『人道援助をめぐるディスカッション ~「人道・医療要員の保護」と「対テロ政策下における人道スペースの確保」~』を開催

2020年02月25日
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救うべき命があるのに、援助を届けることができない——。
いま、紛争地での人道援助活動は大きな課題に直面している。医療人道援助の安全を確保することを求める国連安全保障理事会の決議が2016年に採択されたにも関わらず、医療施設への攻撃が続いている。さらに、各国政府が行う「対テロ政策」によって、本来中立で公平であるはずの人道援助が行えない事態が起こっているのだ。

2019年12月19日、人道援助活動が直面しているこれらの課題に関するセミナーを、国境なき医師団(MSF)の主催で開催した。世界中で移動を強いられる人びとの状況を伝える「エンドレスジャーニー展」の一環として、アーツ千代田 3331を会場に実施。NGOや国際機関で援助に取り組む方々、政府関係者を含む、60人を超える参加者が集まった。 

 《登壇者》
■モデレーター:
古谷 修一氏 早稲田大学大学院法務研究科教授
■スピーカー:
長谷部 貴俊氏 日本国際ボランティアセンター事務局長
村田 慎二郎 MSF日本理事、元シリア・イエメン活動責任者
レジス・サビオ氏 赤十字国際委員会駐日代表
クロード・マオン MSF法務マネジャー

第1部 パネリスト発表

 イベントではまず、各パネリストがそれぞれの経験や専門にもとづいて、人道援助活動が現在直面している課題について発表した。
(下記、発言要旨)

「人道援助が政治や軍事の道具に」
——長谷部 貴俊氏 日本国際ボランティアセンター(JVC)事務局長

2005年から10年以上にわたりアフガニスタンでの活動に携わってきた長谷部氏からは、アフガニスタンの事例をもとに、NGOによる人道援助が困難になっている現状が伝えられた。 

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「アフガニスタンでは紛争が激化し、2019年の1月から9月の間にすでに8000人以上が死傷しました。前年同時期より42%も増えています。タリバーンやIS(過激派組織「イスラム国」)といった反政府勢力による攻撃が主な原因ですが、米軍やアフガニスタン国軍による空爆も、死傷者増加の原因になっていると報告されています。米軍などによる誤射、誤爆の多発により、アフガニスタン人の外国軍への批判や反感が増加。その一部はタリバーンへの支持にもつながっていると言われます。

NGOへの直接攻撃も増加しています。ローカルNGOはタリバーンの支配する地域では一部活動ができていますが、ISが支配する地域ではローカルNGOであっても支援が難しい状況にあります。

アフガニスタンでは軍事活動と人道支援の境目があいまいになっています。外国軍と文民が一体となった『地方復興チーム』の活動がその一つ。米軍主導の『地方復興チーム』の活動では『テロリスト』の情報を住民が提供することと引き換えに、その地域に援助を提供する、といった事例もありました。つまりアフガニスタン市民は、誤射・誤爆を繰り返す一方で援助を行う外国軍とNGOを始めとする他の援助アクターの明確な区別がつかなくなってしまっているのです。

援助が政治・軍事アジェンダの道具とされることで人道スペースが徐々に狭められ、住民に支援を届けづらい状況になっています」 

「国連決議にも関わらず続く、医療への攻撃」
——村田 慎二郎 MSF日本理事、元シリア・イエメン活動責任者

 これまでにシリアやイエメンでMSFの活動責任者を務めた村田からは、医療施設への攻撃の現状や紛争地での安全対策について伝えられた。

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「紛争地での安全対策には、一般的に3つの方法があります。現地のさまざまなコミュニティや勢力から自分たちへの理解を得る、アクセプタンス(Acceptance)。武器を持たない形で軽犯罪を防ぐ安全対策をする、プロテクション(Protection)。そして、武力を持つことによって相手に武力行使をやめさせる、ディターランス(Deterrence)です。

MSFは、『ディターランス(Deterrence)』による安全対策は行いません。さまざまな人たちからの理解(Acceptance)を得られなければ安全に活動することができないと考えているからです。

