事務局からのお知らせ
国境なき医師団における組織的差別と人種主義への取り組みについて──2022/2023年更新版
2024年07月26日2020年7月、国境なき医師団(MSF)の国際的な指導部は、組織内の差別と人種差別に取り組むことを公に約束しました。中央運営執行委員会(Core ExCom)は「MSFのアソシエーションが求めている抜本的な行動を先導すること」を約束。公約は、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(パンデミック)の影響もあり、人種的平等と健康の平等を求める世界的な運動が強く展開される中で打ち出されました。また、MSFのスタッフが何年にもわたり、変革を求めて訴えてきたことに続くものでもあります。
2020年、中央運営執行委員会は行動計画を定め、緊急かつ具体的な行動を必要とする7つの優先すべき主要分野を特定しました:
1. 虐待および不適切な行為の管理
2. スタッフの報酬(報酬および福利厚生を含む )
3. リスクへの対応—安全確保とセキュリティ
4. 人材の採用と育成
5. 広報と資金調達
6. MSFが医療・人道援助を届ける患者と地域社会に対する援助の基準
7. 経営陣のガバナンス(統治)とMSFの多様性を反映させた団体内の権限バランス
2022年初め、MSFは2021年12月までの1年半の進捗状況を報告しました。中央運営執行委員会の最初の公約から約4年、前回の更新から2年が経過した今、本書では2022年と2023年における上記7分野の進捗状況を概説します。
MSFは、スタッフ、患者、地域社会、寄付者、ステークホルダー、および広く一般の人びとに対し、これら7分野におけるMSFの立ち位置を知っていただきたいと考え、前進するために苦闘している分野を含め、進捗状況を公表しています。そうすることが、透明性を保ち、MSFの行動に対する説明責任を果たす最善の方法だからと考えます。2023年末、それまでの2年間でMSFが達成できたこと、そしてまだやるべきことを精査しました。
MSFは上記7分野すべてに取り組む一方で、中央運営執行委員会は、虐待や不適切な行動の問題、およびスタッフの報酬・報奨制度における不公平への対応を優先課題として設定しました。
「MSFのスタッフ、アソシエーション会員、協力パートナー、寄付者の皆さま、そして支援を届けようとしている活動地の人びとは、MSFが改善を約束した分野での結果を期待しています。行動計画の立ち上げ以来、いくつかの分野では大きな前進を遂げましたが、他の分野ではさらにやるべきことが残されています。そのため私たちは、現在の戦略が終了する2025年末までの明確なマイルストーンを設定した、最新の行動計画作成に取り組んでいます。この報告書によってMSFの進捗状況について一定のご理解をいただくとともに、ステークホルダーの皆さまが、この重要な任務の達成について、引き続き私たちに責任を課してくださることを願っています」
MSFインターナショナル会長 クリストス・クリストゥ
本書は、MSFにおける差別と人種主義への取り組みのすべてを網羅したものではなく、MSFの運営執行委員会(ExCom)で合意された優先事項に基づいて、行動計画の立ち上げ以降に組織全体で認められた主な進捗の一部をまとめたものです。MSFのプロジェクトやオペレーション組織(OD)で実施されている取り組みは無数にありますが、それらは本書では取り上げていません。透明性を確保するため、2020年と2021年の進捗状況については、2022年2月の報告をご参照ください。
MSFの意思決定とリーダーシップの仕組みを明確にし、よりよくご理解いただくために、本書で言及するMSF内用語についての簡単な用語集も文末に掲載しています。
1:虐待および不適切な行為の管理
虐待をめぐる問題への取り組みは、MSF指導部にとって最優先事項となっています。過去2年間、これらの問題への取り組みに、より一層の注意と努力が払われてきました。MSFでは、不適切な行為に関する苦情のデータ収集を継続しています。MSFに寄せられる苦情の件数と種類(スタッフ、患者とその世話人、地域住民などによるもの)、および毎年確認される苦情の内訳は、こちらをご覧ください。苦情の件数は年々増加傾向にありますが、虐待の影響を受けたり、虐待を目撃したり、虐待について懸念を抱いたりするすべての人が通報できるようにするためには、一層の努力が必要です。
