アフリカ睡眠病、紛争被害者のケア、HIV治療……南スーダン西部、14年間の活動を振り返る

2020年10月12日掲載

6人の子どもを育てながら、MSFによるHIV治療を受けている女性=2017年 © MSF/Charles Atiki Lomodong6人の子どもを育てながら、MSFによるHIV治療を受けている女性=2017年 © MSF/Charles Atiki Lomodong

コンゴ民主共和国や中央アフリカ共和国との国境にほど近い、南スーダン西エクアトリア州のヤンビオ。国境なき医師団(MSF)は、2006年から14年間にわたりこの地で活動を続けてきたが、健康・人道状況が全体的に改善したことを受け、2020年7月に同地域におけるプロジェクトを終了した。医療援助を必要とする人びとのため、MSFが長期的に取り組んだ5つの活動を振り返る。

アフリカ睡眠病とマラリアの治療

治療したアフリカ睡眠病患者:564人
治療したマラリア患者:12万8265人

アフリカ睡眠病はサハラ以南のアフリカで見られる寄生虫感染症で、ツェツェバエに刺されることで感染する。寄生虫が中枢神経系に侵入すると、精神錯乱、けいれん、睡眠障害などの神経・精神症状を発症し、死に至ることもある病気だ。2006年にMSFが初めてヤンビオで活動を始めた理由は、このアフリカ睡眠病に対する医療援助のためだった。

継続的なスクリーニング検査と感染制御策の結果、南スーダンを含む流行国での新規症例は減少。その後の医療活動は、もう1つの寄生虫感染症であるマラリアへとシフトした。2019年には、コミュニティレベルでの治療と予防に取組み、感染リスクの高い5歳未満の子どもたち約4万8100人を対象に、季節性マラリア予防薬の経口投与を実施した。

ヤンビオの病院でアフリカ睡眠病の治療を受ける男性=2006年 © Misha Friedmanヤンビオの病院でアフリカ睡眠病の治療を受ける男性=2006年 © Misha Friedman

紛争被害者の治療と心理ケア

治療した性暴力被害者:419人
身体的暴力や拷問の被害者の治療件数:315件
グループおよび個別の精神保健相談:4194件

スーダン政府とスーダン人民解放軍の間で起こる武力衝突や、隣国ウガンダの反政府勢力からの襲撃により、ヤンビオの人びとはたびたび避難を強いられている。安全を求めて国境地帯から遠く離れた地域へと移ってきた避難民に、MSFは移動診療による医療援助を提供した。

2013年に内戦がぼっ発した際には、ヤンビオ周辺で緊急プロジェクトを立ち上げ、コレラや髄膜炎の治療、戦闘で負傷した人への手当のほか、暴力・紛争・避難で人びとが負った心の傷に対応する心理ケアも行った。

2018年2月から2019年半ばにかけては、元子ども兵士が地元社会に再び受け入れられるよう後押しする専門プログラムを運営。MSFの心理療法士が、心的外傷後ストレス障害、抑うつ、フラッシュバックを抱える子どもたちのケアにあたった。

心理カウンセリングを受ける元少年兵=2019年 © Alex McBride/MSF心理カウンセリングを受ける元少年兵=2019年 © Alex McBride/MSF

州立病院の支援

入院患者の受入数:3万4634人
産前・産後診療:3万3062件
入院・外来治療を受けた栄養失調児:1549人
外科処置:2388件
分娩介助件数(内、帝王切開件数):1万233件 (581件)

2011年から2015年にかけて、MSFはヤンビオの州立病院で幅広い活動を展開したが、その中でも比較的大きなウエイトを占めたのが産前・産後診療だ。妊産婦死亡率が世界最悪の水準にある南スーダンでも、西エクアトリア州の状況は特に深刻であり、社会的・経済的な制約が保健医療の壁となる中、MSFは緊急帝王切開を含む安全な分娩介助に努めた。

