「たくさん人が殺された」 目の前で見た子どもたちに異変が

2019年01月17日

村が襲撃された9歳のアイーシャさんは、悪夢に怯えるようになった © Juan Carlos Tomasi/MSF村が襲撃された9歳のアイーシャさんは、悪夢に怯えるようになった © Juan Carlos Tomasi/MSF

衝撃的な体験をしたあとで、子どもが普段と違った行動をとるようになったら、それは心の傷のせいかもしれない。ニジェール南部のディファ県で国境なき医師団(MSF)が運営する心理ケア・プログラムには、目の前で家族が襲われたり、人が殺されたりするのを見てしまった子どもたちが参加している。この地域は、2014年の終わり頃から武力紛争の最中にある。ディファ県で家を追われた人は25万人。その3分の2は子どもだ。戦闘に巻き込まれ、避難し、家や財産、家族や親戚を失って、子どもたちの生活は大きく変わった。 

拉致され、結婚を強要された

武装勢力に捕らえられ、弟と妹を連れて逃げたヒンダトゥさん © Juan Carlos Tomasi/MSF 武装勢力に捕らえられ、弟と妹を連れて逃げたヒンダトゥさん © Juan Carlos Tomasi/MSF

「以前は家も財産もあったのに……」 23歳のヒンダトゥさんは、14歳の弟モハメドさんと13歳の妹ハリサさん、ほかの3人の兄弟とともに故郷のナイジェリア北部で武装勢力に拉致された。捕らわれたまま数ヵ月を過ごし、その後逃げ出して家族と再会を果たした。

「父は雑穀と米、トウモロコシを広い畑で育てていました。うちには何でもあったんです。でも、紛争で何もかもなくしました。村ではたくさんの人が殺されました。村から逃げ、水もなしに4日間歩き通しました。脱水で亡くなった親戚もいます」

「私たちは武装勢力に拉致されました。私と妹はメンバーと結婚するように言われましたが、私はもう結婚していましたから、はねつけたんです。新しい結婚を受け入れなければ殺すと脅されました。強い態度で拒んでいたら、奴らは私を怖がらせようと10日間監禁しました。運よく、夫をあてがわれる前にハリサとモハメドを連れて逃げ出すことができました。両親や親戚とも再会できて、今では家族と親戚が10人そろっています。一緒に逃げられなかった兄弟2人の消息は、いまも分かりません」 

14歳のモハメドさんは目の前で人が殺されたショックに今も怯えている © Juan Carlos Tomasi/MSF14歳のモハメドさんは目の前で人が殺されたショックに今も怯えている © Juan Carlos Tomasi/MSF

「私には子どもが2人いますが、今は一人で育てています。夫は食べ物を探しにナイジェリアに戻りました。ときどき電話をくれます。武装勢力に捕まっていた時間は、弟と妹に影響しました。ハリサは、他の人と一緒にいれば大丈夫なのに、一人きりのとき、それも夜になると悪夢を見ます。落ち着きがなく、じっとしていられません。モハメドも悪夢を見ています。武装勢力が何人も殺すところを見たから…目の前で男性と女性が殺されたんです。何とかしたくてここへ来ました。弟が治る方法があるかもしれないと……」 

名前を呼ばれても耳に入らない

12歳のアナスさんは襲撃後、食べなくなり、遊ばなくなった © Juan Carlos Tomasi/MSF12歳のアナスさんは襲撃後、食べなくなり、遊ばなくなった © Juan Carlos Tomasi/MSF

12歳の少年、アナスさんは両親に連れられて4年前にナイジェリアを離れた。両親は小さな商売をしていて、暮らし向きは順調だったが、紛争のため、なにもかも捨てて行くしかなかった。兄妹が6人いて、父親は10ヵ月前、仕事を見つけて家族を養おうとチャドへ出かけた。アナスさんの母親は話す。

「町が襲撃され、走って逃げました。死んだ人や、行方不明になった人もいます。甥は撃たれて亡くなりました。息子は武装勢力が人を殺すところ、殺された人の遺体、ひどい襲撃をその目で見たんです。そのときのことを思い出して泣きます。人の輪に入りたがらなくなり、食べなくなりました。名前を呼ばれても耳に入らないことさえあります。MSFの心理プログラムに行くようになってからは、ずいぶんよくなりました。また食べるようになって、友達とも遊ぶようになりました。名前を呼ばれれば返事をします。この子の兄も同じ問題を抱えているので、連れていかなきゃと考えています」 

家族とはぐれ、物乞いをしていたら…

マリアムさんは男に連れて行かれレイプされた © Juan Carlos Tomasi/MSFマリアムさんは男に連れて行かれレイプされた © Juan Carlos Tomasi/MSF

10歳のマリアムさんも、村が襲われて逃げた1人だ。祖母は話す。「うちの家族にも殺された人や拉致された人がいます。マリアムはそのようすや、死体も見ました。両親と兄妹とは逃げる途中ではぐれてしまったので、その後どうなったか、生きているか死んでいるかさえ分かりません」

「私はもう働けないし、食べる物もなく、助けてくれる人もいません。食べるため、マリアムは物乞いをしています。小さなカップを出してお金を恵んでもらうのです。ある日、男に名前を呼ばれ、そのまま引きずって行かれてレイプされたんです。その夜は男の家に留め置かれました。私は必死になってあの子を探しましたが、見つけられませんでした。翌朝、子どもがマリアムを見かけ、私のところに連れてきてくれたんです。泣き続けていました……。ようやくここへたどり着き、マリアムはケアを受け始めました。今も助けが必要です。引きずって連れて行かれたときから、あの子は変わってしまいました」 

ボコ・ハラムに捕らわれた少年

10歳のイッサさんと祖母はナイジェリアから避難して来た © Juan Carlos Tomasi/MSF10歳のイッサさんと祖母はナイジェリアから避難して来た © Juan Carlos Tomasi/MSF

国境を越えたナイジェリアの北部からも、辛い体験をした子どもたちが逃げてきている。イッサさんは武装勢力に連れ去られ、6ヵ月後に見つかった。そのときのことを祖母は振り返る。

「ボコ・ハラムが村に来て、車から銃を撃ってきたので、家族で逃げ出したんです。その時イッサは1人でいて、どこへ行くのかと聞かれ、両親を探していると答えたら、やつらは家に帰してあげると約束してイッサを連れ去りました。6ヵ月も捕まっていたんです。どこを探しても見つからず、私は食べることも寝ることもできず、泣いてあの子のことを思うばかりでした。ようやく見つかったときは本当に嬉しかったです」 

「イッサと一緒に拉致された子どものなかに、タバコを吸っていた男の子がいました。ボコ・ハラムは喫煙を禁じていて、その子を殺したんです。イッサはそれを見ていました。ある日、ボコ・ハラムのメンバーが近くを飛ぶ飛行機から隠れたすきに、イッサは逃げ出しました。途中で出会ったフーラ族がトゥムル村まで連れて行って、両親を探している男の子がいると伝えてくれたんです。私の似顔絵を描いて、分かった人がいて再会できました」

「あれ以来、イッサはいつも不安げで落ち着きがありません。朝から出かけたきり帰ってこなくて、家に連れ戻さなくちゃならないんです。家にいないときは、どこに行ってしまったのが心配で仕方ありません」 

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