トークイベント:いとうせいこうの「『国境なき医師団』を見に行く」

2018年01月18日掲載

国境なき医師団(MSF)日本は、2017年12月22日、トークイベント「いとうせいこうの『国境なき医師団』を見に行く」(共催/朝日新聞社メディアビジネス局、後援/講談社)を開催しました。

このイベントは、作家のいとうせいこうさんがMSFの活動を取材したルポルタージュが書籍として発刊されたことを機に開催したものです。より多くの方々に医療・人道援助活動へのご関心・ご理解を寄せていただくことを目的としたイベントで、多方面からのご協力とご支援で実現しました。

本記事では、トークイベントの概要をお伝え致します。

開催概要

日時:2017年12月22日(金)午後7時~9時
場所:朝日新聞東京本社2階読者ホール
第1部:スペシャル対談
登壇者:いとうせいこうさん、安田菜津紀さん(フォト・ジャーナリスト)

第2部:MSF現場トーク
登壇者:いとうせいこうさん、菊地紘子(MSF看護師)、松本卓朗(MSFロジスティシャン)、谷口博子(MSF広報)

第1部 スペシャル対談「ぼくが知りたかったこと」

第1部は、安田さんがいとうさんに1年半に渡る取材についてお話を伺いながら、ご自身の現地取材についてもご紹介いただくスタイルで進められました。

取材することが傷つけてしまうことにはならないか

いとうせいこうさん(右)と安田菜津紀さん いとうせいこうさん(右)と安田菜津紀さん

いとうさんは、「ハイチ、フィリピン、ギリシャ、ウガンダの4ヵ国を回らせてもらって一番感じたのは、患者さんが身体だけでなく心にも大きな傷を負っていること」と話し、ジャーナリストでない自分はそうした方たちに質問をすることも難しかったが、「なぜ、自分は質問できなくなるんだろう」というところまで書くのが作家の仕事、と心の内を語りました。

フォト・ジャーナリストである安田さんも、辛いお話をもう一度聞くことは、傷口にできかけていた"かさぶた"を引きはがしてしまうような作業ではないかと感じることがあると話し、それでも「カメラマンなら写真を撮れ!」と、瀕死の少女の父親に言われた経験を振り返りました。

その場で何もできなかったことが、僕を突き動かす

ふたりの表現者が自らの役割について語る ふたりの表現者が自らの役割について語る

いとうさんと安田さんは、伝えること、書くことについて、さらに、こう話します。
「(僕自身)何にもしてないという罪悪感が大きくなるし、『自分には書くっていう役割があるんだ』って言い聞かせたところで、むなしい。だって、『あのとき会ったあの人』に僕は何もできなかったわけだから。

だけど、あのとき救えなかったことを何とか取り返したいという気持ちがモチベーションになって、表現をしていったり、語り伝えていったりすることがあると思う。それが、作家やジャーナリストをやっていくことの、ひとつの原動力なんだと思う」

「これは私が、シリア難民の方に言われた言葉ですが、『自分たちを苦しめているのは、爆弾を落としてくる勢力でもなく、過激派組織でもなく、これだけのことが起きているのに世界が自分たちのことを無視していることだ。自分たちの声が届くことはないというその感覚が、一番自分たちを追いつめるんだ』と。

だからこそ、無関心を溶かし、一対一の関係性の中で共感を生み出すことが重要なんだと思います。そして、MSFの活動自体が現地の人びとにとっては、『忘れるはずないよ』『一緒にいるよ』というメッセージになっているんです」

第2部 MSF現場トーク「彼らが自分であったかもしれない世界へ」

第2部では、いとうさんと現地で活動する海外派遣スタッフが登壇し、活動地での暮らしや活動における課題やジレンマについて話を進めました。

世界から集まるスタッフと現地スタッフが患者さんのために

ロジスティシャンの松本卓朗(左)と看護師の菊地紘子 ロジスティシャンの松本卓朗(左)と看護師の菊地紘子

第2部では、いとうさんと現地で活動する海外派遣スタッフが登壇し、活動地での暮らしや活動における課題やジレンマについて話を進めました。

いとうさんが第一部でも驚きとして紹介されたように、MSFは医師だけでなく、多様な職種のスタッフで構成されています。また、MSF参加が幼い頃からの夢という人、定年退職後に念願かなってMSFに参加したという人など、そのきっかけもさまざまです。

ロジスティシャンの松本は、「さまざまな背景をもつメンバーをチームとしてまとめるにあたり、大事にしているのは人の話を聞くこと」と話し、看護師の菊地は「ロジスティシャンや財務、人事といった非医療者が活動の土台を整えてくれるからこそ医療者は安心して活動できます。それに、想像もできないような壮絶な人生を歩んできた現地スタッフや患者さんが、どんな苦境に置かれていても笑顔になる方法を見つける姿に何度も救われました」と、現地のチームを振り返りました。

いとうさんからは、「次から次へとメンバーが入れ替わっていくのに、医療活動が引き継がれ、継続していくのはすごい。組織の柔軟性が高く、活動も『何々が無いからできない』ではなく、『どうすればできるか』を常に考えているのがわかった」と、活動のダイナミズムをご紹介いただきました。

何ができて、何ができないか。協力の輪を広げていくには……

活動地のリアルや葛藤が語られた 活動地のリアルや葛藤が語られた

一方でスタッフは、「安全規則の作成とチームへの共有を担当するにあたり、自分の決断一つでスタッフの身の安全を左右する責任を考えると、平和な日本で育った自分にとってはストレスも大きい」(松本)、「命を助けたい思いで来ているのに、患者さんの希望が聞けなかったり救えなかったりする現実はつらい。それでも、今自分ができる最善のことをやるしかなく、自分ができなかったことは次の人に託していきます」(菊地)と、覚悟や葛藤も語りました。

いとうさんは、「全員を助けられないという現実に向き合うスタッフの心の内を考えると、僕がそれを伝えなければと思った。MSFに作家部門を作ってはどうか。きっと伝えたい作家はたくさんいる。寄付をする人もお金だけを託すのではなく、気持ちを託しているのだから、その思いを書き込む場を用意してはどうだろう」と、今後の支え合いへの可能性を示唆されました。

当日会場では、いとうさんサイン入りの書籍も販売され、完売となりました。今後、世界各地で患者さんが置かれている過酷な状況や多岐に渡る医療活動への理解がいっそう進み、さまざまな形で応援・支援の輪が広がっていくことを、スタッフ一同願っています。

  • トークイベントのもようは全編、こちらの動画でご覧いただけます。
  • 第1部の対談は、こちらの採録でもお読みいただけます。
  • 品切れになっていた、いとうせいこう著『「国境なき医師団」を見に行く』が増刷になりました。試し読みやご購入はこちらから。

関連情報