
 
また3つの州全てで、水と衛生に関する活動を行うとともに、救援物資の配布も行っている。これまでに4億6500万リットルの清潔な飲料水を供給したほか、衛生用品、台所用品、テント、蚊帳などが入った救援物資を4万4800セット以上配布した。

被災した人びとの中には、「新しい年もまた洪水が起こるのではないか」と心配し、村に戻らず大規模なキャンプで避難生活を続けている人も多い。
 
「洪水で医療施設が壊れて使えなくなり、道路も寸断し移動も難しくなっています。特に、妊娠した女性たちが必要な時にすぐに医療を受けられるかが心配です」と、シンド州南部でMSFの緊急対応コーディネーターを務めるカトリン・キスワニは言う。「私たちが目にする人道ニーズは非常に高く、現地の状況は現在も緊急事態です。この状況に則して活動を計画しています」
 
洪水の影響は長引くと見られている。そのため、被災地全体を支援し続けていくことが極めて重要だ。

移動診療で診察を行った人数 9万5940人
清潔な飲料水の提供 4億リットル
MSFの給水車から水を受けるシンド州の人びと。被災地では清潔な水の不足が続いている=2022年11月18日 © Asim Hafeez for MSF 
MSFの給水車から水を受けるシンド州の人びと。被災地では清潔な水の不足が続いている=2022年11月18日 © Asim Hafeez for MSF 

※本記事は2022年12月中旬時点の報告を元に作成

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