いとうせいこうさんが聞く 南スーダンの「今」と人道援助活動の道

2019年02月18日掲載

いとうせいこうさんとウィル・ハーパー活動責任者 © MSFいとうせいこうさんとウィル・ハーパー活動責任者 © MSF

世界で一番新しい国、南スーダン共和国。長年続く紛争のため、この国では多くの難民・避難民が出ており、国民が基本的な医療を受けられる手立てもありません。2018年11月に南スーダンで国境なき医師団(MSF)のプロジェクトを訪問した作家・クリエーターのいとうせいこうさんが、MSFで約2年にわたり南スーダン活動責任者を務めたウィル・ハーパーと対談を行いました。

対談に先立って行われた南スーダン報告会では、2018年に和平協定が結ばれた後も不安定な情勢が続き、国内外で避難する人びとの帰還が進んでいない状況が語られました。せいこうさんが南スーダンから帰国して約3ヵ月、ハーパー責任者の話に、どんなことを感じたのでしょうか。 

厳しい状況が続く南スーダン

© MSF© MSF

いとう(敬称略):
報告会で話していた状況のなかでも、(避難している南スーダン人の)帰還の問題は、どういう体制を整えなくてはいけなくて、現在どこまで準備をしているんですか?

ハーパー:
避難している人、というのは、国外から南スーダンに戻ってくる難民だけではなく、南スーダン国内の避難民も含まれます。医療を提供するうえで課題は常にありますが、帰還に関しては、人びとが本当に安全だと感じられないのに、MSFが医療を提供することで、それを利用して帰還させようとするような、政治的にMSFを利用することには抵抗します。

いとう:
スーダンからは人びとが帰還しているけれど、ウガンダからは帰っていない状況と聞きました。これはなぜ?

ハーパー:
ウガンダは、歴史的に(国境を越えて)人が行ったり来たりしています。ウガンダ国境付近のエクアトリア州はまだ暴力が起こっていてとても危険なので、おそらくそれが、人が戻らない理由だと思います。この地域の村はまだ空っぽで、人びとは安全になるのを待っていると思います。 

© Frederic NOY/COSMOS© Frederic NOY/COSMOS

 いとう:
まだまだ現地は厳しい状況だと思いますが、人材で一番足りていないのはどんな役割の人ですか?

ハーパー:
南スーダンは紛争や不安定な情勢のため人びとが教育を終えられない状態です。MSFの現地スタッフも多くが隣国で教育を受けています。医療スタッフは医師や看護師などあらゆる人が必要で、血液サンプルを取るような検査室の人材も必要です。

いとう:
報告会では、Integrated Community Care Management(ICCM:包括的地域症例管理)という新しい試みの話がありました。南スーダン現地の医療スタッフが必要、ということでしょうか?

ハーパー:
ICCMは、現地の地域住民を教育して、マラリアなどの診断と治療ができるようにする試みです。このモデルのいい点は、スタッフが高度な医学教育や高等教育を受けていなくてもいい点。看護師でなくても、基本的な検査や治療を行える。それが多くの人の命を救っているのです。ちょうど今、こうして話している間にも導入が進められていて、専門家が3ヵ月間、現地の人びとに教育を行い、その後は普段からこの形でできるようにしていきます。

© Frederic NOY/COSMOS© Frederic NOY/COSMOS

いとう:
ICCMのほかに、ウィルさんが南スーダンでチャレンジしたことは何ですか?

ハーパー:
新しい活動方法、ニーズを満たす方法を常に試していました。ロジスティック面では、生物化学的に廃棄物を分解する管理方法を実験的に試しました。また、現地ではディーゼルの発電機を動かすのが難しいため、病院や診療所にソーラーパネルを設置して太陽光発電を試しました。医療面では、マラリアを診断する新しい迅速診断テスト(RDT)を導入しました。データを分析して、これまでと正確性を比較して調べています。さらに、路面の状況が悪いときにも使える、新しいタイプの車両も導入しました。

いとう:
(南スーダンを訪問時に)薬剤倉庫で見た、すっごい大きいジープ、あれですか?まるでサイエンス・フィクションみたいだった!

ハーパー:
それです(笑)。活動では、医療面や医療以外の面でも、常に新しいことを試しています。南スーダンのような場所では、基本的なことをうまく、継続してやっていかなければいけません。 

援助活動の価値が目に見える

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いとう:
ウィルさんのキャリアについて聞きたいのですが、MSF以外にも人道援助団体で働いていたんですか?最初に人道援助で働き始めたのはいつですか?

ハーパー:
最初は、教師になるために勉強していました。21歳のときに教職課程を終えて、南アフリカの地元団体で仕事を始めました。それが私の仕事の出発点だと思います。(母国の)アメリカでも南アフリカでも、人道支援の大きなニーズを見ていました。人びとが何かを必要としている現場で働きたい、と考えました。その点、南スーダンは非常にニーズが大きいので、もう何度も行って働いています。

いとう:
南スーダンという国がウィルさんを人道援助という職業にさせたということでしょうか?

ハーパー:
ほかの人道・緊急援助で働いていたので、必ずしも南スーダンがきっかけ、というわけではありません。でも南スーダンという場所は・・・例えば、私は南スーダンで新しいスタッフが着任すると彼らにブリーフィングをします。その時にいつも言うんです。南スーダンは、何をどうやってやるのか、自分たちで疑問に感じて考えていくべき場所なんだ、と。でも、「なぜ」そこにいて「なぜ」やるのかという質問はしない、と。

いとう:
「なぜ」という質問は、どうしてないんですか?

ハーパー:
ニーズがあるから、です。私たちはそこにいて、人びとが必要としている姿を目の当たりにし、それに答えて活動している。その価値が、目に見えるからです。 

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いとう:
MSFのいろいろな現場で話を聞かせてもらって、テレビで活動を見て参加した、という人が結構いたんですよね。ウィルさんはどうだったのかな、と。どんなきっかけで人道援助の道に入ったのか、そういうことを発信していくのも、僕は証言活動の一環だと思っているんです。

ハーパー:
僕の場合は、ほかのNGOでも活動していて、例えばミャンマーで働いていた時には、MSFの活動も見ていました。人道援助に携わって行きたいと思ったとき、MSFのやり方が、自分の信念とマッチしていると思ったんです。

いとう:
これからMSFに参加したい、という若い人たちがいると思います。彼らにアドバイスをするなら、どんなことですか?

ハーパー:
「コミットメント(関わること)」です。本当に活動をする気があるのか、ただそう考えているだけなのか、コミットする、というのは、例えばMSFから要請があれば半年でも1年でも、それに答えてしっかりと活動に関わる必要があります。難しいし、フラストレーションもあると思います。でも、せいこうさんも現場でご覧になったと思いますが、この仕事は気持ちをかきたててくれますし、自分個人を超えた、大きなことに参加しているという感覚を得られる仕事なんです。 

いとうせいこうさんの連載で、南スーダンの状況やMSFの活動をぜひ知ってください!
再び旅に出る---いとうせいこう『まだまだ国境なき医師団を見に行く』(南スーダン編)
 

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