事務局からのお知らせ

国境なき医師団における組織的差別と人種主義への取り組みについて──2024/2025年更新版

2026年08月28日

2020年7月、国境なき医師団(MSF)の国際的な指導部は、組織内の差別と人種差別に取り組むことを公に約束しました。中央運営執行委員会(Core ExCom)は「MSFのアソシエーションが求めている抜本的な行動を先導すること」を約束。公約は、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(パンデミック)の影響もあり、人種的平等と健康の平等を求める世界的な運動が強く展開される中で打ち出されました。また、MSFのスタッフが何年にもわたり、変革を求めて訴えてきたことに続くものでもあります。

2020年、中央運営執行委員会は行動計画を定め、緊急かつ具体的な行動を必要とする7つの優先すべき主要分野を特定しました。

1. 虐待および不適切な行為の管理
2. スタッフの報酬(給与および福利厚生を含む)
3. リスクへの対応──安全確保とセキュリティ
4. 人材の採用と育成
5. 広報と資金調達
6. MSFが医療・人道援助を届ける患者と地域社会に対する援助の基準
7. 執行部のガバナンス(統治)とMSFの多様性を反映させた団体内の権限バランス


2024年半ば、MSFは2023年12月までの18カ月間の進捗状況を報告しました。中央運営執行委員会の最初の公約から6年、前回の更新から2年が経過した今、2024年と2025年における上記7分野の進捗状況を概説します。

MSFは、スタッフ、患者、地域社会、寄付者、ステークホルダー、および広く一般の人びとに対し、これら7分野におけるMSFの立ち位置を知っていただきたいと考え、前進するために苦闘している分野を含め、進捗状況を公表しています。そうすることが、透明性を保ち、MSFの行動に対する説明責任を果たす最善の方法だからと考えます。2025年末までの2年間でMSFが達成できたことを精査するとともに、組織内の不平等の是正に向けて、今後も取り組むべき課題が残されていることを認識しています。

また、組織内で人種差別や組織的差別に直面し続けている同僚たちの期待に、現状での進捗では十分応えられていないことも認識しています。しかし、この取り組みを継続することが、同僚、患者、そして私たちが支援する地域社会の人びとにとって意義ある変化につながると確信しています。

MSFは上記7分野すべてに取り組む一方で、中央運営執行委員会は、虐待や不適切な行動の問題、およびスタッフの報酬・報奨制度における不公平への対応を優先課題として設定しました。

以下の内容はMSFにおける差別と人種主義への取り組みのすべてを網羅したものではなく、MSFの運営執行委員会(ExCom)で合意された優先事項に基づいて、行動計画の立ち上げ以降に組織全体で認められた主な進捗の一部をまとめたものです。MSFのプロジェクトや事務局で実施されている取り組みは数多くありますが、それらは本書では取り上げていません。透明性を確保するため、2020年と2021年の進捗状況については2022年の報告を、2022年と2023年の進捗状況については2024年の報告をご参照ください。

MSFの意思決定とリーダーシップの仕組みを明確にし、よりよくご理解いただくために、本書で言及するMSF内用語についての簡単な用語集も文末に掲載しています。

1:虐待および不適切な行為の管理

セーフガーディングと虐待への対応は、MSF指導部にとって最優先事項です。過去2年間、これらの問題への取り組みに、より一層の注意と努力が払われてきましたが、なお多くの課題が残されていることを認識しています。MSFにおいて、虐待や不適切行為は決してあってはならないものであり、患者、同僚、そして私たちが活動する地域社会の人びとの安全を守ることに全力で取り組んでいます。

MSFでは、セーフガーディング(※1)の原則を日常業務や意思決定の過程に組み込み、組織全体で実践されるものとするため、方針や戦略的な取り組みの整備を進めています。すべてのスタッフは、自らの業務においてセーフガーディングの原則を適用することが求められています。セーフガーディングはMSFのあらゆる職務に組み込まれつつあり、組織のあらゆるレベルのリーダーシップがその推進を担っています。リーダーは、MSFで期待される行動を明確に示し、それを計画や行動の優先事項として位置付けています。また、虐待の特定、通報、予防に関するスタッフ向けの啓発活動や研修も継続されており、その実施範囲はさらに広がっています。

