戦争が広げた薬剤耐性 現場で起こっていること

2019年03月06日掲載

ヘルスプロモーター(健康教育担当)のカラム・ヤシーン。© Elisa Fourt/MSFヘルスプロモーター(健康教育担当)のカラム・ヤシーン。© Elisa Fourt/MSF

 イラク北部の都市モスルの術後ケア・センター。国境なき医師団(MSF)が2018年4月、モスル東市街に開いた施設だ。ここでは、MSFが診察する3分の1の患者が薬剤耐性感染症に苦しんでいる。

ヘルスプロモーター(健康教育担当)のカラム・ヤシーンは、こうした患者のケアに取り組んでいる。カラムは、戦争によって崩壊した医療体制によって、薬剤耐性の問題が広がったと感じている。カラムの思いとはーー。

戦争で一変した医療体制

戦争で破壊されたモスルの街。© Elisa Fourt/MSF戦争で破壊されたモスルの街。© Elisa Fourt/MSF

薬剤耐性は、国内のイラク人患者の間で、いつも大きな問題であったかといえば、そうではありません。15年前までは、きちんとした医療体制が存在していて、抗菌薬の使用はしっかり規制されていました。しかし2003年の戦争で、状況は大きく変わりました。

それまで、医師の処方が必要だった一部の抗菌薬は、市場を通じて簡単に手に入るようになりました。人びとは、抗菌薬をどんどん使うようになりました。誰かが病気になるといつも、抗菌薬を飲んでいました。

今のイラクでは、薬剤師であれば、抗菌薬も、注射薬ですら処方箋なしで売ることができます。このような薬の普及は、今日わたしたちが見ている、細菌の耐性パターンに直結しています。これほど多くの患者が、薬が効かない、薬剤耐性菌で苦しんでいることの説明がつきます。

イラク政府軍によるモスル奪還(2017年)から1年以上が経ち、薬剤耐性の影響は、これまでないくらいに、目見えて分かるようになりました。人びとの多くは戦闘で負傷しました。そうした時に受けた傷は、泥やほこりを浴びて汚くなります。そこから感染症にかかりやすくなります。多くの外傷患者が、多くの抗菌薬を飲んで傷を早く治そうとします。

でも、抗菌薬を何年も使いすぎると、抗菌薬は本来の役割を果たせなくなり、傷は治りにくくなります。単純な傷でも、きちんと治らなければ感染症が慢性化し、細菌がいくつもの薬に対する耐性を獲得している場合があります。そうした場合、何度も手術を受け、より長期に及ぶ抗菌薬治療が必要です。 

MSFの患者の3分の1が薬剤耐性

MSFの看護師と話す薬剤耐性菌感染症になった患者(左)© Elisa Fourt/MSFMSFの看護師と話す薬剤耐性菌感染症になった患者(左)© Elisa Fourt/MSF

モスル東市街でMSFが診察する患者の3分の1が、薬剤耐性菌に感染しています。そこでMSFは、患者と家族向けの講座を開いています。講座を通じて、抗菌薬についてよく知ってもらおうとしています。どの抗菌薬が、体にどのような影響を及ぼすのか説明します。患者の介助者の方が、こうしたことに強い関心を持ってくれます。この問題をよく理解した上で、薬剤耐性に苦しむ家族や親戚の世話に役立てようとしています。

質問も多く寄せてくれます。薬剤耐性とは一体どのようなものなのか、ちゃんと知りたいのですよね。たくさんの人びとが講座を聴いてくれるので、とても驚いています。抗菌薬は、何にでも効く魔法の薬とは必ずしも言えません。抗菌薬は、医師の処方でしか手に入らないようにすべきです。誤って使えば、弊害の方が多いと気づくと思います。

講座が終わると、参加者に感謝されます。「ここで学んだことを、他の人にも話してみます」と言ってもらえます。これはとても大切なことです。MSFとして伝えた抗菌薬の情報が、病院や診療所以外の場所で、そして家庭で広めてもらえる…。これこそが、人びとの習慣を変えていくために必要なことです。

私たちはヘルスプロモーターとして、感染症の予防対策として隔離されている患者たちのサポートもしています。薬剤耐性菌に感染した患者は、他の人から隔離する必要があります。感染症専門医による投薬計画もあるので、長期にわたって病院から出られなくなるのですが…。隔離されるのは、どの患者にとっても受け入れ難いことです。隔離に対する偏見もあります。例えば、人びとは、患者が人に移してしまうような危ない病気を持っている、と思うかもしれません。ですから、患者の体調や、なぜ隔離が必要かなどを、もっと詳しく説明することが大切です。

MSFでは、心の健康セッションも開いています。患者さんたちが、隔離によって生じるさまざまな感情との付き合い方を知ってもらう場です。薬剤耐性の患者にとって、健康教育は非常に大切な役割を担っていると思います。

薬剤耐性菌とは

細菌やウイルスなどの病原体によって引き起こされる病気「感染症」の中で、細菌が原因で引き起こされる病気に効果を発揮するのが「抗菌薬」だが、この抗菌薬が効かなくなった細菌のこと。「抗菌薬耐性」を持った細菌とも言われる。今後も抗菌薬の効かない感染症が増加することが懸念されている。

原因として、抗菌薬の使いすぎや、誤用が指摘されている。多くの低中所得国では、抗菌薬が市販され、医師の処方なしに簡単に手に入れることができる。そのため、抗菌薬の使いすぎと誤用が起こっていると言われている。

イラクでは、紛争などにより外傷のけがを負った患者が多く、回復を難しくしている。  

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