いとうせいこうさんによる新作ルポ刊行『ガザ、西岸地区、アンマン 「国境なき医師団」を見に行く』

2021年01月20日
2016年から国境なき医師団(MSF)の活動に同行し、取材を重ねてきた、作家・クリエイターのいとうせいこうさん。この度、中東の現場を取材したルポタージュが刊行されました。

パレスチナ問題や長年続く紛争の狭間に生きる中東の人びとと向き合い、彼らの絶望と、時には希望の声に耳を傾け、自分は「彼らの伝言を運ぶために」生きているのだと語ります。 

『ガザ、西岸地区、アンマン 「国境なき医師団」を見に行く』
著者:いとうせいこう
定価:本体1500円+税、発行:講談社(2021/1/20)
仕様:単行本(234ページ)
初出:『群像』2020年3月号~9月号
講談社公式サイト(各種オンライン書店で購入もできます)



刊行に寄せて   いとうせいこう

パレスチナ自治区ガザにあるクリニックの待合室にて <br> © 横田徹
パレスチナ自治区ガザにあるクリニックの待合室にて 
© 横田徹
「国境なき医師団」(略称MSF)の活動地を世界中あちこち見て回ることになったのが2016年。
もとはと言えば、男も日傘を持つべきだとツイッターで主張したことがきっかけで、見知らぬ傘屋さんと共同で実際にそれを作り、パテント料をもらうつもりはなかったから、ふとMSFに寄付することにしたのだった。 
 
そのうち団からたまたま顛末を取材された俺は、その場で彼らの活動の細部に興味がわき、逆に取材を申し込んだ。それから3年、すでに『「国境なき医師団」を見に行く』というタイトルでまとめた単行本にもあるように、ハイチ、ギリシャ、フィリピン、ウガンダでの彼らの活動に密着取材をさせてもらってきた。
そこで終わる気はさらさらなかった自分は、そのまま南スーダンヘと足を伸ばし、あるいはMSF 日本の内部にも密着して『「国境なき医師団」になろう!』という本を出し、さらにはずっとこの目で確かめたかった中東の活動地に入ることになった。それが2019年のことである。
 
基本的に危険な地域に自分は行かない約束である。そもそも危険であれば、MSFが俺の取材に応じている暇などない……はずなのだが、今回まとまったこの『ガザ、西岸地区、アンマン』には各所に緊張が走る場面がある。自分自身、遠くから銃口を向けられていた記憶が一度ならずあり、知らぬ間に戦場ジャーナリストの卵みたいなことになっているような気がする。あれ? いつからこんなことに? 
ヨルダン・アンマンの再建外科病院での取材風景 <br> © 横田徹
ヨルダン・アンマンの再建外科病院での取材風景 
© 横田徹
しかし例えばイスラエルの力によって狭い地域に押し込められ、世界の矛盾のシンボルともなっているパレスチナ・ガザ地区に入る以上、取材者の俺一人が安穏としていられるはずもない。そして事実、トランプ政権によって新たな紛争への引き金をひかれた当地で、銃弾は人々の足の肉を破り、骨を打ち砕いていた。
 
コロナウイルスによって世界がさらに窮屈になる寸前のことである。今では全世界の人道組織の活動はさらに困難になり、それでも彼らは日々、目の前にいる患者のために全力を尽くしている。
 
その志が少しでも多くの人に伝わることを願って、また一冊こうした本を上梓する。 

<関連情報>
■本書の第一章をこちらから試し読みいただけます。いとうせいこうさんとMSF看護師白川優子の対談も掲載されています。
■MSFの関連書籍の情報は「書籍」ページに掲載しています。

【トークイベント報告】まだまだ「国境なき医師団」を見に行く——いとうせいこうさん 中東の今を語る(2020年01月30日掲載)
いとうせいこう x ジョン・ムーア対談——なぜ人道危機の現場取材を続けるのか(2019年10月09日掲載)
【トークイベント報告】遠い国の話ではない……人道危機の現場で人びと寄り添う 世界で起きていること(2019年08月30日掲載)
いとうせいこうさんが聞く 南スーダンの「今」と人道援助活動の道(2019年02月18日掲載)
【トークイベント報告】いとうせいこうの「『国境なき医師団』を見に行く」(2018年01月18日掲載)
 

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