MSFは、さまざまなコミュニティから自分たちの活動に対し理解(Acceptance)を得るために、以下の点を重視しています。まず、伝統的な地域のコミュニティのリーダー、宗教指導者、現地の保健省スタッフ、現地の政府と争っている反政府勢力、政府、軍や警察、そういった利害関係の異なるさまざまなアクターから、MSFの活動に対して理解を得ることが重要であると考えています。そのために、MSFの活動が人道主義の原則(独立性、中立性、公平性)に根差したものであることをいつでも、どこでも、誰に対しても説明していきます。

また、さまざまなアクターから信頼を得る上で、自分たちの活動の透明性を高めることも重要です。MSFは、その活動地での1ヵ月の外来診察数を示すなどして、今後の予定されている活動について、様々な地域アクターに説明を行います。

さらに、現地にどういった有益なサービスが提供できるかを示すことも重要であり、日々の活動において質の高い医療を提供する必要があります。また、緊急事態にこそ迅速に援助を提供することです。最後に、現地の文化・宗教・伝統に敬意を払うこと。この5つの点を順守できれば、一部の例外を除いて、ほぼすべての紛争地で、リスクを軽減することはできると考えています。

しかし、近年、医療への攻撃が問題になっています。以下は2012年から2015年までMSF活動責任者として活動に携わってきた私の個人的見解になりますが、シリアでは、2012年から2013年は主に反政府グループと関係のある医療施設が狙われる傾向がありました。その翌年ごろからは全ての医療施設がターゲットになりました。

シリアだけではなくて、アフガニスタンのクンドゥーズやイエメンのアブスというところでも、MSFの医療施設が攻撃されました。MSFは攻撃を受けないよう病院のマークを示したり、軍や武装勢力にGPSの座標を連絡したりしていましたが、それでもなお、空爆を受けました。

それぞれ紛争の状況や背景は異なりますが、共通していたのは、反政府グループに対する『テロとの闘い』という文脈の中で紛争当事国の空軍により医療施設が攻撃されたという点です。

2016年、国連安全保障理事会で、紛争地での医療に対する攻撃を非難する決議が採択されました。これは日本政府も提案国の一つとなっているものです。しかし、この決議が採択された後も状況は良くなっていません。病院への攻撃に関するWHO(世界保健機構)のデータを見ますと、2018年、世界19ヵ国で400回近い攻撃があり、半分くらいは空爆によるものです。

医療施設が攻撃されることで、医療従事者や病院にいた患者が命を落とす、ということだけなく、何千、何万というその地域に暮らす人たちの医療へのアクセスが奪われ、救えるはずの命が救えなくなってしまうのです。そのような状況が今も各地で起こっています」
 

「『対テロ』の名のもとで、人道援助が犯罪扱いされることも」
——クロード・マオン MSF法務マネジャー

国際人道法や、暴力の被害にあった患者の保護の問題を専門とするクロード・マオンからは、国際人道法と国内法の観点から、人道援助が直面する課題が語られた。 

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 「戦闘行為の際には、国際人道法を守ることが紛争当事者に求められています。ジュネーブ条約と追加議定書が、医療・人道援助の従事者に対する保護を定めています。これらの国際的な法的枠組みによって、独立、中立、公平な立場で誰に対しても区別することなく医療を提供できることが保証されています。

また、医療援助団体、医療従事者が医療を提供することが犯罪とみなされ、訴追されることもないということも、これらの法が基となっています。国際人道法の下では、患者も、医療従事者も、医療行為も、医療施設も全て保護の対象となっています。

しかし、『9.11』以降、世界規模で対テロ政策が進められ、地域レベル、国家レベルで新しい規制や制裁が行われるようになりました。この流れの中で、対テロの目的で作られた国内法のもと、様々な行為が犯罪とみなされるようになってきています。

一つには、人道援助への資金がテロに転用されることを恐れ、資金が提供されなくなる、送金が難しくなるなどの状況が生まれています。国からの助成金を多く活用しているNGOでは、国の対テロ政策によって、人道援助機関に提供される助成金に制限がかかり、事業の実施が難しくなっている状況があります。

