「エンドレスジャーニー展 ~終わらせたい、強いられた旅路~」を開催

2019年12月26日掲載

© MSF© MSF

世界では今も多くの人が、紛争や迫害、暴力や貧困によって住まいを追われ、終わりの見えない命がけの旅を続けている。移動を強いられた人びとの置かれた状況と国境なき医師団(MSF)の活動を伝えるキャンペーン「エンドレスジャーニー ~終わらせたい、強いられた旅路~」の一環として、体験・思考型の企画展を開催した。

2019年12月18日から22日までの5日間、アーツ千代田 3331の会場は2500人を超える来場者で賑わった。 

「What is this?」 チケットを手に、エンドレスジャーニーの世界へ

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会場を入ると、「What is this?」との言葉とともに4つのアイテムが並べられている。カラフルなメジャー、小さなサンダル、ライフジャケット、そしてラッパのような道具……?来場者はチケット風のカードを手に、これらのアイテムは誰がどのように使うのか、会場内を探していく。 

おびやかされる命と健康

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エンドレスジャーニーを知る旅は、命の危機にさらされた人びとに向き合うことから始まる。外傷、母子保健、心の傷、栄養失調、感染症——。移動を強いられ、健康をおびやかされた人びとの声が、迫力ある写真とともに並ぶ。 

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子どもの二の腕に巻いて栄養失調の状態を判断する「命のうでわ」は、実物を展示。重度の栄養失調と判断される子どもの腕は、ペットボトルのキャップほどの太さしかないことが分かる。「インスタでこのイベントを見て来ました」という看護師志望の高校生は、「腕がこんなに細いなんて信じられない……」とつぶやいた。 

見て聞いて体感する「世界の人道危機」

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なぜ世界では今、こんなにも多くの人が移動を強いられているのか。地中海、アフリカのチャド湖周辺、中東シリア、バングラデシュに避難するロヒンギャ、中米。5つの人道危機を取り上げ、人びとが直面している過酷な現状を、彼らの「証言」とともに解説する。命がけで地中海を渡ろうとした人たちが実際に使ったライフジャケットや、ナイジェリアの子どもが履いていた小さなサンダルなどの実物も並べられた。

ある女性は、「迫力ある写真や実際の物を見て、難民の人たちのことを自分の身に起こっていることのように感じました。このイベントのために遠くから来たかいがありました」と話した。
 

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「この狭さで寝られるのか……」「自分なら正気を保てない」と、多くの来場者が思わず声をもらしたのが、黒いボックスの空間だ。難民・移民が不当に押し込められる、リビアの収容センターを再現した。何十人もの人びとが狭い空間に入れられ、一人当たりの空間は70センチ四方しかない。

その狭さを再現したボックスの中では、収容センターで録音された音が流れている。ガシャンガシャンと鉄の扉が揺らされる音。うめき声とも叫び声とも聞こえる声。誰かが拷問を受けているのかもしれない——。苦しみの中にある人たちのことを、閉じられた暗い空間の中で想像する。 

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さらに会場には、難民キャンプでMSFが作っている「通気改良型ピット式トイレ」の再現も。感染症の広がりを防ぐために、また、人としての尊厳を守るために、清潔なトイレは欠かせない。病院だけでなくトイレも作っている、MSFの意外な一面を紹介した。 

国境なき医師団の人と活動に迫る

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世界の人道危機に対し、MSFはどのように医療援助を届けているのか。後半の展示では、MSFの人や活動に迫る。まず目に飛び込んでくるのが、大型の四輪駆動車だ。現場で実際に活躍しているのと同じ車種のトヨタ・ランドクルーザーで、水深の深い場所を走るための「シュノーケル」が備え付けられている。

フロントガラスに貼られているのは、「武器持ち込み禁止」のマーク。病院や車など、MSFのエリアには武器を持ち込んではならない。独立、中立、公平の原則を貫いて安全に活動するための重要なルールだ。
 