地域住民へのアウトリーチ活動も、ヤンビオにおける活動の大切な要素だ。担当チームは地元コミュニティに赴き、母子保健に関する説明を行った。家族計画と産科医療の意義を理解してもらうことに苦労を要したものの、年を追うごとに病院で出産する女性が増加し、病院出産の件数は2011年から2014年までにほぼ2倍になった。

運び込まれてきた子どもに緊急処置を行う岩川眞由美医師
=2014年 © Matthias Steinbach運び込まれてきた子どもに緊急処置を行う岩川眞由美医師
=2014年 © Matthias Steinbach

ラッパ型の聴診器でお腹の中にいる赤ちゃんの様子をうかがう
=2013年 © Anna Surinyach/MSFラッパ型の聴診器でお腹の中にいる赤ちゃんの様子をうかがう
=2013年 © Anna Surinyach/MSF

HIV/エイズ患者支援の拡大

治療を行ったHIV感染症患者:1万1651人

長期化する紛争、医療人材の不足、脆弱なインフラなどの理由により、地方に住む住民の大半はHIV治療にアクセスできずにいる。この状況を改善するため、MSFは抗レトロウイルス薬(ARV)治療の普及に努めるとともに、保健省の協力のもと「Test and Treat(※)」という試験的プロジェクトを3年間かけて実施。その結果、ヤンビオ一帯のみならず隣国のコンゴでもHIV感染者の診療向上を実現した。また移動診療チームは、へき地での検査・治療施設を運営し、性産業従事者、バイクタクシーの運転手、武装勢力の構成員など、感染率が高いとされる人びとへの医療援助を行った。
※Test and Treat(検査と治療):HIVの検査結果を受けて、陽性であれば直ちに治療を開始するという取り組み。

2018年に現地でTest and Treatのプロジェクト・コーディネーターを務めたファルハン・アダンは語る。「この検査では24時間で結果が得られるので、速やかに治療へと移行することが可能です。カウンセラーが常駐し、HIVが生活に与える影響について患者さんに説明しました」

HIV/エイズの症状や治療法、イラストを用いて分かりやすく説明する=2016年 © Anna Kerber/MSFHIV/エイズの症状や治療法、イラストを用いて分かりやすく説明する=2016年 © Anna Kerber/MSF

へき地に暮らす住民に疾病対策の講習を実施

外来診療:26万5273件
定期予防接種:5095回
はしかの予防接種:3万4621回


MSFは、ヤンビオ市外の農村部など孤立した地域に暮らす人びとに手を差し伸べることにも重点を置いてきた。現地を訪れたイェミマ准医師によると、町までの道のりが遠いため、マラリアや気道感染症、下痢など、治療できるはずの病気で大勢の人びとが亡くなっていたという。

MSFは、地域の保健担当者を対象に、比較的一般的な病気の見分け方と治療の講習を行い、医療態勢を整備した。イェミマ准医師は、さまざまな困難に直面しながらも続けた活動をこう振り返る。「道は整備されておらず、車も十分に確保できないことに頭を悩ませていました。活動拠点との通信もできないような遠く離れた場所で、車が故障したこともあります」

遠隔地の村へと向かう移動診療チーム。雨季には道路が冠水してしまうことも=2018年 © Philippe Carr/MSF遠隔地の村へと向かう移動診療チーム。雨季には道路が冠水してしまうことも=2018年 © Philippe Carr/MSF

子どもを対象にした予防接種の準備をするスタッフ=2018年 
© Philippe Carr/MSF子どもを対象にした予防接種の準備をするスタッフ=2018年 
© Philippe Carr/MSF

14年間にわたる包括的な活動により、ヤンビオ市の健康・人道状況は全体的に改善し、他の保健医療提供者も活動を再開したため、MSFは2020年7月にプロジェクトを終了した。今後はマラリアの流行を中心とした西エクアトリア州の情勢を注視し、事態の悪化や緊急援助の必要に応じる態勢を維持していく。  

関連情報