「医療は命がけの仕事であってはならない」——MSF、国連安全保障理事会で演説

2016年05月04日
国連安保理で演説するジョアンヌ・リュー医師
国連安保理で演説するジョアンヌ・リュー医師
国連の安全保障理事会は5月3日、内戦が続くシリアやイエメン、アフガニスタンなどで頻発する病院や医療関係者への武力攻撃を強く非難し、医療人道援助活動の安全を確保するよう全ての紛争当事者に強く要求する決議案を全会一致で採択した。決議案は、日本やエジプトなど5ヵ国の非常任理事国が作成した。

国連安保理会合におけるMSFインターナショナル会長 ジョアンヌ・リュー医師の演説

先週水曜日、シリア・アレッポ市のアルクッズ病院が空爆による攻撃に遭い、少なくとも50人の老若男女が犠牲となり、町に残った最後の小児科医の1人も命を奪われてしまいました。殺人的な空爆です。
 
アレッポではこの10日間で約300回の空爆があり、民間人が、それも多くの場合、集団でいるところを繰り返し狙われています。戦争における"人"とは何なのでしょう?生死を問われない消耗品でしょうか?患者と医師も攻撃の標的となっています。女性、子ども、病人、負傷者、そしてその介護者が死に追いやられています。

このような攻撃を止めてください

私は、2015年10月3日に米国によって空爆を受けたアフガニスタン・クンドゥーズにあるMSF外傷センターを訪れました。生存者の1人で、容赦ない空爆で左腕を吹き飛ばされたMSFの看護師の言葉が、毎日私の脳裏によみがえります。彼は、クンドゥーズで戦闘が発生した時、外傷センターは安全な場所だとMSFに説明されたと言います。
 
「私たちはMSFの説明を信じました。MSFは爆撃を予想していたのですか?」。私は答えました。10月3日までは、私も外傷センターは安全な場所だと心から信じていたと。
 
今は戦闘の前線にあるいかなる医療施設も、もはや安全とは言えません。アフガニスタン、中央アフリカ共和国、南スーダン、スーダン、シリア、ウクライナ、そしてイエメン、病院が日常的に爆撃され、踏みにじられ、略奪され、焼き落されています。
 
医療従事者が脅迫に遭い、患者はベッドの上で銃撃されています。住宅街への広範な攻撃も、医療施設への正確な攻撃も、「誤り」として片づけられたり、にべもなく否認されたり、ひたすら黙殺されたりしています。実のところ、それは市街地における、民間人を標的にした、大規模で無差別な攻撃であり、最もひどい例ではテロ行為に等しいものです。

爆撃を受けたアフガニスタン・クンドゥーズの外傷センター
爆撃を受けたアフガニスタン・クンドゥーズの外傷センター
 医療施設に対するこうした攻撃の影響は、直接の死傷者のみならず、はるかに広く及びます。攻撃はすべての人のための日常的な医療活動を破壊し、生活を完全に立ち行かなくさせるのです。
 
2015年10月26日、サウジアラビア主導連合軍の空爆によってイエメン北部ハイダンのMSF病院が攻撃を受け、地域の少なくとも20万人が救命医療を受けられなくなりました。イエメンでは3ヵ月のうちに同病院を含む3軒のMSF施設が全・半壊しています。
 
MSF施設への攻撃は戦争の凄惨さの一端を示すに過ぎません。他の病院や診療所、学校、市場、礼拝所への攻撃は常態化しています。地域の保健医療従事者が、こうした非道の矛先となっているのです。

私たちは危機的な行き詰まりを迎えています。 病院が病院としての本来の機能——患者が生きるために闘う場所としての機能を果たしていても、攻撃を免れるとはもはや思えないのです。病院も患者も戦場に引きずり込まれてしまったのです。
 
シリア南部のジャシムという町では、市民がある病院の再開を阻む抗議活動を行いました。人びとは、機能を保つ病院に何が起きるかをわかっているのです。
 
医療施設攻撃のまん延が、私たちの核となる活動の遂行を妨げています。そして、独立した機関による調査を求める私たちの呼びかけは、こんにちに至るまで聞き入れられていません。
 
説明責任の第一歩は独立かつ不偏の事実調査です。犯人は捜査官にも、判事にも、陪審員にもなれません。
 
私たちは保健医療への攻撃を非難し続けます。私たちは活動地で目撃した物事について発言し、声の大きさを緩めません。医療は命がけの仕事であってはなりません。患者は病床で攻撃されたり、殺害されたりしてはならないのです。
 
私たち医師は、医療者になる際に宣誓をします。私たちは、患者の身上、宗教、人種、所属の陣営の別なく、全ての人を治療します。それが、負傷した"戦闘員"であろうと、犯罪者やテロリストのレッテルを貼られた人であろうと。病院は、攻撃や患者の捜索と捕縛などを目的とした強制侵入に遭ってはならないのです。
 
この基本原則に背くことは、医の倫理の根底に背くことになります。医の倫理は戦争で葬られるべきものではありません。戦時の医療の中立性は、国家主権や国内法に踏みにじられていいものではないはずです。移ろいやすい同盟関係とあいまいな交戦規定に特徴づけられる、対テロ・対ゲリラの時代にあってはなおさらです。戦争の性質が変わったとしても、戦争のルールは変わっていません。
 
ここにおられる皆様は平和と安全の保障を担われています。しかし、この安保理の常任理事5ヵ国のうち4ヵ国が、程度の差はあれ、昨年に起きた医療施設への攻撃に責任のある連合に加担しています。その連合とは、アフガニスタンにおける北大西洋条約機構(NATO)主導のそれであり、イエメンにおけるサウジアラビア主導のそれであり、ロシアの後ろ盾によるシリア政府主導のそれです。したがって、皆様はその格別の責任に応じ、全ての国に模範を示すべきなのです。

今一度申し上げます。攻撃を止めてください。

本日この場での議論は、意味のない言葉に集約されるべきではありません。本決議は、他の多くの決議のような結末に至ってはなりません。過去5年間でシリアについて採択された各決議は、免責により守られてきませんでした。シリアでは、保健医療が意図的に狙われ、包囲下の地域は痛ましくも医療を奪われています。
 
皆様の義務を果たしてください。紛争下における保健医療の平等な提供、これを保護してください。そしてまた、全ての傷病者を差別なく治療するという医療従事者の任務を支えてください。
 
先週アレッポで殺害された小児科医のマーズ医師は、人命救助をしていたために命を奪われました。今日、私たちは彼の人間性と勇気を、紛争地に引きずり込まれた多くの患者、看護師、医師、住民、MSFスタッフとともに追悼します。
 
彼らのために、本決議を行動に移してください。戦争の実行に適用される規定をあいまいにせず、再確認してください。
 
本決議は、全ての国家および非国家主体による殺戮を止めるものとならなければなりません。皆様はまた、紛争地の保健医療と住民への攻撃を停止するよう、同盟の勢力に告げてください。
 
私たちは患者を見捨てはしません。そして、沈黙もしません。医療を求めること、そして医療を提供することが自らの死の宣告となってはならないのです。
 
皆様の評価は、本日交わされた言葉ではなく、今後の行動によって下されるでしょう。皆様の仕事は始まったばかりです。
 
本決議を、人命を救うものにしてください。

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