繰り返される海の悲劇──ロヒンギャの人びとに安全で尊厳ある保護への道を
2026年07月21日
命がけの避難を強いられるロヒンギャ
安全な場所を目指していた数百人のロヒンギャの人びとが命を落としたとみられる事故について、今回のように情報が限られ、詳細が分かるまで時間を要することは、残念ながら珍しいことではない。こうした悲劇は、ミャンマー・ラカイン州でロヒンギャの人びとが長年置かれてきた過酷な状況の中で、繰り返し起きている。
今回の事故は、その前に起きた沈没事故との痛ましい共通点がある。4月9日に、ロヒンギャ難民やバングラデシュ国籍者を含む推定250~280人を乗せ、マレーシアへ向かっていた漁船が、悪天候と過密な乗船状態によりアンダマン海で沈没した。生存が確認されたのは、ドラム缶や木片につかまって漂流していた9人だけだった。さらに同月下旬には、別の沈没事故の生存者に対し、マレーシア北西部・ペナンで活動するMSFチームが支援を行っている。
このような航海を生き延びることは、極めて困難だ。マレーシアでMSFが支援した人びとの中には、この旅路から生還した後、過密状態の船での移動や、航海中に経験した暴力について語る人もいる。その中には、人身売買や密入国に関わる者による性暴力も含まれている。
ラカイン州での暴力的な迫害、土砂崩れや洪水の被害を受けているバングラデシュ・コックスバザールの難民キャンプでの過酷な生活環境、そしてマレーシアを目指す危険な航海——。ロヒンギャの人びとが経験するこうしたトラウマは、メンタルヘルス支援を必要とする人の増加という形でも現れている。ペナンにあるMSFの診療所では、2025年6月から11月にかけて、メンタルヘルス支援を求める患者数が20%増加した。
過去最悪の犠牲と高まる医療ニーズ
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2025年はアンダマン海の横断を試みて犠牲となった人が最も多い年となった。海上で死亡または行方不明になった人は約900人に上ると報告されている。
マレーシア・ペナンにあるMSFの診療所でも、この危険な航海を生き延びて到着した新規患者が急増している。患者数は2023年の212人から2025年には620人へと、ほぼ3倍に増加した。しかし、この数字はMSFの受け入れ能力や、人びとが診療所にアクセス可能かどうかといった要因によって左右される。医療を必要とする新たに到着したロヒンギャ難民の実数は、報告されている人数を大きく上回る可能性が高い。
今回の事故では生存者は確認されておらず、その声を伝えることはできない。そのため、MSFがペナンの診療所で支援しているロヒンギャの母親であり、心のケアを受けているアイシャさん(仮名)の体験を紹介する。3年前の航海について語られたその証言は、現在もMSFが耳にしている多くの証言と痛ましいほど重なっており、安全を求めるロヒンギャの人びとが直面する危険の深刻さを浮き彫りにしている。
少しでも動けば海に投げ込まれてしまうような状況でした。そのため、ほとんどの乗客は船底や甲板の下に身を隠していました。数日が過ぎると、人びとはひどく衰弱し、体調を崩す人も出てきました。犬にかまれた傷が悪化していた女性は、密航業者に「対応できない」と判断され、海に投げ込まれました。また、口論になった後、多くの若者たちも海へ突き落とされました。
ロヒンギャの母親 アイシャさん
安全で尊厳ある保護への道を
海上での移動は、この人道・保護危機の一側面に過ぎない。多くのロヒンギャの人びとは、危険で搾取的な密航・人身取引ルートを通って陸路でも移動しており、その過程で身体的暴力や性暴力、搾取を含む深刻な被害にさらされている。
一方、UNHCRによると、2024年12月から2026年3月31日までの間に、約15万人のロヒンギャ難民が新たにバングラデシュで登録された。これは、ミャンマー・ラカイン州で紛争と不安定な状況が今も続き、人びとが避難を余儀なくされている現実を示している。
MSFは、安全と保護を求める中で今回の悲劇により命を落とした人びとを悼むとともに、その家族や愛する人たちに心から哀悼の意を表する。
今回の悲劇は、ロヒンギャの人びとが今も直面する迫害や暴力、そして基本的な権利の剥奪が、命に関わる深刻な結果をもたらしていることを改めて浮き彫りにした。MSFは、暴力や迫害から逃れる人びとに対し、安全で尊厳のある保護への道を確保するよう繰り返し求める。また、ロヒンギャの人びとが命を懸けた危険な航海を強いられる状況を生み出している根本的な要因への緊急の対応を呼びかける。




