「母乳があげられないときは緑茶をあげていた」天国に旅立った産まれたばかりの息子

2019年06月11日掲載

MSFの病院に入院する生まれたばかりの赤ちゃん (2018年10月撮影)© Khaula Jamil
MSFの病院に入院する生まれたばかりの赤ちゃん (2018年10月撮影)© Khaula Jamil

アリッシュくんは2018年10月、国境なき医師団(MSF)の産科病棟で生まれた。まさに元気そのもので、退院していったという。だが、生まれてからちょうど4日後。アリッシュくんは、ひどい痛みを抱えて病院に戻ってきた。実は母親のマリカさんは、十分な母乳をあげることができなかった。母乳があげられなかった代わりにあげていたのは、緑茶だった。

「義理の母にこれが一番と言われてきましたし、上にいる8人の子どもたちにも、同じようにしてきました」とマリカさん。パキスタン南西部のバロチスタン州。この辺りの地域では、緑茶や紅茶、薬草茶などを生まれたばかりの赤ちゃんに飲ませることは一般的だ。

だが、消化器官が弱い赤ちゃんの体には良くない。アリシュくんは、その後体調が悪化。民間の診療所に連れて行ったが、容体は悪くなる一方だったため、アリッシュくんが産まれた病院でもあるMSF病院に搬送された。だが既に重体で、そのまま亡くなったという。

「こうした症例は多いです」と話すのは、MSFのジアルラー医師だ。「紅茶や緑茶は、身近な治療薬として、やけどから切り傷、赤ちゃんの授乳にいたるまで、なんにでも使われています」 

「危機的な栄養状態」国が緊急事態宣言

赤ちゃんの栄養失調状態を調べるMSFの医師 © Khaula Jamil赤ちゃんの栄養失調状態を調べるMSFの医師 © Khaula Jamil

パキスタンでは、毎年数千人の女性と乳幼児が、予防ができるはずの病気によって命を落としている。特に、南西部のバロチスタン州は、世界でも例を見ないくらいに深刻な状況にある。バロチスタン州では2018年、州当局が人びとの栄養状態が危機的状況にあるという、緊急事態宣言を出した。また、当時の国の人口健康状態調査によると、バロチスタン州では、47%の子どもに発育が阻害されるなんらかの兆候がみられることが分かった。栄養状態の悪さ、度重なってかかっている感染症の影響、心理・社会面の刺激不足などが、子どもの成長に大きな影響を与えていることが明らかとなった。

MSFの医療コーディネーターのピリペンコ・タチアナは、「栄養失調は大問題です。その上、貧困や、紛争からの避難などが影響しています。医療機関の受診を控えがちだったり、社会的保護が受けられなかったりということもあり、状況は一層深刻です」と訴える。

パキスタンの人びとが医療を受けるには、診療費用、医療機関までの距離、文化的価値観、健康に関する知識、医療機関不足など、さまざまな理由が影響している。

栄養失調の子どもは、毎年1万人以上

栄養失調の赤ちゃん(2018年11月撮影) © Khaula Jamil栄養失調の赤ちゃん(2018年11月撮影) © Khaula Jamil

MSFは、バロチスタン州で、産婦人科診療、子どもと赤ちゃんの医療などを担っている。栄養失調の治療している子どもは、4つの地区で毎年1万1000人にものぼる。特に栄養や母乳育児に関する知識不足から、医学的にみて安全ではない習慣が続いていることも、MSFの医療チームは問題視している。

また、MSFの健康教育・カウンセリングチームと協力し、健康や、安全ではない習慣などについて定期的に情報提供などをし、活動を続けている。 

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