MSFは、スタッフ、患者、その世話人、そしてMSFが活動する地域社会にとって、虐待や危害のない環境をつくる努力を続けています。虐待の予防と発見を重視するとともに、通報の仕組みを利用しやすく、包括的なものにすることは、この活動にとって極めて重要です。虐待に関する苦情が寄せられた場合、それに対応する十分な訓練を受けた担当者を確保することも、虐待の申し立てを真摯に受け止め、適時に対処し、虐待が発生したと判明した場合には、対応策と改善策を講じるというMSFの公約を果たす上で極めて重要です。
この2年間で、MSFは虐待の防止、発見、対処に向けた取り組みを以下のように前進させてきました:
- セーフガーディング・コーディネーターの採用:国際セーフガーディング・コーディネーター(ISC)が採用され、2023年に活動を開始しました。ISCは、世界のMSFの全関係者と協力しながら、MSFのセーフガード(保護)活動を定義し、推進します。これには、虐待を予防・発見する能力を継続的に向上させ、虐待の報告を可能にし、虐待の申し立てに確実に対処し、虐待の申し立てにタイムリーかつ専門的な方法で対処できる訓練を受けた人材を確保するために、MSFが取るべき行動を定義することが含まれます。ISCはまた、MSF(オペレーション組織と事務局の両方)における行動指導のためのプラットフォームの調整も行っています。
- 調査員からなる人材プールの設立に取り組む:MSFが活動する国やプロジェクトにおける虐待の申し立てに関する調査のために、世界規模の調査員プールを設立することを承認しました。
- 統一された事案管理メカニズム:MSFの複数の事業体にまたがる深刻な虐待疑惑の報告などに対応するため、共通の事案管理メカニズムが設計されています。このメカニズムには、先のようなケースに効率的に対処するための明確なプロセスが含まれています。
- 活動地を拠点としたスタッフの雇用:バングラデシュとアフガニスタンでは、虐待の防止、発見、報告の強化、虐待への対応に取り組むスタッフを雇用し、特定の場所で保護やリスク評価を実施しています。
さらに、多くの活動は継続的な取り組みを必要とします。例えば、期待される行動や虐待に関する苦情をどこでどのように申し出るかについての啓発、スタッフへの研修、苦情申立者への適切な対応に関する管理職への研修、リスク分析、安全な採用と業績評価、多様性・公平性・包摂性(DEI)への取り組みの強化、患者中心のアプローチへの注力、事案管理と調査、(患者や地域社会を含む)通報制度へのアクセスの改善、通報することへの障壁の把握などが含まれます。
2:スタッフの報酬(報酬および福利厚生を含む)
「私たちはスタッフからのフィードバックに耳を傾け、仕事に対する報酬の公平性と透明性の向上に努めています。報酬の見直しを通じて、私たちは既存の方針とプロセスを徹底的に分析し、変更すべき点について提案を策定しました。この変革は複雑かつ野心的なものですが、確実に遂行すべきです」
MSFインターナショナル会長 クリストス・クリストゥ
MSFは、MSFの給与・報酬に関する方針とプロセスが、多様なグローバル組織を目指すMSFの方向性と合致していないことを認識しています。これらの方針とプロセスは、進化するMSFの業務と組織の要件を適切にサポートしておらず、一貫性がなく、機動性を妨げ、多くの職員に不公平と受け止められています。こうした不公平に対処するため、MSFは過去2年間に以下のような措置を講じました:
- 方針とプロセスの見直し(報酬の見直し):MSFの給与と福利厚生に関する既存のアプローチを体系的に分析するための見直しを実施しました。2021年から2023年にかけて実施したこの見直しには4000人以上のスタッフが参加し、450回にわたるスタッフ参加型セッションで意見を述べました。また、この見直しでは、組織体としてのMSFの進化、現在のスタッフの給与体系、同業他団体との比較などもデータを通して分析されました。
- 運営執行委員会による問題特定:2023年4月、レビューの結果が運営執行委員会に提出され、時世に合わせて進化していない方針と慣行、給与と福利厚生のパッケージにおける看過できない差異、仕事とスタッフのサポートに対する評価の不一致、不十分な人事ガバナンスと説明責任などの問題が特定されました。
