閉じ込められ、忘れ去られたロヒンギャの人びと 安息の地はどこに──
2024年09月11日2023年11月には、ミャンマー西部にあるラカイン州北部で、国軍とアラカン軍の紛争が始まった。重火器の使用、ドローンによる空爆、放火攻撃などの過激な暴力は、村全体を破壊し、民間人を殺傷し、避難せざるを得ない状況に追い込んでいる。
さらに、紛争当事者はいずれも民間人を強制的に徴用し、複数の地域で民族間の緊張が高まっている。
紛争の激化によってラカイン州が荒廃していく中、ロヒンギャの人びとはますます窮地に追い込まれている。国境を越えてバングラデシュに入ろうにも、その費用を出せない人びとは、保護も援助も受けられないまま放置されている。
各地で勃発する衝突 巻き込まれる民間の人びと
その時、私は地雷を2つ、踏んでしまったのです。1つ目では無傷でしたが、2つ目の爆発で足を吹き飛ばされました。
ロヒンギャの男性 ルフルさん
ルフルさんは国境を越えてバングラデシュに入り、コックスバザールにある国境なき医師団(MSF)の病院にたどり着いた。それまでの9日間、ルフルさんは治療を受けることができなかった。
家、家畜、作物を置き去りにするのは、信じられないほどの苦痛でした。
ロヒンギャの男性 モジブラーさん
ブティドンの西20キロメートルに位置するマウンドーでは、今年5月に紛争当事者間の過激な衝突が急増し、8月から再び激化している。その特徴は、ロヒンギャの集団に対する武力攻撃であり、その中にはブティドンの襲撃事件を生き延びた人もいた。
8月5日から17日にかけて、MSFはバングラデシュのコックスバザール・キャンプで、暴力によってケガをしたロヒンギャ患者83人を治療。その48%は女性と子どもだった。この83人はマウンドーと国境線通過の間に受けた襲撃から逃れて来たと話している。
MSFの施設に着いた患者は、銃で撃たれた、地雷で負傷して身体が不自由になった、HIVや結核といった命の危機となる病気に使う薬を切らした、などの理由で重体となっている。これらの医薬品は、ラカインではもう手に入らない。
「旅のあらゆる局面で試練に見舞われました」とモジブラーさんは話す。
繰り返される民間・医療への攻撃
6月、MSFはブティドン、マウンドー、ラテドンの3カ所で、事務所と医療倉庫を焼かれ、医療・人道援助の無期限の中断を余儀なくされた。
この活動停止の前から、MSFは市場や村落のような人口の多い民間地域への攻撃、そして、医療施設に対する攻撃を目撃していた。これらは、患者や医療従事者の生命を脅かす行為である。
紛争当事者が民間人を保護し、国際人道法の義務を守るためにとった努力は、あったとしてもごくわずかだ。
この人命軽視がもたらす犠牲は計り知れない。2024年7月以来、MSFはバングラデシュで、過激な暴力に巻き込まれて負傷した男性、女性、子どもなど115人のロヒンギャ患者をMSFの施設で受け入れている。
新たにコックスバザールに着いたロヒンギャの人びとは、なんとか紛争地域を逃れ、ある程度の医療を受けられるようになったものの、ミャンマーへの強制送還を恐れて常に身を隠さざるを得ない。
一方で、120万人が鉄条網の向こうに暮らすキャンプは、ますます不安定な状況に直面している。
ミャンマーの武装集団への強制徴用を含め、キャンプでの暴力や誘拐の増加もさることながら、多くの人びとは、自ら体験してきたことや、バングラデシュや故郷にいる家族の身を案じて、恐怖と不安のなかで暮らしている。
ようやくバングラデシュにたどり着いたモジブラーさんも、苦難から解放されないままだ。
親族を失い、この先どうなるか見通せないこともあって、現状に折り合いをつけるにも苦労しています。
ロヒンギャの男性 モジブラーさん
一刻も早く公平な人道・医療援助を
MSFは紛争の当事者に対し、国際人道法上の義務と「区別」、「均衡性」、「予防」の原則を順守するよう求めている。その内容には、無差別攻撃の禁止だけでなく、直接攻撃や攻撃の影響から民間人を守ることも含まれる。
MSFは国境両側の当局と全関係者に対し、一刻も早く公平な人道・医療援助を増やすよう要請する。
※身元を保護するために仮名を使用しています。