MSFでは、不適切な行為に関する苦情のデータ収集を継続しています。MSFに寄せられる苦情の件数と種類(スタッフ、患者とその世話人、地域住民などによるもの)、および毎年確認される苦情の内訳は、こちらをご覧ください。苦情の受付件数は、通報手段の拡充や啓発活動の進展に伴い、年々増加傾向にあります。しかし、虐待の影響を受けた人や虐待を目撃した人、あるいは虐待について懸念を抱く人が、安心して通報できるようにするためには、なお一層の改善が必要です。

MSFは、スタッフ、患者、その世話人、そしてMSFが活動する地域社会にとって、虐待や危害のない環境をつくる努力を続けています。虐待を容認しないだけでなく、虐待の疑いがあるにもかかわらず行動を起こさないことも容認しないという方針のもと、虐待の予防と発見を重視しています。また、通報の仕組みを状況に応じて利用しやすく、アクセス可能で包括的なものにすることも、この活動にとって極めて重要です。

虐待に関する通報が寄せられた際、それに対応する十分な訓練を受けた担当者を確保することも、虐待の申し立てを真摯に受け止めるというMSFの姿勢を示すうえで極めて重要です。これには、申し立てへの迅速な対応、必要な改善措置の実施、被害を受けた人への医療・心理社会的・法的支援の提供、そして虐待があったと確認された場合に、不適切な行為を行った者に対して適切な処分を行うことが含まれます。

この2年間で、MSFは虐待の防止、発見、対処に向けた取り組みを以下のように前進させてきました。

  • セーフガーディングのビジョンと行動計画: 2024年、運営執行委員会はセーフガーディングに関するビジョンと行動計画を承認しました。これは、虐待の防止と対応にはMSFに関わるすべての人の参加が必要であるという共通認識を反映したものです。
  • 調査員の人材プール: 多様な専門的背景、専門分野、経験、国籍、言語を持つ外部調査員(MSF職員ではない)による調査員プールを設立しました。また、あわせてMSF内部の調査員制度についても試行を進めています。
  • スタッフ、患者、地域社会へのリスクを最小限に抑える安全な採用: MSFの人道援助活動および行動規範に反する重大な不正行為に関与した人物を雇用しないよう、MSF全体で統一した照会確認(リファレンスチェック)の仕組みを導入しました。
  • 虐待の分類基準の見直し: MSFにおける行動規範を監督するプラットフォームが、差別を含む虐待事案の分類基準の見直しと更新を進めています。

こうした取り組みの多くは、継続的かつ長期的に進めていく必要があります。例えば、患者や世話人、地域社会の人びとも含め、期待される行動や虐待に関する苦情をどこでどのように申し出るかについての啓発、スタッフの説明や研修の実施、多様性・公平性・包摂性(DEI)の取り組みとあわせて雇用のあらゆる段階にセーフガーディングを組み込むこと、セーフガーディング上のリスク分析、安全な採用プロセスの確保(新規採用者全員がMSFのセーフガーディング基準を受け入れるなど)、DEIに関する取り組みの強化、医療提供やその他のMSFのプログラム、プロジェクト、サービスにセーフガーディング対策を組み込むなど、患者中心のアプローチの推進、事案の管理と調査、そして通報することへの障壁の把握などが含まれます。

また、ほかの分野でも取り組みを進めています。その一つとして、既存の通報手段を補完するものとして、MSFの各組織で共通して利用できる通報プラットフォームの開発が進められています。オペレーション部門では、行動担当部門をセーフガーディング担当部門へ移行する、あるいはセーフガーディングを担う専任の役割と明確な体制を整備する取り組みが進められています。また、各国の活動において、さまざまな職務にセーフガーディングを組み込み、その能力強化を支援するため、新たなセーフガーディング担当職の設置も進めています。

さらに、日雇いスタッフとして雇用する人びとに関連するセーフガーディングの取り組みも強化しています。こうした人びとは、不安定な雇用環境の中で虐待の被害を受けやすい立場にある一方で、加害行為に及ぶリスクも抱えています。新規スタッフ向けの「Welcome to MSF」パッケージには、セーフガーディングに関するセクションが新たに作成され、現在試行導入が進められています。 

※1 MSFにおける「セーフガーディング」とは、虐待、搾取、ハラスメントを防止し、それらに関する懸念が生じた際に把握し、影響を受けた人びとを支援するとともに、不適切行為が発生した場合に適切な対応を取るためにMSFが講じる一連の取り組みを指します。

2:スタッフの報酬(給与および福利厚生を含む)

2018年、MSFの給与・報酬に関する方針や制度が、多様な国籍や背景を持つ人材で構成されるグローバルな組織を目指すMSFの理念と十分に合致していないとの声がスタッフから寄せられました。それ以来、私たちは、仕事に対する報酬がより公平で透明性の高いものとなるよう取り組みを進めてきました。

