中東全域で急速に広がる人道危機:国境なき医師団は援助体制の強化へ

2026年03月06日
レバノン東部のバールベック・ヘルメル県で、子どもの診療を行う国境なき医師団(MSF)移動診療チームのスタッフ=2024年12月24日 © MSF
レバノン東部のバールベック・ヘルメル県で、子どもの診療を行う国境なき医師団(MSF)移動診療チームのスタッフ=2024年12月24日 © MSF

国境なき医師団(MSF)は、米国およびイスラエルによるイランへの攻撃、そしてそれに続くイランの複数国に対する報復行動を受け、中東全域で紛争が激化していることに深い懸念を抱いている。MSFはこの状況に対応するために活動内容の調整を進めるとともに、急速に変化する人道ニーズを注視している。

中東全域における暴力の激化は、何百万人もの人びとの暮らしを恐怖にさらしている。複数の都市や村で爆撃が続き、人口密集地への攻撃も相次いでおり、犠牲者は増え続けている。MSFは民間人をはじめ、病院や医療施設、その他の重要インフラの保護を強く求めている。

安全な場所はない──広がる恐怖と避難

レバノンでは、すでに数千人が避難を余儀なくされている。

「今回の紛争激化は、レバノンの人びとに実質的な安全をもたらすことのなかった『停戦合意』から15カ月を経て起きています(※)」と、MSFオペレーション・マネジャーを務めるフランチェスカ・クイントは話す。

最近の空爆と、ベイルート南部郊外およびレバノン南部のほぼ全域で退避を要求されたことにより、さらに多くの人びとが避難を強いられています。安全な場所はどこにもありません。

フランチェスカ・クイント MSFオペレーション・マネジャー

レバノン南部や国内の他の地域に暮らす多くの人びとにとって、退避要求は過去に経験した避難のトラウマを再び呼び起こすものだ。 
 
「過去の戦闘からようやく立ち直りつつあった人びとが、また家を離れるよう求められています。子どもや高齢の親族、病気を抱えた家族とともに道端で立ち往生し、極めて過酷な状況に置かれている人びともいます」

  • 2024年9月、イスラエル軍がレバノンでの攻撃を激化。11月に停戦合意となったが、イスラエル軍による攻撃は続いている。
2024年の攻撃で破壊されたレバノン南部の街=2025年8月20日 Ⓒ Maryam Srour/MSF
2024年の攻撃で破壊されたレバノン南部の街=2025年8月20日 Ⓒ Maryam Srour/MSF


イランとレバノンで活動するMSFチームは、現時点で安全が確認されている。私たちは状況の推移を注視し、被害を受けている人びとへの援助方法について検討を進めているとともに、すぐに配備できる医療物資の準備も行っている。 

各国で高まる人道ニーズ MSFは緊急援助の拡大へ

2月28日に情勢が悪化する以前、MSFはイラン国内で3つのプロジェクトを運営し、弱い立場に置かれた人びとに対して、月6000件の診療に加え、助産ケア、感染症のスクリーニングや治療、心のケアなどを提供していた。

空爆や通信の遮断など深刻な状況はあるものの、MSFはこれまでのところ一部で活動を継続している。しかし、現地スタッフから情報を得ることは極めて困難になっている。

首都テヘランの診療所は激しい爆撃により一時閉鎖を余儀なくされている。一方、マシャドとケルマンの診療所は、人員不足に陥っている中でも運営を続けている。

MSFは、紛争に伴う医療ニーズに対応するため、診療所を24時間体制にすることや地域医療システムの支援など、緊急援助の拡大に向けた許可をイラン当局に求めており、現在その回答を待っている。

イランの空港で医療物資の積み荷を降ろすMSFスタッフ=2020年3月21日 © Brigitte Rossotti
イランの空港で医療物資の積み荷を降ろすMSFスタッフ=2020年3月21日 © Brigitte Rossotti

レバノンでは、国内で運営している通常プロジェクトを継続しつつ、避難を余儀なくされている人びとの新たなニーズに対応するため、活動内容の調整を進めている。

3月4日以降、南部サイダ市では一部の避難所がすでに定員を超える状況となっており、MSFは移動診療を通じて診察と心理的応急処置を提供している。

さらに、ベイルートの避難所へ清潔な水の供給を開始したほか、ベイルート、ラシャヤ、その他の地域で評価を実施し、移動診療の拡大や物資の拡充に向けた準備を行っている。必要に応じた援助を届けられるよう、関係当局との連携も継続している。

そのほか、MSFはパレスチナ・ガザ地区とヨルダン川西岸地区で、深刻化する医療ニーズや心のケアの対応を継続しており、イラクでは、必要に応じて周辺地域に配備できる医療物資を確保している。

レバノン南部ナバティエでMSFが運営する移動診療の様子=2025年8月20日 © Maryam Srour/MSF
レバノン南部ナバティエでMSFが運営する移動診療の様子=2025年8月20日 © Maryam Srour/MSF

イランでのMSFの活動

MSFはイランで、アフガニスタン難民をはじめ、弱い立場に置かれた人びとが抱える医療格差の解消に取り組んでいる。

2012年にMSFがプロジェクトを開始したテヘラン南部では、診療所や移動診療、アウトリーチ活動を通じて、統合的な一次医療を提供している。感染症や非感染性疾患の治療、リプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する医療)、心のケア、心理社会的支援、創傷ケア、C型肝炎のスクリーニングと治療、二次医療への紹介に加え、社会的支援や健康推進活動も実施している。

アフガニスタン国境に近いマシャドでは、1996年から活動しており、弱い立場に置かれた人びとを対象に、移動診療を通じて医療や心のケア、感染症検査を実施している。

またゴルシャフル地区ではアフガニスタン難民の人びとを対象に、カウンセリング、健康教育、社会的支援、紹介サービスなどを提供している。

ケルマン州では、MSFはアフガニスタン難民の人びとに向けて直接的な医療サービスを提供している唯一の医療組織となっている。約20万人のアフガニスタン人が暮らすケルマン市では、一次医療センターを通じて、医療が行き届いていない地域にサービスを提供している。

2024年4月以降、MSFは市外でバフダト診療所を運営するとともに、保健当局と連携した診療所も設置している。これらの施設では、感染症および非感染性疾患の診療、リプロダクティブ・ヘルスケア、心のケアや心理社会的支援、創傷ケアに加え、結核HIV、B型およびC型肝炎のスクリーニングなどのサービスを提供している。

レバノンでのMSFの活動

現在、MSFは首都ベイルート北郊のブルジュ・ハムードで診療所を運営し、主に移民労働者を対象に医療と心のケアを提供している。

バールベック・ヘルメル県では、アルサルとヘルメルの2カ所で診療所を運営し、地域住民と避難民の双方に一次医療を提供している。

レバノン北部では、深刻な経済的困難に直面する国内第2の都市トリポリで保健省の診療所を支援しているほか、アッカール県では移動診療所を通じて医療アクセスがないシリア人にサービスを届けている。

また、南部レバノンでは、南部県およびナバティエ県において、2024年の紛争激化以降、移動診療所の運営と一次医療施設の支援を続けている。

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