レバノン:強制避難が続く中、国境なき医師団は基礎的サービスの回復を支援
2026年06月10日
レバノンの首都ベイルート南部のダヒエ地区は、2026年3月2日の情勢悪化以降、数百回に及ぶイスラエル軍の空爆により甚大な被害を受け、実質的に都市部にある「最前線」となっている。
この地域では度重なる退避要求が出されており、直近では6月1日、イスラエル軍が同地域への攻撃を予告したことで、多くの住民が再び避難を余儀なくされた。現地で生活に不可欠な基礎的サービスの回復支援にあたっている国境なき医師団(MSF)は、こうした強制的な避難と、人びとの安全が確保されていない状況を懸念している。
紛争の影響で高まる健康リスク
紛争開始以降、地域の医療施設の多くもその影響を受けている。基礎診療所や病院では、避難による人員不足や施設の損壊、深刻な治安上のリスクを理由とした閉鎖が相次ぎ、人びとの医療へのアクセスはいっそう制限された状況だ。
避難を余儀なくされた50歳の母親ジャミラさんは、言語障がいのある14歳の息子ウィサムさんとともに、収入も支援もないままダヒエのすぐ近くのテントで2カ月を過ごした。
誰も私のことを気にかけてはくれません。何日も食べ物も水もない日が続き、体を洗うことすらできませんでした。
ジャミラさん
彼女の経験は決して例外ではない。ダヒエ一帯では、数千世帯の避難民が住居を失い、生活を支えてきた仕組みも分断され、再建の見通しは立っていない。
MSFは基礎的サービスの回復を支援
このような状況を受け、MSFは3月に緊急対応を強化。医療機関を訪れる手段を失った人びとに直接医療を提供するため、9つの移動診療チームを展開した。移動診療では、心のケア、急性および慢性疾患への対応、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)、予防接種など、さまざまな基礎的医療サービスを提供している。過去6週間で、MSFのチームは2730件以上の診療を実施した。しかし、治安上の懸念やダヒエ外への新たな人の移動により、移動診療の半数は活動の一時停止を余儀なくされた。状況が整い次第、活動を再開する予定だ。
またMSFは、イスラエルによる攻撃で被害を受けた6カ所の基礎診療所の修復を支援するとともに、被災した人びとに生活必需品や衛生キットを配布。さらに、自治体と緊密に連携しながら、水・衛生分野の活動も実施している。これらの取り組みは、3万人以上の安全な水へのアクセスと衛生環境の改善を目的とし、結果として感染症リスクの軽減と生活環境の向上にもつながるものだ。
「子どもや高齢者、基礎疾患のある人びとなどは、とりわけ紛争の影響を受けやすくなります。生活に不可欠なサービスへのアクセスが困難になる、あるいは適切に機能しなくなる中で、彼らは大きなリスクにさらされています」
ベイルートでMSFの緊急プロジェクト・コーディネーターを務めるギリェルメ・ボテーリョはそう話す。
「地域により近い形で医療を届けるMSFの存在は、需要が高まる状況下において、既存の医療サービスを補完するうえで重要な役割を果たしています。同時に、この支援は一時的なものであり、最終的には地域の保健当局が自立して医療を提供する能力を回復し、それを維持できるようになることを目指しています」
安全な帰還への障壁
公共サービスの広範な破壊、とりわけ上下水道や医療施設、基礎インフラの損壊は、復旧に向けた大きな障壁となっている。これらのサービスに安定してアクセスできない状況では、多くの人びとにとって帰還は現実的でも安全でもない。
「ダヒエの状況は、レバノンにおける今回の情勢悪化がもたらした、差し迫った人道的ニーズと長期的な影響の双方に対応する必要性を示しています」とボテーリョは話し、続ける。「レバノン南部と東部ベカー高原でイスラエルによる攻撃が大幅に激化する中、このような状況がさらに広がることを懸念しています」
より多くの人びとが自宅からの避難を余儀なくされ、地域社会全体で尊厳ある生活を支える条件が一層損なわれる恐れがあります。これは、度重なる危機によりすでに弱体化している保健医療体制に、さらに大きな負担をかけることになるでしょう。
MSFの緊急プロジェクト・コーディネーター ギリェルメ・ボテーリョ