2021年に開始した報酬制度の見直しでは、既存の方針や制度を詳細に分析し、改善が必要な点について提言をまとめました。こうした不公平の是正に向け、この2年間で以下の取り組みを実施しました。

  • 2021年から2023年にかけて、報酬制度の見直しを実施し、MSFにおける給与および福利厚生の仕組みを体系的に分析しました。2023年10月には運営執行委員会が実施ロードマップを承認し、2025年には関連チームによる包括的な見直しが完了したことを確認して見直しは終了し、提言の実施段階へ移行しました。
  • 生活賃金および有給休暇に関する新たな方針を策定し、段階的な導入を進めました。
  • 各活動国のコーディネーションポジションについて、より競争力のある給与体系を導入しました。
  • 労働時間の上限を週48時間に設定しました。
  • スタッフ向けの新しい医療保障制度を策定しました。
  • 給与決定の一貫性と透明性を向上させる「グローバル給与方針フレームワーク」を導入しました。
  • グローバルな職位等級制度の設計を完了し、既存の職務をマッピングすることで、MSF全体における職務等級およびレベルを統一しました。

具体的な施策の実施や給与・福利厚生制度の維持管理、今後のニーズに応じた見直しについては、現在も継続して進められています。

3:リスクへの対応—安全確保とセキュリティ

暴力や紛争が存在する環境で活動することは、MSFの創設以来、私たちの活動で避けられない要素です。スタッフと患者の安全とセキュリティを確保することは、MSFにとって最優先事項の一つであると同時に、大きな課題でもあります。MSFは活動地を選定する際、安全上の脅威を予測し、防止し、対応するよう努めています。

MSFで働くスタッフは、性別、人種・民族的背景、外見、宗教、年齢、国籍など、職種の専門性以外の基準に基づく人事上の制限が、国家や武装集団などの外部組織によって課される場合があります。また、MSF自身が決定する場合もあります。しかしこれは望ましい形で活動を行うための妥協策であり、MSFはこうした制限を最小限にとどめよう努めています。

MSFが人事的な制限をする場合は、以下の2つの根拠に基づきます。

  • チームと業務の安全とセキュリティ上必要か
  • 活動の対象となる地域社会へのアクセスを確保する上で必要か

2025年初頭には、人事上の制限の種類や適用地域を整理した一覧表が初めて作成され、すべてのオペレーション組織(Operational Directorates = ODs)で共有されました。この一覧表は国ごとの状況をまとめたものであり、類似する状況における整合性と一貫性を確保するため、国際オペレーション・ディレクター会議(Réunion Internationale de Operational Directors = RIOD)によって毎年見直されています。

また2025年4月には、RIODが性暴力事案に関するセキュリティ情報の共有と機密保持に関する指針を承認しました。この指針は、外部の加害者によるレイプを含む暴力事案について、関係者の身元やプライバシーを守りながら、必要な情報共有を確実に行うための枠組みを示しています。

原則的にはスタッフの安全およびセキュリティ対策に関する責任は主にODにあり、ODはこの業務の大部分を担います。中央運営執行委員会の計画の任務は、これらの対策の調整を支援することにあります。

4:人材の採用と育成

MSFの既存の人員配置モデルでは、採用やキャリア開発の機会が不平等になっています。そのため、チーム構成に多様性がなく、プロジェクトでは男女格差が生じ、現地採用スタッフのコーディネーター職への登用が制限され、最上位職や幹部層には欧米出身のスタッフが多くなっています。

MSFには複数の法的雇用主が存在し、異なる人事方針や慣行を持つ分散型組織構造のため、組織全体としての戦略的優先事項に沿ったスタッフの採用や育成に大きな課題を抱えています。また、現在の人員配置モデルでは、中長期的な人材計画を十分に策定することができません。

2025年にMSF指導部が合意した「グローバル人材戦略」は、より戦略的かつ計画的な人材管理と、人事制度・サービスの見直しを通じて、こうした課題への対応を目指しています。この戦略によって、MSFの人材の多様性をより活かし、質の高い医療・人道援助活動の実現につなげることを目標としています。

一方で、分権的な組織構造や多様な方針・慣行は、人材の採用、定着、育成における大きな課題となっています。人事に関する原則は各オペレーション部門やMSF組織によって運用方法が異なります。また、一部のオペレーション部門では経験豊富な海外派遣スタッフの不足が課題となっており、新たな人材の採用・育成と同時に経験豊富なスタッフを維持し、さらに海外派遣スタッフにおける男女比の悪化を改善していく必要があります。