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そして、外科医の等身大パネルが来場者を待ち受ける場所は、外科治療テントだ。MSFが自前で設営する外科治療テントの一部を再現した。病院がない場所では、このエアーテントの中が手術室になる。 

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 MSFで活動しているのは、医療スタッフだけではない。ロジスティシャンやアドミニストレーターなど非医療スタッフが約半数を占めることに驚いていた来場者も多い。さまざまな職種のスタッフの仕事風景や思いをパネルで伝えた。

臨場感あふれる映像ルーム

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MSFが活動地で撮影した迫力の映像を、広視野ディスプレイと大型ディスプレイで上映。広視野ディスプレイでは、半球状のスクリーンに包み込まれる形で、視界を360度変えられる映像を見ることができる。

立体映像もあり、まるで自分がその場所にいるかのようなリアルさで映像が飛び込んでくる。思わず画面に手を伸ばす来場者の姿もあった。

詩とアートのコラボレーション「手当てする」

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 エンドレスジャーニー展最後の部屋では、詩人・谷川俊太郎氏がMSFのために書き下ろした詩作品が来場者を迎える。

国境なき医師団に寄せる  谷川俊太郎

傷ついて赤い血を流し
痛みに悲鳴を上げるのは
敵も味方もないカラダ
ココロは国家に属していても
カラダは自然に属している

肌の色が違っても
母の言葉が違っても
信ずる神が違っても
カラダは同じ
ホモ・サピエンス

いのちがけで
いのちを救う
カラダに宿る
生まれながらの
見えない愛

国境は傷
大地を切り裂く傷
ヒトを手当てし
世界を手当てし
明日を望む人々がいる
 

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この空間は、「手当てする」をテーマに、谷川俊太郎氏の詩と、美術作家・諸泉茂氏による「温度計」をモチーフにしたアート作品とのコラボレーションで構成されている。諸泉氏はこう趣旨を語る。「この部屋では、訪れてくださった方たちが『手当て』します。温度計に手を当てて自分の体温を確認し、そこに線を引き、今日の展覧会を見て感じたことを書き残してもらう。その言葉は、国境なき医師団を勇気づけ、新たな活力になるに違いありません」 

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来場者は、温度計に手を当てて自分の体温を感じながら、思い思いの言葉を書き残した。
「私のあてた手の熱さが、国境なき医師団と共に世界の平安な暮らしに結びつきますように」
「将来絶対に国境なき医師団の看護師となって、世界のどこかで苦しんでいる人を助ける。そのために、一生懸命今を頑張る」
「遠い話ではなく、すぐそこにいる人の出来事なんだと感じました」
「命のあたたかさを想う。来てよかった」
「私には何ができるだろう を考えるのをあきらめずに生きていく」
「戦争するのも人間だけど、助けるのも人間なんですね」
「何気ないきっかけで始めた募金でしたが、世界の一人一人につながっていることを感じさせられました。世界のたくさんの人が何の心配もない1日を過ごせるように祈っています」
 

生の声を聞く「ギャラリーツアー&トーク」

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会場では1日3回、海外派遣スタッフや事務局スタッフが展示の詳しい説明と自身の体験談を語る、「ギャラリーツアー&トーク」を開催。実体験にもとづく臨場感あふれる解説に、参加者が聞き入った。 

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トークでは、医師やアドミニストレーターをはじめとするさまざまな職種の海外派遣スタッフが、現場で直面した困難やMSFで活動する喜びなど、自身の体験を語った。

ほかにも期間中には、MSFの現場取材を続けるいとうせいこうさんによるトークイベントや、フォトグラファーの渋谷敦志氏とMSF手術室看護師の白川優子によるクロストークイベントなど、さまざまな企画が催された。
 

Endless JourneyをEnd This Journeyへ

生きるために終わりの見えない移動を強いられ、過酷な環境にいる人びと。その人が誰であろうと、そこがどこであろうと、国境なき医師団は医療を必要とする人びとのもとへ駆け付ける。強いられた旅路を、一日も早く終わらせるために。

この企画展は、今後、大阪など国内数カ所での開催を予定している。
 

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