コンゴ民主共和国:アフリカ睡眠病を根絶する日まで
2015年09月24日
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医療が届かない辺境の地へ

2015年5月、MSFの医師、看護師、臨床検査技師で構成した移動診療チームが、オリエンタル州アンゴ地区とバンダ地区の情勢が不安定な地域を通過し、深い森を抜け、各集落でアフリカ睡眠病の検査・治療活動を開始した。この辺りは中央アフリカ共和国との国境にも近い。アフリカ睡眠病の高い有病率が長年にわたり報告されているところだ。
例えばコンゴ北東部。小さくて暗い診療所で、ジェルメーヌさん(24歳)はストレッチャーに横たわっていた。めまいがひどく、歩けない。ツェツェバエに刺されたという。MSFの医師が診察し、アフリカ睡眠病と診断した。MSFは8ヵ月間で、ジェルメーヌさんを含む4万2000人に、この病気の検査と治療を提供する計画だ。
MSFの活動責任者を務めるローラン・カヤは「村よりもさらに奥地で暮らしている人びとのもとへ向かうために最大限の努力をしています。難民や森に住む遊牧民など、最も弱い立場にある人びとへの対応に重点を置いています。彼らはツェツェバエに刺されてアフリカ睡眠病に感染するリスクが最も高いからです。健康教育チームが最初に現地入りし、MSFが来ていることを知らせて、検査を受けることを勧めています」と説明する。
2015年5月にこの活動が始まってから、これまでに1万2183人を検査した。そのうち91人がアフリカ睡眠病の確定診断を受けた。また、この地域の住民は医療を受ける機会がほとんどないことから、一般診療も併せて提供している。主な患者は妊婦、5歳未満の子ども、マラリアの感染者だ。マラリアの治療者数は6884人に上っている。
早期発見・早期治療が不可欠

アフリカ睡眠病の初期症状は発熱、頭痛、関節痛、かゆみだ。初期段階の患者に投与する薬は、毒性が低い。早期発見・早期治療で治癒率も高まる。寄生虫が血液から中枢神経系へと侵入してしまうと第2期だ。睡眠の周期が乱れるなどの症状が出る。
ジェルメーヌさんは3ヵ月前、3人目の子どもを産んだ後、症状が出始めた。疲労とめまいに悩まされ、畑仕事にも出られなくなった。「あまりにめまいがひどくて地面に倒れてしまうほどでした。力が出ず、食べものはのどを通らず、水を1口ずつ飲むのがやっとでした」と振り返る。
彼女はMSFの診療所に7日間入院し、ペンタミジンという薬の注射を受けた。「家族はどうして私の具合が悪いのか分からなかったようです。治療を受けて気分がよくなり、家族はすごくほっとしています」
患者数は減少傾向にあるが……
アフリカ睡眠病は現在も36ヵ国で流行し、患者数は数百万人ともみられている。その多くは農村地帯に暮らす人びとや難民・国内避難民で、医療を受ける機会が乏しい。その結果、疾病調査の実施や診断・治療が難しくなっている。
ただ、この10年でアフリカ睡眠病の治療法が改善され、症例数も減少しておいるし、治療法も改善されてきている。また、紛争が続いたことによる人びとの生活パターンの変化も、結果的に病気の減少につながっているようだ。
MSFの医療アドバイザーを務めるトゥーリード・ピエニング医師は「地域の情勢不安を受け、人びとがライフスタイルを変え始めています。ツェツェバエの生息地である川辺での狩猟や漁をあきらめ、自宅の近くで農耕生活を送るようになっているのです」と指摘する。
それでも、アフリカ睡眠病の根絶に向けてするべきことはたくさんある。簡単・迅速検査を普及させて確定診断までのプロセスを簡素化すること、自宅で服用できる経口薬を開発すること……。それらが実現するまでは、MSFは地域に足を運び、検査・治療を続けていく。それがどれほど奥地であろうとも。