また、「国際契約事務所(International Contracting Office:ICO)」が設立されました。ICOは、自国にMSFの契約オフィスがないスタッフに対して、給与や福利厚生を含めた一貫した契約条件を提供する仕組みです。2023年10月には、ICOを通じた最初の海外派遣スタッフ向け契約が発行されました。

5.広報と資金調達

MSFの広報と資金調達のための制作物は、MSFの公的な顔として発信されるものです。こうした制作物において、患者やスタッフの尊厳と主体性を尊重し、それを適切に伝えるとともに、白人救世主主義や新植民地主義、人種主義といった考え方を助長しないようにする必要があります。依然として取り組むべき課題は残されていますが、多様性・公平性・包摂性(DEI)の原則を日々の広報活動やファンドレイジング活動により深く組み込むための新たなツールやリソース、協働体制が整備されるなど、大きな進展がありました。

2023年末、「コミュニケーションおよびファンドレイジングにおけるDEIタスクフォース」は主要な目標を達成し、その活動を終了しました。

  • 広報および資金調達向けDEIガイドを改訂・簡素化し、日常業務に取り入れやすい形にしました。これにより、スタッフや患者、活動地域の人びとを、尊厳をもって、倫理的かつ包摂的に表現する広報活動を促進しています。
  • 写真や映像がMSFの倫理基準やDEIに関する取り組みに沿っているかを確認する視聴覚資料の倫理レビューを行いました。このレビューの提言を受け、新たな視聴覚倫理フレームワークの策定・普及・導入を担う専任ポストのための予算が確保されました。これには研修の拡充や、活動全体を通じた包摂的な実践の推進も含まれます。
  • MSFの「倫理的ストーリーテリング・ガイドライン」を完成させました。

こうした取り組みを継続・発展させるため、広報ディレクター・プラットフォーム、資金調達ディレクター・プラットフォームおよびMSF全体のDEIアドバイザーは、2024年初頭にDEIアドバイザリー・グループを設立しました。研修を受けたピアレビュー担当者によって構成されるこのグループは、各チームへの支援や研修、国際的なプラットフォームへの助言、研修リソースの管理、ワークショップやウェビナーの開催などを通じて、広報およびファンドレイジング活動へのDEIの統合を推進しています。

このグループは毎月会合を開き、年次の進捗報告を共有するとともに、その役割や体制を定期的に見直し、必要に応じて更新しています。

6.MSFが医療・人道援助を届ける患者と地域社会に対する援助の基準

MSFは、活動する国や地域において、どこで、どのように活動するかを決定する際、また、MSFが活動するコミュニティの援助基準を定める際に、多様性・公平性・包摂性の原則を体系的に統合することを約束しました。このコミットメントは、援助する人びとに焦点を当てると同時に、MSFスタッフが包括的で差別のないケアの提供を実践することを保証するものです。

MSFは現在、次の3つの柱に基づいて、既存の医療方針や活動、取り組みにこれらの原則を反映させる作業を進めています。

  • 1.
    多様性・公平性・包摂性(DEI)の行動指針を医療ガイドラインや方針に組み込む
  • 2.
    患者・個人・コミュニティ中心のアプローチを実践し、プログラムの選択とプロジェクトの設計に多様性・公平性・包摂性の視点を含める
  • 3.
    進捗状況の適切なモニタリングと評価のために、関連する指標の特定および適用を促進し、説明責任を共有する

過去2年間には、以下の取り組みを進めました。

  • 複数の研修・人材育成プログラムにおいて、経済的・社会的・政治的要因に関する内容を組み込みました。
  • 試行的なプロジェクトを発展させる形で、人種差別に関する視点やLGBTQI+の人びとへの包摂を診療やケアに取り入れました。
  • 倫理審査委員会とともに、MSFの研究プロトコルを見直しました。
  • 医療ガイドライン、標準業務手順書、各種フレームワークについて、少なくとも5言語への翻訳を進め、必要に応じて現地語版も作成しました。
  • 2025年には、MSFが活動の質と妥当性を評価するための枠組みである「相互説明責任フレームワーク(Mutual Accountability Framework)」の大規模な見直しを完了しました。指標の分類体系やガバナンス・プロセス、分析の質を検証するとともに、多様性・公平性・包摂性の視点が評価や振り返りに反映されるよう改善を行いました。

