「みんな殺されて、誰もいなくなる日が来る」 繰り返される暴力の悪夢

2018年09月12日

MSFはバンバリの病院で外科と小児科、集中栄養治療室を運営しているMSFはバンバリの病院で外科と小児科、集中栄養治療室を運営している

うち捨てられた建物の玄関ポーチの下に、11人の子の母親、シバさん(仮名)が座っている。ここは中央アフリカ共和国の都市バンバリの南にある、キジグラ地区。彼女がここに来てから2ヵ月になる。4年間、バンバリ市を流れるワカ川の向こう岸にある国内避難民キャンプで暮らしていたが、ここにまた暴力が横行し、キャンプを追われた。「昨年5月、武装した男たちがキャンプに来て、みんなを脅し始めました」。シバさんは、国境なき医師団(MSF)に話し始めた。 

家も、財産もすべて奪われ……

バンバリを2つに分けているワカ川にかかる橋バンバリを2つに分けているワカ川にかかる橋

「後に残したものは全て奴らに盗られました。自転車や、飼っていたアヒルも」とシバさんは説明する。「あれから、ここでなんとか生き延びようとしています。たきぎを売って、家族を養っています」

2017年2月に、国連中央アフリカ多面的統合安定化ミッション(MINUSCA)による武装解除作戦の後、バンバリは束の間の平和を味わっていた。しかし、暴力はまた巡ってきた。2018年5月、武装勢力はバンバリを再び支配。当時、バンバリとその郊外にある避難者用居住地には4万人が暮らしていたが、戦闘のため、5月から6月にかけて3000人余りが自宅を離れ避難した。

バンバリは現在、2つの武装勢力がワカ川で自然に隔てられた地域をそれぞれ掌握している。どちら側も、町をうろつく武装兵士の狙いは人びとの家財だ。暴力的な犯罪はバンバリ住民にとって日常茶飯事となっている。シバさんは続ける。「今、問題になっているのは宗教でも民族でもありません。人びとは、家や財産を目当てに脅されたり、襲われたりしています。私自身は巻き込まれていませんが、何も持っていないからです。お金も、自転車もバイクも、携帯電話もありません」

MSFの病院は、2つの地域の間に位置している。現場のスタッフは、広範に及ぶ暴力の影響を目の当たりにしている。5月以降、合計70人余りの患者が銃で撃たれた傷や刃物で切りつけられた傷の治療を受けた。

病院に武装勢力が侵入

MSFの病院では、武器を持ち込むことは禁じられているMSFの病院では、武器を持ち込むことは禁じられている

アフマドさん(仮名)はMSFの病院で治療を受けた患者だ。アフマドさんはイスラム教徒で、銃撃戦に巻き込まれ脚を撃たれた。一緒にいた兄は即死だった。バンバリの病院で治療を受けている間、武装勢力が病院に入ってくるところを2度見たという。

「最初は5月15日でした。武装した男たちが病院に入ってきたので、私たちはベッドの下に隠れました。キリスト教徒の患者が助けてくれました。病院職員が、病室に入らないよう男たちを説得しました。その3週間後、今度は別の武装勢力が病院に押し入りました。このときは、奴らが来る音が聞こえるとすぐに皆で逃げ出しました。何が起きるのかとても心配でした。けがした足では歩けず、他の人たちが私を毛布に乗せて運んでくれました」

侵入された病院では、21本の薬きょうが見つかった。数週間後、アフマドさんはようやく病院に戻って治療を続けることにした。傷がひどくなっていたからだ。「病院では常に安心していられるはずなのですが、この事件で、病院にいても戦闘は免れないのだと分かりました」。

怖くて誰も病院に来られない

MSFはバンバリの病院の外科を支援しているMSFはバンバリの病院の外科を支援している

再び巻き起こった暴力の波によって、戦闘で負傷した者だけでなく、一般の人も医療が受けづらくなっている。情勢不安のため、エルヴァジュ地域にあるMSFの支援先医療施設も1週間以上閉鎖せざるを得ず、地元住民が一次医療を受けられなくなっている。武装勢力は閉鎖の機を狙って略奪し、子どもと妊婦のためのワクチンを入れた冷蔵庫まで盗って行った。

バンバリ病院では活動が大きく減った。入院した子どもの数は4月の230人から6月には70人まで落ち込んだ。MSFの看護師ケイトは「栄養治療室には2週間、患者がいませんでした。怖くて誰も病院に来られなかったからです」と話す。同僚のナルシスは外科も同じだと話している。「7月以降は通常通りになりましたが、危険な状態で来院する患者は増えました。情勢不安のため、それ以前には病院に来られなかったそうです。歯の周りにできた膿瘍がひどくなって、命を救えなかった患者さんもいます。銃創をきちんと処置していなかったため、脚が壊死していた患者さんもいました」。
 

平和は続かず、暴力に追われる

MSFは週に1度、エルヴァジュ地域で栄養失調のスクリーニングを行っているMSFは週に1度、エルヴァジュ地域で栄養失調のスクリーニングを行っている

ここ数週間は戦闘が収まり、銃声が時折聞かれる程度だ。市内の交通も平常に戻ったように見える。だが、まだ多くの人が無差別攻撃におびえて生活している。バンバリは2013年から2014年にかけて起きた武力衝突で大きな被害を被っているのに、また暴力が再燃し、住民は悪夢の再来を味わっているのだ。

シバさんは言う。「2014年には、武装勢力に脅されて家から逃げ出しました。今度は、国内避難民キャンプからも逃げる破目になりました。子どもたちのためにも前向きでいようとはしているけれど……絶えずあちこちへ避難して、もう疲れ果ててしまいました」

シバさんの顔には、何年も暴力から逃げ続けてきた疲れがにじんでいる。「いつか、町に戻っても誰もいない、という日が来るでしょう。私たちがみんな、殺されてしまったら……」
 

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