「2人の娘を並べて埋葬しました」 中央アフリカ、終わらない暴力の中で【後編】

2021年10月27日
倒木をのこぎりで切りながら村へと進む=2021年7月 © MSF
倒木をのこぎりで切りながら村へと進む=2021年7月 © MSF

廃墟と化した市場、破壊された建物、焼け焦げた車……。国境なき医師団(MSF)が中央アフリカ共和国(以下、中央アフリカ)のある村で目にした光景だ。ここで何が起こったのか。住民はどう過ごしているのか。何年にもわたり暴力から逃れ続けてきた人びとの声を、前回に続けて伝える。 

レモンを消毒薬代わりに出産

政府軍と武装勢力の間の戦闘により、国民の3分の1が避難生活を送っている中央アフリカ。ここ、ムボム州のンザコ村も暴力の渦の中にある。

今年7月にMSFが現地を訪れた際、スタッフの目の前に広がっていたのは衝突で荒れ果てた村だった。情勢不安が続き、住民は村から逃げたまま何カ月も地元に戻れず、人道援助も受けられずにいる。

ンザコ村の住民のローズさん(44歳・仮名)はこう話す。「2013年に私たちの暮らしは一変しました。暴力と虐殺から、何カ月も逃げ続けたのです。食べるものも少なく、娘は栄養失調になって日に日に具合が悪くなってきました。弱った娘を診療所に連れて行ったのですが、そこには誰もいませんでした。看護師たちがバンガスー市に避難していたからです。その夜、娘は亡くなりました。近所の人たちの助けを借りて、自宅から数メートルの場所に埋葬しました」

その悲劇の3年後、ローズさんの出産が間近になったころに、村で大規模な衝突が再発。住居1万戸余りが破壊され、住民は新たな惨状の渦に飲み込まれた。

「妊娠中の私は村から逃げることはできませんでした。お産の時が来て診療所に行ったのですが、またもや誰もいませんでした。でも、村に残った最後の助産師が、ビニールシートとはさみと、消毒に使うレモンだけを持って、私のうちまで来てくれたのです。石けんもない中、そのビニールシートの上でお産をして……ところが、生まれた赤ちゃんから産声は聞こえませんでした。赤ちゃんは泣くことなく、数時間後に息を引き取ったのです。女の子でした。私たちはこの子を、上の娘の隣に埋葬しました」

2つの悲劇が重なったローズさん一家は、2020年末の大統領選後に国内全域で衝突が再燃したため、今年1月に再び避難を余儀なくされていた。

夫のジャン・マリーさん(仮名)がその時のことを語った。「4カ月の間、森に潜んでいました。今回も食料を見つけるのは大変でした。皆、かなり衰弱していて、特に子どもたちはひどい状況でした」 

ンザコ村の診療所で妊婦のケアに当たる助産師=2021年7月 © MSF
ンザコ村の診療所で妊婦のケアに当たる助産師=2021年7月 © MSF

支援から切り離された村

ローズさんとジャン・マリーさんのように、ンザコでは住民の大部分が村から退避。騒乱により人道援助も受けられず、非常に不安定な環境にあった。そうした致命的な状況が長年続いている。

「MSFを除けば、2017年に村に立ち入った団体はほとんどありません。しかし、栄養失調や、汚染された水を介して起こる水系感染症などが広がり、健康状態が懸念されます。これまで短期間であれ訪問はできていましたが、今年初めの戦闘再燃で全くできなくなってしまったのです」。ンザコ訪問時にMSF看護師スーパーバイザーを務めたペレ・コト・ガウェはそう話す。

戦闘がようやく終息すると、夫妻もその他の人びとも徐々にンザコに戻り始めた。7月には人道援助団体としていち早くMSFが現地を再訪し、ニーズの調査と、村にある唯一の診療所の支援を行った。ンザコに着いて数日後のペレはこう話す。

「到着した私たちが目にした診療所は修羅場でした。多大なニーズがあるのに、必要な設備もありませんし、薬局には何もありません。森では、マラリアと栄養失調で犠牲が出ていたにも関わらずです」

7月下旬の晩に村に入ったMSFチームは、その日の朝早く、190キロメートル南のバンガスーを出発。目的地までは車で10時間余りを要した。いまは雨期で、道路がぬかるみ、川を超えるのも容易ではない。嵐による倒木に行く手を遮られ、降りしきる雨の中でノコギリを取り出して、通り道を確保するために切断しながら進んで行った。

その後MSFのチームは無事に村に到着。4日間の滞在で、薬局の在庫を補充し、医療従事者と地域保健担当者の研修、診療、ワクチン冷蔵のための太陽光発電パネルの設置などを行った。支援から切り離された村に、命を守る体制が少しずつ整いつつある。 

地域保健担当者に基礎的な疾患の研修を行うMSFスタッフ=2021年7月 © MSF
地域保健担当者に基礎的な疾患の研修を行うMSFスタッフ=2021年7月 © MSF

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