人道危機の最前線に立ち続ける 写真で振り返る2020年【後編】
2020年12月29日国境なき医師団(MSF)が2020年に世界各地で行った1年間の活動の軌跡を、2回にわたり写真とともに振り返る本記事(前編はこちら)。
後編となる今回は、難民・国内避難民、激しい暴力や虐待を受けた人びとの体と心の傷、災害被災地の現場、そしてMSFが医療と共に届ける希望にスポットを当てる。
この暮らしはいつまで続くのか──難民・避難民を覆う絶望
紛争、飢餓、迫害などによって避難を余儀なくされ、キャンプで暮らす人びと。その環境は極めて過酷で、清潔な飲料水、十分な食料、衛生的なトイレなど最低限の生活を送ることすら難しい状況に置かれることも少なくない。
また拷問や性暴力といった暴力の被害を受けたり、目の当たりにしたりすることで心に深い傷を負った人も多く、MSFはこうした人びとに医療や物資を届けるとともに、心のケアも行っている。
シリア、ハサカ県東部のアルホール・キャンプに避難している少女。(2020年3月)
バングラデシュ南東部、コックス・バザール県にある巨大キャンプの一画に暮らす親子。けがの治療のため、MSFが運営する病院を訪れた。2009年の開院以来、この病院はロヒンギャ難民と地元バングラデシュ住民の健康を支えている。(2020年8月)
エチオピアからの難民が国境沿いの川を渡ってスーダンに入る。家畜を連れている人も、何も持たず身一つで歩き続けてきた人も、生き延びるために隣国を目指す。(2020年11月)
体に残る傷 癒えない心の痛み
MSFが活動する紛争地の病院では、戦闘に巻き込まれた民間人や暴力の犠牲者が次々と運ばれてくる。大規模な戦闘が起こった際には外科チームが昼夜を問わず手術を行い、一人でも多くの患者を救うべく治療にあたる。
またMSFは性暴力被害者の支援にも力を入れる。けがを治療し、心理ケアを通じて心に傷を負った人びとに寄り添っている。
武装勢力に襲われ、ナイフで左手を切り落とされた少年。カメルーン北西部、聖メアリー病院にて。(2020年3月)
コンゴ民主共和国、南キブ州のイトタに避難してきた男性。近くの村で武装した男たちにレイプされた。(2020年12月)
カメルーン北西部、バメンダの聖メアリー病院で患者の手当てをするMSFの外科医たち。路上で武装した男たちに襲われた男性患者は、拷問を受けたうえ銃で5回も撃たれたという。(2020年3月)
求められるのは一刻も早い救命活動
2020年は大規模な洪水や台風が各地を襲った。MSFは迅速に被災地に入り、救命・救急活動を行うとともに、被災者のニーズの把握に努めた。
5月31日、熱帯暴風雨「アマンダ」がエルサルバドルを直撃。マリア・ターシオスさんと5人の子どもたちは命がけで泳ぎ一命をとりとめたが、水はサンサルバドル市内にある一家の住まいの屋根に達した。(2020年6月)
MSFの移動診療所で体重を測る男の子。今年南スーダン各地で起きた大規模な洪水は、何千人もの人びとの命を脅かした。道路が寸断されたこの地域の住民にとって、MSFの診療所はまさに命綱だ。(2020年9月)
医療と希望を届ける
人道危機に最前線で対応するMSFスタッフは、時に無力感や悲しみに苛まれることもある。しかし困難の中でも最善を尽くし、目の前にある命と向き合っている。
コンゴ民主共和国で発生したエボラ出血熱の対応に最前線であたる医療従事者たち。MSFが支援する赤道州の病院にて(2020年8月)
シエラレオネ東部州のケネマにある集中栄養治療センターで、入院している2歳の女の子をあやす看護師。「私がMSFで働いているのは、人びとの役に立ちたい思っているからです。時には大変なこともありますが、仕事に対する情熱があれば、つらいことも乗り切れます」 (2020年12月)
アフリカ西部で活動するMSFの助産師たち。今年は新型コロナウイルスの流行により、これまでに経験したことのない状況に直面したが、それでも「この仕事が好き」と明るい笑顔を見せる。(2020年6月)