7.執行部のガバナンス(統治)とMSFの多様性を反映させた団体内の権限バランス

MSFは55年にわたる活動の歴史の中で発展してきましたが、その結果として、組織内の権限や意思決定の仕組みは欧州に集中してきました。近年、MSFはこうした意思決定権限を組織全体でどのように分散していくべきかについて議論を重ねています。

2019年に西・中央アフリカ地域にODが設立され、MSFの活動の場所と方法に関する意思決定が、初めて欧州以外でされるようになりました。そして2025年には、新たなODであるMSF Ubuntuの設立が承認されました。また、欧州を拠点とするODの一部職務や部門についても、欧州以外への分散化が進められています。しかし、現在でもMSFの主要な意思決定主体は、ほぼ引き続き欧州内にあります。

そうした状況に対処するため、MSFは組織構造そのものを批判的に評価することに取り組んでいます。この取り組みにより、堅固で説明責任を果たせるガバナンス体制を維持しつつ、欧州域外に意思決定機関を設置することで、より柔軟性を高めることが可能となります。

過去2年間に達成した主な進展は次のとおりです。

  • 2025年に採択された新たな方針により、MSFの構成組織であるセクション設立の障壁が取り除かれました。例えば、財政的な自立やMSF全体への財政的貢献を義務付ける要件が撤廃されたことにより、資金調達の収入の見込みだけに左右されることなく、世界のさまざまな地域で新たなセクションを設立できる可能性が広がりました。
  • この方針では、MSFにおいて活動運営を担う権限についても見直しが行われました。支援者と 支援を受ける人びとをつなぐ役割を担うセクションが、MSFの社会的使命の実施に対する監督責任を共有することを明確にしています。
  • この新方針に基づき、2025年にMSF Ubuntuが新たなODとして設立されました。東アフリカ、南部アフリカ、英国、スペインのMSFセクションが共同で運営しています。
  • 欧州の一部の意思決定主体では、統合を通じて議決権の比重を下げ、ExComにおける意思決定の場に、欧州以外のより多くの地域の代表が参加できるようにする取り組みが進められています。

終わりに——着実に前進はあったが、まだ多くの課題が残されている

中央運営執行委員会の行動計画は、MSFの組織文化やガバナンス、そして働き方そのものを変えることを目指してきました。この6年間で大きな進展が見られた分野もありますが、一方で、十分な前進ができていない分野があることも認識しています。

それでもなお、組織内の不平等の是正に向けた取り組みは続いています。その取り組みは、組織全体のレベルから各オフィス、さらには個々のプロジェクトや活動に至るまで広がっています。私たちは、スタッフや患者、活動地域の人びとにとって意味のある変化を生み出し、人種差別や差別と闘い続けることを約束します。また、透明性と説明責任という原則を今後も堅持していきます。

今回の報告は、2020年に開始された「組織的差別と人種主義への取り組み」行動計画の枠組みに基づく最後の進捗報告となります。今後、この取り組みの大部分は、MSF全体を対象とする新たな枠組みに移行します。

この計画が開始されて以来、MSFのあり方を再構築する2つの取り組みが行われてきました。その一つが、2021年から2024年にかけて実施された「私たちが目指すMSFの姿(MSF We Want to Be:WWTB)」です。中央運営執行委員会の行動計画で示されたテーマをもとに議論が行われ、MSF史上最も幅広く多くの人びとが参加した対話の場となりました。

このプロセスの目的は、MSFの社会的使命に関する重要な課題について、スタッフやアソシエーションメンバーの意見を集め、今後改善すべき点を明らかにすることでした。その成果は、現在のMSF全体の戦略的コミットメントにつながっています。

もう一つは、「SPARC(Strategic Planning, Accountability and Resource Cycle)」です。SPARCは、2026年から2031年までのMSF共通の目標に向けた中長期の戦略とリソース配分の枠組みであり、MSF全体の戦略的優先事項とリソース計画を初めて統合する試みです。

WWTBで示された共通のコミットメントは、SPARCおよび各組織の戦略計画に反映されています。これによりMSFは、組織全体で共有する戦略的優先事項と共通の方針を持ち、それらに対する説明責任を強化する基盤を整えました。

SPARCは、人道援助活動に対する私たちの取り組みに十分なリソースが確保されるよう保証するとともに、これらの目標の達成に向けて自ら責任を果たすことを約束しています。中央運営執行委員会の計画における7つの柱のうち5つ(※2)は、SPARCの重点分野と一致しているため、同計画の主要な目標はSPARCの行動計画に組み込まれ、MSFの全スタッフが主体となって取り組んでいくことになります。

