病院にたどり着くまで2日がかり 妊婦もマラソン並みの距離を歩かなければいけなかった
2019年03月07日
コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)東部南キブ州に住むムラシさん(Moulasi)。8人の子どものお母さんで、現在妊娠8ヵ月。もうすぐ9人目の赤ちゃんが産まれる。そんなお腹の大きいムラシさんは、2日かけて40キロの道を歩き、自宅のある村から、国境なき医師団(MSF)の病院に来た。 まさに、マラソン並の距離だ。
ムラシさんのようなケースは珍しいことではない。広大なコンゴでは、道路がきれいに舗装されていることはまれで、病院や診療所も遠く離れている。都市から離れて暮らしている人びとにとって、数十キロも歩いて、医療を受けにいくのは普通のことだ。
MSFにとっても、物資の輸送や患者の搬送は大きなチャレンジだ。交通手段は、ほとんどがオートバイか徒歩。雨期になると、輸送問題はより深刻になる。通常だったら、オートバイでも通れる道まで「泥の川」と化してしまうからだ。普段でさえ、数日がかりだった旅が、雨期になると倍の時間が掛かる旅になってしまうこともある。
こうした各地のインフラ不足は、不便な上、ムラシさんのような妊娠中の女性の命にも関わる。これまで、妊娠中の女性たちは、何度も妊娠合併症に悩まされてきた。そのため、かかりつけ医は女性たちに、次のお産の必ず病院で出産するように、と求めていた。
しかし、病院や診療所に行くための長くてつらい旅が難しい人びとは、妊娠中の女性たちや子ども達だ。ムラシさんも同様で、健康が脅かされやすい人にあたる。それはつまり、病気になったり、体調を崩したりしているのに、医療を受けられずにいる人たちがいるということだ。人口約600万人の南キブ州では、数千人がそのような状況に置かれている。
「医療介助なしでの分娩は、お母さんと子どもにとってリスクがあります」と、MSFのプロジェクト・コーディネーター、ルス・リナーレスは話す。
「ほとんどの女性にとって、身重の体で徒歩の長旅など論外。単純に、病院に行くという選択肢がなくなるのです」
インフラ不足で苦しんでいるのは、女性と子どもだけではない。紛争による戦闘に巻き込まれた男性も同じだ。
南キブ州では、散発的に紛争が起きている。戦闘に巻き込まれてけがをし、治療が必要な人たちがいる。戦闘があれば、住民は避難しなければいけなくなり、医療機関までの距離はさらに遠くなる。さらに、この地方では、マラリアやコレラなどの病気が繰り返し起きている。放っておけば、命に関わる。こうした要因が重なることで、患者は危険な状況に陥ってしまう。だが、治療を受ける機会が少ないのが現実だ。
活動概況
MSFは2007年から、南キブ州で活動している。緊急対応チームは州内全域で病気の流行・自然災害・紛争に対応している。
診療所では、患者を無償で治療している。急患は、MSFが費用を負担して、大都市圏に搬送している。だが基本的なインフラが不足し、舗装された道路もないへき地では、医療機関まで簡単にアクセスできない患者が多くいる。