例えばイエメンでの活動を実施するためにNGOが口座開設を行おうとしても、イエメンではテロ活動があるからという理由で銀行から申し込みを却下されるケースもあります。

また、ある武装集団が『テロリスト』とみなされれば、そのグループに接触する、コンタクトを取るだけで、テロ行為と見なされることもあります。

誰をテロリストと見なすのか、が重要です。以前であれば国際人道法で『戦争当事者(戦闘員)』と見なされていた者が、新たな法律、新たな定義のもと『テロリスト』とみなされ、対テロ規制の対象となります。例えばシリアでは、『国家に対する敵』という定義があります。これが実際に使われ、人道援助の活動に大きな影響が出ていています。

国家によって定められた国内法である対テロ法が、国際法である国際人道法を優越してしまう状況が往々にして起きています。対テロ法の下では、患者がテロリストもしくはテロ活動の支援者と見なされ、その患者を診療した医者が犯罪者とされ、医療活動が非合法な活動とされ、病院が攻撃の標的になるおそれがあるのです。

MSFはシリアで、対テロ法のために入れない地域があり、医療活動が行えないことがありました。そのため、様々な方法でこの問題に立ち向かっています。この問題の解決のためには、人道援助の様々なアクターが協調し、医療・人道援助は対テロ法制の除外対象にすべきだと声を上げることが必要です。

人道援助団体は対テロ政策の適用から除外すると記載した国連安保理決議はいくつかあります。こういった措置を国内法に反映させることによって援用していくことも可能です。

例えばオランダでは現在上院で審議中であり、国内法が成立する見込みです。この国内法が成立すれば、紛争地の活動でも人道援助団体は対テロ法の適用から除外されることが確実になります。

MSFや他の人道援助団体が掲げる中立、公平、独立の人道の原則が危険にさらされています。まず紛争当事国の政府に活動の是非を問わなければならない。しかし政府の判断に従うことになると、中立性も独立性も損なわれてしまいます。これは人道原則に背くことになり、私たちの行動そのものが危険にさらされることになります」

「“Health care in danger” 医療支援が危機にさらされている」
——レジス・サビオ氏 赤十字国際委員会(ICRC)駐日代表

20年以上にわたって赤十字国際委員会で人道支援に携わってきたレジス・サビオ氏からは、医療支援が危機にさらされる現状に対し、その解決のために何が必要なのかが語られた。 

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「赤十字は1863年にアンリー・デュナンによって創設されて以来、どんな人であっても傷ついた人は尊厳をもって手当てすべきだというモットーに則って活動してきました。しかし今、“Health care in danger”の状況が各地に広がり、その活動が危機にさらされています。

昨今、誤爆を含めアレッポなどで病院が攻撃されたり、同様の事件が各地で起こっています。また、一般市民を病院に入れないようにしたり、武装勢力が自分の家族を優先して治療させるように医療従事者を威嚇する、ということも起こっています。

ICRCは、例え、人を殺した人であっても、テロリストであっても、医療的な助けを必要としていれば手を差し伸べます。しかし、そこに大きなジレンマもあります。
私はイエメンやコンゴ民主共和国にいましたが、医療が崩壊している現場、システムを再構築するには大変なコストがかかります。

5、6年前にイエメンで関係者とお話しした際に、わが国には医療システムがあると言われました。しかし現場には薬もドクターも病院もありません。これは紛争の直接的な結果ではなく二次的な影響ですが、紛争の結果と言えます。紛争が続けば、こうした二次的な影響が拡大していくことになります。

医療が崩壊した現場では、まずは国レベルで対策をすべきだと考えます。その国の保健省、防衛省、立法府そしてその国の医療コミュニティが、自国の医療保健システムをどう改善するのか、考えるべきです。まず、ICRCは、紛争当事国に対して、軍事のドクトリン(教義)の中に、医療施設や従事者は攻撃の対象にすべきではないと、盛り込むべきと訴えています。

