世界エイズデー:HIV陽性でもこれまで通りの生活を
2016年12月01日12月1日は世界エイズデーです。
エイズの流行を防止すること、患者さんへの差別や偏見を解消すること——この2つを目的に掲げ、世界中で啓発活動が行われています。医療・人道援助分野の国際NGOである国境なき医師団(MSF)もその一員です。
もしあなたがHIV陽性と診断されたら……?最初は動揺するかもしれません。ジンバブエのフローレンスさんも同じでした。それから10年。適切な治療を受け、感染する前と変わらない生活を送っています。HIV陽性であることを現在はどう感じているのか、インタビューしました。
フローレンスさんのお話に続いて、HIV/エイズについての基本的なことを覚えていただけたらと思います。正しい知識をもつことで、この病気との向き合い方、かかわり方が見えてくることでしょう。
最初の患者さん
フローレンスさん(左)とターニャちゃんはHIVとともに生きています
ジンバブエのフローレンスさん(40歳)は4人の子どものお母さん。MSFが運営しているエプワース診療所(※)で、HIV/エイズ対策プログラムに登録した最初の患者さんです。フローレンスさんがHIV陽性だとわかったのは、3人目を出産して間もなくのことでした。
「いつも具合が悪かったので、エプワース診療所で検査を受けることにしたのです。MSFがいて無償で検査してくれると聞いていましたから」
それから10年。フローレンスさんのように無償の治療を受けた患者さんは3万人を超えました。
最初は1軒だけでぽつんと建っていた診療所は、地域の中核医療センターへと発展しました。施設内には薬局と会議室も備えています。HIVの検査や治療薬の処方をはじめ、HIVと結核の二重感染の患者の支援グループを運営したり、カウンセリングを提供したりもしています。
※ エプワース診療所とは?
地域の中核医療センターへと発展したエプワース診療所
ジンバブエのハラレ市で、2005年にスラム地区を強制撤去する「ムランバツビナ作戦」が実行されました。スラム地区は取り壊され、住民のうち約2万人が市郊外の農業地帯のエプワースに移住しました。そこで、MSFは保健省と連携し、診療所を開設したのです。翌2006年、HIV/エイズ対策プログラムが始まりました。当時、地域のHIV感染率は30%に達し、ジンバブエの国内平均6%を大幅に上回っていました。
ターニャちゃんのこと
親友のティノ君(右)と一緒に朝ごはんを食べるターニャちゃん
最初の患者さんとなったフローレンスさんは、この取り組みの成功を象徴する患者さんでもあります。治療によってエイズの発症が抑えられ、通常の生活を送れるまでに健康を取り戻しました。
「HIV陽性と診断されたときは動揺しましたが、今はもう、HIVに感染していることを恥ずかしいなんて思いません。今の状況を受け入れていますし、人生設計が変わることもありませんでしたから」
そう話すフローレンスさんのそばで子どもたちが元気に遊んでいます。
フローレンスさんは4人の子どものほか、ターニャちゃん(10歳)の面倒もみています。ターニャちゃんは身体に障害があり、車椅子か松葉杖で生活しています。また、HIV陽性との診断も受けています。
ターニャちゃんのお母さんはフローレンスさんの友人で、彼女も"最初の患者さん"でしたが、残念ながら2010年に亡くなりました。一方、ターニャちゃんは治療を受けて体調が回復しました。
ターニャちゃんの家はフローレンスさんの家の隣にあって、お父さんのライフさんとお兄さんが住んでいます。ライフさんは「ターニャがこれほど元気になるなんて想像もつきませんでした。低体重で生まれ、発達も遅れていましたから」と話してくれました。
未来に希望を
ARV治療薬を服用するターニャちゃん
ターニャちゃんは好奇心旺盛で人なつこい性格です。ターニャちゃんは学校に行ったことがなく、1日のほとんどをフローレンスさんと過ごしています。でも本当は学校に行きたいと思っています。
ライフさんはそのことをよくわかっていて、ターニャちゃんをフローレンスさんに預け、毎日仕事を探しています。ジンバブエの失業率は推定90%とも言われるほど。仕事がなければターニャちゃんの教育費を出すこともできません。
「家の前でみんなが遊んでいるときは松葉杖でついていこうとするんだけど、みんな、歩くスピードを落としてはくれないの。私は同じ速さでは歩けないから……」と困り顔のターニャちゃん。
ほかにもいろいろと大変なことはあるものの、ターニャちゃんは未来に希望を持っています。
HIV/エイズを正しく理解するために
エプワース診療所でHIV量チェックを受ける母親
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)は血液や体液から感染し、免疫系を弱めていく働きを持っています。平均10年(3年から15年ほど)の潜伏期間を経て、やがてエイズ(後天性免疫不全症候群)を発症します。
感染の有無は簡単な血液検査で判定できますが、潜伏期間が長いために、自覚症状がないまま何年も過ごしてしまう人も少なくありません。
エイズを発症すると、健康な人の場合は発症しないような病気にかかる危険性が高まります。これが日和見感染です。その典型例が結核です。
一方、ARV治療(抗レトロウイルス薬治療)を受けることで、エイズの発症を抑え、通常の生活を続けることが可能です。また、ARV治療は、HIVを他者に感染させるリスクを大幅に引き下げる効果があることも確認されています。
MSFのHIV/エイズ対策プログラムでは、HIVの感染検査やARV治療のほか、HIV/エイズの正しい知識を伝える健康教育や啓発活動、感染予防を目的としたコンドームの配布、患者さんへのカウンセリング、母子感染の予防を提供しています。
HIVの母子感染は予防可能です。MSFのプログラムでは、妊娠中から授乳期にかけて母親にARVを飲んでもらっています。同時に、出生直後の赤ちゃんにもARVを投与しています。
MSFは2015年、HIV陽性の患者さん33万3900人に必要なケアを提供しました。そのうち、ARV治療の対象者は24万100人に上りました。
世界のHIV/エイズの状況(2015年)
| 1700 万人 | HIVの治療を受けている |
|---|---|
| 3670 万人(3400万~3980 万人) | HIV陽性との診断を受けている |
| 210 万人(180万~240 万人) | 新たにHIV 陽性と診断された |
| 110 万人(94万~130 万人) | エイズに関連する原因で命を落とした |
(出典:国連合同エイズ計画)




