イスラエル軍と入植者による終わらない暴力──パレスチナ・ヨルダン川西岸地区 刻まれる心の傷
2025年07月28日
「マサーフェルヤッタの村々にはイスラエル軍が何度も押し寄せ、住宅が取り壊されています。一部の村では、家屋の85%が破壊されました──」
パレスチナ・ヨルダン川西岸地区ヘブロンで国境なき医師団(MSF)の人道問題渉外マネジャーを務めるフレデリケ・ヴァン・ドンゲンはそう語る。
「イスラエル政府による西岸地区の併合を目的に行われているといわれる政策が、患者の心身に深刻な影響を及ぼしています」
入植者による攻撃は、しばしばイスラエル軍が同行する形で、ほぼ毎日のように発生し、負傷者や入院患者が増えています。
フレデリケ・ヴァン・ドンゲン MSFの人道問題渉外マネジャー
日常化する暴力の中で
ここ数カ月、マサーフェルヤッタに住むパレスチナ人住民は、イスラエルの入植者による攻撃の激化に直面している。住民によると、暴力は日常的に繰り返されており、殴打、農地への家畜の侵入、道路の封鎖、家屋の取り壊し、そして絶え間ない心理的な圧力にまで及ぶ。
5月、イスラエルの入植者たちはマサーフェルヤッタのコミュニティの一つ、ジンバを襲撃した。襲撃の後に残されたのは、傷ついた住民、無残に踏み荒らされた農作物、そして平和への希望が失われたという人びとの深い恐怖だった。
「彼らは高齢の男性の頭を殴り、男性は15針以上縫うことになりました」とジンバの住民の一人、アリ・アル・ジャブリーンさんは話す。
「負傷者の一人は今もここにいて、手を骨折しています。ある男性は集中治療室で2週間過ごした後、深刻な心の不調を抱えるようになりました。暴力は止むことがありません」

標的となる生活の場
「彼らは3台の車でやって来ました──だいたい17人ほどの入植者です」
18歳のクサイ・アル・アムールさんは振り返る。彼は攻撃を受けた後、何週間も足を引きずっていた。
「彼らは私と父、兄のアフマドを殴りました。そして、その夜遅く彼らは戻って来たんです。避難所も診療所も、モスクも破壊されました。父は重体に陥り、心拍数は35まで低下しました。兄は何日も意識不明の状態でした。救急車が到着するまで、私たちは1時間以上も包囲されていました」
「精神的に辛いです」とアル・アムールさんは付け加える。入植者はほぼ毎日、夜もやってくるという。
だからといって、私たちがこの地を立ち去るのかって?いいえ、ここに残ります。いつか彼らが去り、私たちが平和に暮らせる日が来ることを望んでいます。
クサイ・アル・アムールさん ジンバの住民

子どもたちもまた、幼い頃から暴力、脅迫、動員にさらされており、その結果、悪夢、パニック発作、学校での集中力の低下といったトラウマの兆候が見られるようになっている。
「誰もが影響を受けています」とヴァン・ドンゲンは話す。
「暴力の脅威が常に存在するため、人びとは頭の中であらゆるシナリオを思い描いています。入植者が自宅に来たら何が起こるのか。妊娠中の妻や娘がいる場合、彼女たちを守ることができるだろうか。もし住まいを追われたらどうなるのか。母親が身体に障がいを抱えていたら、新しい場所へ移動できるのだろうか──と」
94%が暴力によるメンタルヘルスの相談
ヘブロンでMSFは医療および心のケアの提供に取り組んでおり、マサーフェルヤッタのベドウィンの人びとの新たなニーズにも対応。移動診療チームは、入植者による攻撃の影響を受けた人びと(子ども、女性、高齢者を含む)を対象に、基礎医療と心のケアを提供している。MSFのチームはまた、入植者による暴力や家屋の破壊によって強制的に避難させられたパレスチナ人への支援も行っている。

しかし、治安の悪化により、影響を受けた地域へのアクセスは著しく制限されたままだ。イスラエルの入植者による攻撃の恐れに加え、イスラエル軍の検問所や、最近発生したイスラエルとイランの12日間にわたる戦争が、治安状況をさらに不安定なものにしている。現地のチームは、西岸全域における対応の遅れ、道路の封鎖、そしてニーズの高まりを報告している。
「入植者とイスラエル軍による攻撃の頻度と激しさが最近増加していることは、強制移住と併合を目的とした政策の一環です。これらは直ちに終わらせなければなりません。占領国として、イスラエルにはパレスチナ人を保護する義務があります。しかし実際には、イスラエル軍は入植者による攻撃を容認するだけでなく、時には加担しています」とヴァン・ドンゲンは述べる。
国際社会はあまりにも長く沈黙を続けてきました。今こそ、イスラエル当局に対し、パレスチナ人を彼らの土地から意図的に追放する行為を止めさせるため、実効的な政治的、経済的圧力をかける行動を起こす時です。
フレデリケ・ヴァン・ドンゲン MSFの人道問題渉外マネジャー
