【動画】避難と恐怖の狭間で揺れる人びと──レバノンで拡大する爆撃と退避要求

2026年03月18日

イスラエルによる爆撃開始からわずか2週間足らずの間に、レバノンでは80万人以上が避難を余儀なくされた。容赦のない攻撃と広範囲に及ぶ退避要求により、人びとは自宅や故郷を後にせざるを得ない状況が続いている。

広がる避難、取り残される人びと

大規模な避難は、人びとの苦難にさらに拍車をかけている。過去に避難して以来、自宅に戻れないままの人も少なくない。

レバノン南部の国境沿いの町オダイセから逃れてきたジーナさんも、2023年以降、国内避難民として生活を続ける数千人のうちの一人だ。現在は、レバノン第3の都市サイダ近郊の町マルワニエにある「モンタナ・シェルター」と呼ばれる避難所で、家族とともに暮らしている。

「家族と一緒にオダイセから来ました」とジーナさんは話す。

「私たちは(2023年に)村から強制的に避難させられた最初の住民の一部でした。この避難所での生活は、もう3年近くになります」

以前は家族5人で1つの部屋に暮らしていましたが、最近は人が次から次へとやってきて、部屋によっては30人もの人が肩を寄せ合って生活しているほどです。

ジーナさん 避難所で暮らす女性

サイダにある避難所のフェンスに干された衣服=2026年3月12日 © MSF
サイダにある避難所のフェンスに干された衣服=2026年3月12日 © MSF

避難所の過密化で深まる不安

移動診療で患者に寄り添うMSFスタッフ=2026年3月7日 © MSF
移動診療で患者に寄り添うMSFスタッフ=2026年3月7日 © MSF
かつてホテルだったこの「モンタナ・シェルター」には、現在120世帯以上の家族が身を寄せている。その多くは、南部の村々が強制的に退避させられた約3年前から、この場所での暮らしを余儀なくされてきた。

最近の退避要求によって、新たに家を追われた人びとが続々と到着したことで、避難所は過密状態に陥っており、生活の負担はさらに重くなっている。

ここ数日、MSFは生活環境の急速な悪化を目の当たりにしている。中でも、強制的に避難を強いられた人びとの状況は深刻だ。レバノンでMSFコーディネーターを務めるルー・コーマックは言う。

「人びとは再び移動を余儀なくされており、その負担が彼らの心身の健康に大きな影響を及ぼしています」

「安全地帯」の崩壊

人口密集地への爆撃が激化していることに加え、新たに出された一斉退避要求によって、人びとは村を離れざるを得ない状況に追い込まれている。

3月12日の朝、MSFのチームがモンタナ・シェルターに到着したとき、前夜にわずか150メートル先で起きたイスラエルの空爆の衝撃から、人びとはまだ立ち直れていなかった。空爆による死傷者はおらず、避難所の被害も軽微だったものの、人びとは恐怖におびえていた。

「イスラエル軍の空爆は何の警告もなく、避難所のすぐそばで起きました」とジーナさんは話す。

避難所全体が揺れて、子どもたちは泣き出しました。もう、こんな状況にはうんざりです。

ジーナさん 避難所で暮らす女性

この攻撃が起きたのは、イスラエル軍がリタニ川よりさらに北、ザハラニ川方面まで退避要求の範囲を拡大した直後だった。

「このモンタナ・シェルターをはじめ、地方当局が『安全地帯』と指定していた少なくとも7カ所の避難所は、もはや安全とは言えません」とコーマックは言う。

これらの避難所はすべて、イスラエル軍の新たな退避要求の対象に含まれてしまったのです。

ルー・コーマック レバノンのMSFコーディネーター

サイダでMSF移動診療チームによる診察を待つ人びと=2026年3月12日 © Salam Kabboul/MSF
サイダでMSF移動診療チームによる診察を待つ人びと=2026年3月12日 © Salam Kabboul/MSF

ガザと同じ──拡大する退避要求

イスラエルが退避要求の対象をザハラニ川に至るすべての地域にまで拡大したのは、人口密集地を標的とした措置だ。イスラエルは全住民に対し、レバノン南部の国境から最大50キロ離れた場所へ避難するよう指示している。

「過去2年半の間にガザで目にしてきた状況と同じことが、ここでも起きています」とコーマックは話す。

「それは広範囲に及ぶ退避要求、数千もの家族が絶えず避難を強いられる状況、そして人口密集地への組織的な爆撃です」

暴力が止まらなかった15カ月間の不安定な停戦(※)を経た今、レバノンの人びとは再び『逃げるか、爆撃にさらされるか』という厳しい選択を迫られています。

ルー・コーマック レバノンのMSFコーディネーター

  • 2024年9月、イスラエル軍がレバノンでの攻撃を激化。11月に停戦合意となったが、イスラエル軍による攻撃は続いていた。

現在、レバノン国土の約14%が退避要求の対象となっていると推定されており(ロイター通信)、ベイルート郊外や南部国境沿いの避難区域は1300平方キロメートル以上に及ぶ。わずか2週間足らずの間に、約200の村や町から人びとが避難を余儀なくされた。 

サイダで患者の対応に当たるMSFスタッフ=2026年3月12日 © MSF
サイダで患者の対応に当たるMSFスタッフ=2026年3月12日 © MSF

避難したくでもできない──深刻化する苦難

MSFはザハラニ川より下流の地域から北へ向かって避難する人びとの姿を確認しており、新たな退避要求がもたらす影響を注視している。

しかし今回は、避難所が満員であることや、避難経路が安全でないこと、移動手段がないこと、さらに行き先そのものがないといった理由から、避難をしない選択をする人が増えている。こうした状況は、人びとが危険にさらされるリスクを高め、犠牲者の増加につながる恐れがある。

同時に、人びとは繰り返される避難による経済的・心理的負担を抱えている。住まいや生計手段の喪失、増え続ける負債、極度の疲労、心的外傷、そして医療へのアクセスの欠如などが重なり、日々の生活は一段と厳しさを増している。

ベイルート中心部のアザリエ避難所で患者の対応に当たるMSFスタッフ=2026年3月9日 © Maryam Srour/MSF
ベイルート中心部のアザリエ避難所で患者の対応に当たるMSFスタッフ=2026年3月9日 © Maryam Srour/MSF

レバノンでのMSFの活動

援助物資を届けるMSFスタッフら=2026年3月5日 © MSF
援助物資を届けるMSFスタッフら=2026年3月5日 © MSF
3月13日現在、MSFはレバノン全土に12以上の移動診療ユニットを配置し、基礎医療、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)、心のケア、心理社会的支援を提供している。情勢が悪化する前から運営してきた診療所や各プロジェクトでの活動も引き続き行っており、患者へのケアを継続している。

また、MSFは紛争の影響を受けている地域の病院や基礎診療所への支援を開始し、燃料や医療物資を提供するとともに、病院スタッフ向けに食品の配布も行っている。地元の住民団体と連携し、遺体袋を含む救急対応キットの提供も進めている。

MSFは今後も保健当局やパートナー団体と連携し、状況に応じて必要な援助をさらに拡大していく方針だ。

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