説明責任は、SPARCの重要な要素です。SPARC内の「共通戦略的優先事項」を担当する専門の作業部会では、SPARCの包括的な合意書に明記されている通り、現在、年次報告に向けた具体的な指標をそれぞれ策定しています。最初の進捗状況に関する年次報告は2027年に予定されており、報告の内容は今後発展していく予定です。なお、公開報告書の範囲については、現時点ではまだ決定していません。

この取り組みは新たな枠組みに移行しますが、私たちの決意は変わりません。あらゆる形の人種主義や差別に引き続き向き合い、より公平なMSFの実現に向けて取り組みを続けていきます。
 

※2 7つの柱のうち、「広報・資金調達」と「執行部のガバナンスと権限」は除きます。前者は行動計画に定めた目標を達成しました。後者については、MSFが従来の欧州中心の体制から意図的に権限とリソースを移し、多様性を高めるためにガバナンスを見直すことを盛り込んだ戦略が現在策定中です。

MSFにおける意思決定プラットフォームについて

インターナショナル理事会(International Board = IB)
MSFインターナショナルの理事会。MSFインターナショナル総会(International General Assembly = IGA)に代わって活動し、IGAに対して説明責任を負う。MSFインターナショナル会長が率いる理事会は、選挙で選ばれたメンバーと他に選任されたメンバーで構成される。

運営執行委員会(Executive Committee = ExCom)
Full ExCom:MSFの24事務局の事務局長(Directors General)と国際医療主事(International Medical Secretary)で構成され、インターナショナル事務局長(International Secretary General)が議長を務める業務執行の意思決定機関。
Core ExCom(中央運営執行委員会):6つのオペレーション組織のディレクター(Directors General/Executive Directors)、選出された2つのパートナー事務局の事務局長、国際医療主事で構成され、インターナショナル事務局長が議長を務める業務執行の中核的な意思決定機関。

オペレーション組織(Operational Directorates = ODs)
MSFが活動する国や地域で、いつ、どこで、何を、どのように医療・人道ニーズに対応するかを決定する6つの組織。互いに独立して運営され、アムステルダム、バルセロナ、ブリュッセル、ジュネーブ、パリ、そしてコートジボワールのアビジャン(西・中央アフリカOD)を拠点とする。

国際オペレーション・ディレクター会議(Réunion Internationale de Operational Directors = RIOD)
6つのオペレーション組織のディレクターで構成されるプラットフォーム。国際オペレーション人道代表コーディネーター(International Operations Humanitarian Representation Coordinator)が議長を務める。

国際人事ディレクター・プラットフォーム(International Directors’ Platform for Human Resources = IDRH)
6つのオペレーション組織の人事ディレクターと、選出された2つの事務局の人事ディレクターで構成されるプラットフォーム。国際人事コーディネーター(International Human Resources Coordinator)が議長を務める。

広報ディレクター・プラットフォーム(Directors of Communication platform = DirCom)
Full DirCom:MSF各事務局の広報ディレクター(Directors and Heads of Communications)で構成されるプラットフォーム。国際広報コーディネーター(International Communications Coordinator)が議長を務める。
Core DirCom:6つのオペレーション組織の広報ディレクターと、2つのパートナー事務局から選出された広報ディレクターで構成される、MSFの広報活動における中核的意思決定機関。国際広報コーディネーターが議長を務める。

資金調達ディレクター・プラットフォーム(Directors of Fundraising = DirFund)
MSFの各事務局または支部から選出された5名の資金調達責任者(Heads of Fundraising)で構成されるプラットフォーム。国際資金調達コーディネーター(International Fundraising Coordinator)が議長を務める。

医療ディレクター・プラットフォーム(Medical Directors’ Platform = DirMed)
6つのオペレーション組織の医療ディレクター、アクセス・キャンペーンの医療ディレクター、国際医療コーディネーター、国際医療主事で構成される。

医療およびオペレーション・ディレクター・プラットフォーム(Medical and Operational Directors Platform = MedOp)
6つのオペレーション組織の医療ディレクター、オペレーション・ディレクター、アクセス・キャンペーンのエグゼクティブ・ディレクターと医療ディレクター、国際医療コーディネーター、国際オペレーション人道代表コーディネーターを含むDirMedとRIODのメンバーで構成される。国際医療主事が議長を務める。

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