次に、その国で作られる法律によって、医療の提供が犯罪と見なされることがないようにしていくことが必要です。三点目として、医療従事者に必要なトレーニングを行っていく必要があります。四点目として、医療施設や医療従事者に対してどんな暴力的な行為が行われているのか、データをとることが重要です。冷静で客観的な判断のためには、情報が不可欠だからです。

現在、紛争は様々な場所で起こっており、必要な情報を集めるためには、より様々なアクターが参加したアドボカシー活動が必要であると思います。同時に、この問題への認識を広めるための活動も必要であると思います。対テロ政策下で、活動に必要なデータや情報を集めることが難しいケースや、私たちの行動が絶対に正当なものであると現場で理解してもらえないケースも考えられます。

例えば障がい者のためのリハビリテーションセンターを作った時に、対テロ政策の規制により、義肢などの必要な道具や器具をセンターに持っていくことができないとなると、患者が本来受けるべき医療が受けられないということが起こります。

こういったことが起こらないよう、各国で適切な法制度を整え、援助の受け入れ態勢を整えることが必要です。
人びとの命を守るために、国の代表、民間セクター、国際機関が話し合い、お互いにバランスをとることが大切です。その点において、国連安保理決議2286号は私たちにとって大きな味方になりますので、国連加盟国にはもっと活用してほしいと思います。

今年はジュネーブ諸条約70周年の年です。ともに協力することでより良い活動ができ、多くの命を救うことができると考えています」
 
空爆を受けたシリア・アレッポの病院=2016年 © Karam Almasri
空爆を受けたシリア・アレッポの病院=2016年 © Karam Almasri

第2部 ディスカッション

各パネリストの発表の後は、さらに様々な角度から議論が深められた。

古谷氏:医療施設に対する攻撃が増えていますが、これは意図的な攻撃なのか、それとも誤爆が増えているだけなのでしょうか。

ICRC サビオ氏:攻撃をした側はミスによる誤射や誤爆を主張しますが、これらの攻撃が意図的に行われていることもあります。攻撃によって、届けられるべき支援が届けられなくなってしまっています。国際人道法が確実に順守されるようにしなければなりません。
 

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古谷氏:攻撃を防ぐために、現地の様々な関係者と話をするとのお話でした。具体的に、地域の人たちや現地スタッフにどのようなことを伝えていたのでしょうか。

JVC 長谷部氏:アフガニスタンでは、自分たちの団体は中立であり、軍事目的でないのだということをコミュニティの人たちに地道に伝え続けてきました。

MSF 村田:現地スタッフに対しては、団体の独立・中立・公平の原則がきちんと伝わっているかどうかが、セキュリティのリスクを下げる意味で非常に重要でした。彼らは現地のコミュニティの一員ですので、彼らがMSFの原則を理解していれば、コミュニティに口コミで伝わっていきます。一方でもし勘違いされていると、間違った情報や誤解が現地に伝わることになります。
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MSF マオン:自分たちのアイデンティティをはっきりさせることによって、誤射や誤爆のリスクを下げることができます。自分たちの病院がどこにあるのか、GPSの座標を知らせておくのも一つの方法です。しかし、現在は逆に攻撃の対象になってしまうというリスクもあり、議論が必要です。

また、アカウンタビリティの欠如も非常に大きな問題です。MSFはアフガニスタンで米軍に病院を空爆された後、説明を強く求めました。その結果、米軍はミスを認めました。また、この攻撃に関して、MSFはジュネーブ条約で設置された国際事実調査委員会の調査が行われるよう行動しました。米国政府とアフガニスタン政府がこの調査を受け入れなかったために、調査は実施されませんでしたが、その後2017年にウクライナのケースに対して、国際事実調査委員会が初めて運用されました。

古谷氏:対テロの規制は、NGOの人道援助活動においてどのような障害になっているのでしょうか。

MSF 村田:国際的にも法律的にも「テロリスト」の定義があいまいな中、各国で様々なテロ対策が適用されています。例えば、ナイジェリア政府は、政府がテロリストグループと判断した武装勢力が支配している地域に一般市民が半年以上いた場合は、その人を「テロリストの支援者」とみなす、ということを国内のテロ対策法で定めています。武装勢力が支配する地域で暮らす女性や子ども、赤ん坊までもが、本当にテロリストでしょうか。

