Gaviへの米国の資金停止は最悪なタイミング──国境なき医師団、人道危機下の子どもたちへの予防接種強化を改めて訴え

2025年07月04日
ブルンジの難民キャンプで、コンゴ民主共和国から逃れて来た子どもに、はしかの予防接種を行う国境なき医師団(MSF)スタッフ=2025年4月24日 © Dorine Niyungeko/MSF
ブルンジの難民キャンプで、コンゴ民主共和国から逃れて来た子どもに、はしかの予防接種を行う国境なき医師団(MSF)スタッフ=2025年4月24日 © Dorine Niyungeko/MSF

Gaviワクチンアライアンス(以下、Gavi)の第4次増資会合が6月25日に開かれ、国境なき医師団(MSF)はGaviとその理事会メンバーおよび資金を拠出する国や団体に対し、人道危機下に置かれている子どもに命を守るワクチンを届けるよう、今こそ注力すべきだと訴えた。
 
Gaviは、世界で最も経済的に厳しい環境で暮らす子どもへの予防接種を拡大するために、25年前に設立された。今回の会合では、今後5年間の活動資金について話し合われたが、目標額である119億米ドルには届かず、資金不足に直面している。
 
これは、米国政府が資金公約を撤回したことが一因だ。米国はこれまでGaviの最大の援助国のひとつで、Gaviの予算の約13%を拠出していた。しかし、米国は会合でGaviを批判し、ワクチンの安全性と科学性に疑問を呈した。
 

チャドで行われたジフテリアの集団予防接種の様子=2024年1月29日 © Johnny Vianney Bissakonou/MSF
チャドで行われたジフテリアの集団予防接種の様子=2024年1月29日 © Johnny Vianney Bissakonou/MSF


MSFは世界で最も支援が届きにくく、顧みられない地域に暮らす子どもたちに、50年以上にわたり予防接種を行ってきた。そのため、人道援助の現場において、ワクチンの入手と提供を複雑かつ高額にしている障壁や課題の存在を痛感している。

MSFはGaviからの資金提供を受けていないが、各国の保健省と緊密に連携して活動しており、MSFが各国での活動で使用するワクチンの半数以上は、保健省がGaviを通じて調達したものだ。

今回の会合を踏まえ、MSFインターナショナルの医療コーディネーターであるダニエラ・ガローネ医師と、MSF米国グローバルヘルスアドボカシーおよび政策責任者であるミヒル・マンカドが声明を発表した。

MSFインターナショナルの医療コーディネーター、ダニエラ・ガローネ医師の声明

今こそワクチンへのアクセスを強化すべきことは明らか

ダニエラ・ガローネ医師 © MSF
ダニエラ・ガローネ医師 © MSF
会合で見られたGaviの今後5年間の活動を支援する国際的な連帯は心強いものです。一方で、資金不足が大きな課題となっています。

Gaviと資金拠出者たちは、人道危機の現場にいる子どもたちへの予防接種を、より強化する姿勢を緩めてはなりません。

予防接種率の低さが、地域社会や医療体制に壊滅的な影響を与えていることを、MSFは目の当たりにしています。

私たちが活動している地域の多くが、予防可能な病気──例えば、スーダンのダルフール地方でははしかナイジェリアのカノではジフテリアの流行に見舞われています。その一因は、ワクチンへのアクセスが限られていることです。

世界のワクチン未接種の子どもの半数以上が、紛争地、難民キャンプ、医療から切り離された遠隔地など、人道援助を必要とする場所で暮らしていることを考えれば、今こそワクチンへのアクセスを強化すべきことは明らかです。

子どもたちが確実に予防接種を受けられるようにするためには、十分な資金、政治的意思、そして資金拠出者や各国政府の継続的なコミットメントが必要です。

だからこそ、MSFは、Gaviとその理事会メンバーおよび資金拠出者に対し、人道危機の現場で暮らす子どもたちのワクチンへのアクセス改善を、改めて訴えます。少なくとも、5歳以下のすべての子どもが継続的にワクチンを接種できるよう、強く求めます。

チャド東部アドレのMSFが支援する診療所で予防接種を受ける男の子=2024年7月8日 © Thibault Fendler/MSF
チャド東部アドレのMSFが支援する診療所で予防接種を受ける男の子=2024年7月8日 © Thibault Fendler/MSF

MSF米国グローバルヘルスアドボカシーおよび政策責任者、ミヒル・マンカドの声明

予防接種は人道危機下の子どもたちの命綱

ミヒル・マンカド © MSF
ミヒル・マンカド © MSF
ワクチンの安全性に誤解を招く主張を、国際的なワクチン資金への援助削減の口実とするのは、残酷で無謀な行為と言わざるを得ません。

米国政府がGaviへの資金提供を打ち切るという決定は世界的に深刻な影響を与えることになります。数えきれないほどの子どもたちが予防可能な病気で命を落とすことになるでしょう。
 
MSFは医療団体として、毎年何百万人もの子どもたちに安全に予防接種を行っています。私たちの患者の多くは、紛争地帯、難民キャンプ、そして、医療から切り離された農村などに住んでおり、今なお肺炎や下痢、はしかといった病気で命を落としているのです。 

私たちがこういった場所で予防接種を行うとき、親たちは我が子をこれらの致命的な病気から守ろうと、何時間も列を作って待っています。 

彼らにとってGaviの支援を受けるような予防接種プログラムは、文字通り命にかかわる問題なのです。

米国政府のGaviへの資金拠出撤回の決定は、最悪のタイミングだと言えるでしょう。今、世界中で医療体制への支援は崩れつつあり、予防接種の普及率は依然として低く、ワクチンで予防可能な病気の流行が増えているのです。
 
Gaviはこれまで1700万人もの子どもの命を守ってきました。その活動は、これまで以上に重要性を増しています。

私たちは米国議会に対し、憲法で定められた権限を行使し、次期予算においてGaviへの支援を継続するよう強く求めます。

エチオピアの国内避難民キャンプで行われたMSFの集団予防接種に集まる人びと=2025年5月5日 © Metasebia Teshome/MSF
エチオピアの国内避難民キャンプで行われたMSFの集団予防接種に集まる人びと=2025年5月5日 © Metasebia Teshome/MSF

この記事のタグ

関連記事

活動ニュースを選ぶ