問題なのは、そのテロ対策法によって、武装勢力が支配する地域にいて人道援助を必要とする一般市民に、MSFやユニセフといった人道援助団体がアクセスできなくなってしまうことです。以前は、活動地の政府から、治安が良くないからあの地域には行くなと言われることがありましたが、今は、あの地域にいる人はテロリストもしくはテロリストのサポーターと法律で決められているから、あの地域には行くな、と言われます。

この結果、ナイジェリアの北東部では100万人以上の援助を必要としている人たちが人道援助へのアクセスを奪われている状況が何年も続いています。こういった法律の適用が形を変えてシリアやアフガニスタン、パキスタンなどでも起こっており、昨今のトレンドとして表れてきています。これは、病院への物理的な攻撃とは異なりますが、医療倫理や人道主義への攻撃ではないかと個人的には捉えています。

古谷氏:対テロ対策の中に二つの違う側面があるように思います。一つは、政府側が反テロ法などを作ることによって反政府側への援助を止めさせることで、政府側が戦略的に有利な立場に立つという側面。もう一つは、直接的な紛争国ではない先進国のNGOが途上国や紛争当事国に物資や資金などを移転する必要がある、その時にテロに関連する規制にかかってしまい、それができなくなってしまう、あるいは、それを行った人が犯罪人になるといった問題です。これらをトータルでどう考えていくかが重要です。MSFもICRCも大きな団体ですが、単に一つの団体が動いても解決できる問題ではないように思いますが、関係する政府や国際機関にどのような働きかけを行っていく予定でしょうか。

ICRC サビオ氏:どの国もテロ対策を行うのは合法的なことです。しかし、その手段は国際人道法を満たすものでなければなりませんし、人道援助団体の能力をそぐものであってはならなりません。リスクを全くゼロにすることはできないので、ある程度のリスクを想定した上で、国同士の協力が不可欠であると思います。

MSF村田:MSFがプライオリティを置いているのは、紛争地での暴力の被害者に対して医療人道援助を提供することです。そういった地域での暴力の被害者は必ずしも銃撃や空爆で負傷して外科手術を受ける人たちだけではありません。戦争や紛争のために国内避難民や難民にならざるを得ない人たちがいて、戦争や紛争のために女性や子どもの健康が悪化している状況があります。

彼らに対する人道援助を届けるにはその場にいることが大事です。昨今の状況においてこそ、国境を越えて人種や政治的信条や宗教の違いを超えて援助を提供しようとするMSFやICRCといった人道援助団体の存在意義、人道主義の意義がますます重要になってくると考えています。

JVC 長谷部氏:私たちは国家の視点ではなく、その住民がどのような影響を受けるかというところから考えていかなければならないと思います。最近のアフガニスタンやイラクの紛争では、どの勢力の支配地域かというのは刻々と変わっていきます。さらにテロリズムの定義もあいまいです。そのような中で支援が届かないということをなくすにはどうすべきか、国家が考えていない視点から、議論をしていく必要があります。

9.11の後アメリカのパウエル氏などはNGOを対テロ戦争の道具とみなすような発言も公でしてきており、そのような中で、NGOが軍事や政治にからめとられないスタンスが必要です。日本のNGOの中でも、もっと議論していきたいと思います。

古谷氏:医療支援や人道援助は誰も差別しないことをベースに行うものですが、今の社会には、テロリストかそうでないかで二分する分断の構図があります。

この分断の構図を乗り越えて差別なく援助活動を行う必要があります。それぞれの現場でリスクをできるだけ減らす動きを進めていかなければなりません。そのためには、様々なセクターが連携し、お互いに情報を共有していくことが大切です。本日のディスカッションがその役に立てばと願います。
 
MSFの病院では、銃の持ち込みを禁止する表示がなされている © Natasha Lewer
MSFの病院では、銃の持ち込みを禁止する表示がなされている © Natasha Lewer

参考:
対テロ政策は人道援助を死に追いやるのか ナイジェリアからの警鐘(2019年12月04日掲載)
 

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