- 中央運営執行委員会による合意:2023年5月、MSFの経営幹部は、こうした問題に対処するため、MSFの報酬方針の大幅な変更に合意しました。これには、全スタッフを対象とした一連の基本手当、給与の最低基準、調整された方法論による生活賃金の一貫した定義、一貫したベンチマーキング・アプローチ、既存の時代遅れのグループに代わる2つの新しいスタッフ・グループ(モバイル・スタッフとカントリー・ベース・スタッフ)、組織全体で職務と機能が一貫して等級付けされるようにするためのフレームワークなどが含まれます。
これらは非常に重要な変更であり、完全な展開には数年を要します。しかし、2023年10月以降、一部のスタッフにとって重要な改善がすでに以下のように実施されました:
- 免責補償金の廃止(MSFで働き始めてから12カ月間、モバイル・スタッフが給与の代わりに免責補償金を受け取る慣行)。
- 国際契約事務所(ICO)の立ち上げ。一貫した契約プロセスを提供し、自国にMSFの契約事務所を持たないスタッフの給与と福利厚生を調整する(詳細はセクション4「人材の採用と育成」を参照)。
- ICO契約職員のためのMSF国際退職貯蓄プランの設定。
3:リスクへの対応──安全確保とセキュリティ
紛争や暴力がはびこる状況下での活動は、MSFの設立以来、欠くことのできないものとなってきました。スタッフの安全を確保することは、MSFの最大の優先事項であり、課題でもあります。MSFは活動する地域を選ぶ際、安全上の脅威を予測し、予防し、対処するよう努めています。
MSFで働くスタッフは、性別、民族、外見、宗教、年齢、国籍など、職種の専門性以外の基準に基づく、人事上の制限を受けることがあります。これは、国家や武装集団などの外部組織からMSFに課されることもあれば、MSFが決定することもあります。しかしこれは望ましい形で活動を行うための妥協策であり、MSFはこうした制限を最小限にとどめよう努めています。
MSFが人事的な制限をする場合は、以下の2つの根拠に基づきます:
- チームと業務の安全とセキュリティ上必要か
- 活動の対象となる地域社会へのアクセスを確保する上で必要か
人事的な制限を設ける際の意思決定、実施は各 OD内で行われますが、そのプロセスはOD間で共有されます。さらに、制限の種類と場所も国際オペレーション・ディレクター会議(RIOD)で共有され、年に1回見直されます。各ODは責任をもってこの共通のツールを更新します。
原則的にはスタッフの安全およびセキュリティ対策に関する責任は主にODにあり、ODはこの業務の大部分を担います。中央運営執行委員会の計画の任務は、これらの対策の調整を支援することにあります。
4:人材の採用と育成
MSFの既存の人員配置モデルでは、採用やキャリア開発の機会が不平等になっています。そのため、チーム構成に多様性がなく、プロジェクトでは男女格差が生じ、現地採用スタッフのコーディネーター職への登用が制限され、本部の幹部層には欧米出身のスタッフが多くなっています。
MSFには複数の法的雇用主が存在し、異なる人事方針や慣行を持つ分散型組織構造のため、スタッフの採用、雇用継続、育成の点で重要な課題に直面しています。団体には単一の人事戦略がなく、MSFの原則は、オペレーション組織や事務局、その他のMSF事業体毎に異なる形で適用されています。いくつかのオペレーション組織では、世界各地で活動できる経験豊富なスタッフが不足しており、そうしたスタッフをいかにして維持するかと同時に、新たに海外派遣スタッフと現地スタッフを採用して育成し、男女格差の悪化を防ぐことがさらなる課題となっています。
こうした課題がある中で、過去2年間に以下の目標が達成されました。
- MSFの事務局がない国出身のスタッフのための契約:国際契約事務所(ICO)を立ち上げ、自国にMSFの事務局がない海外派遣スタッフに対し、2023年10月には最初の契約と給与支払いを行いました。ICOは一貫した契約プロセスを提供し、スタッフが所属するODに関係なく、給与と福利厚生の一貫性を保ちます。また、MSFでの雇用期間を通じてサポートし、契約に関する窓口を一本化します。
- 本部職の他地域への移転:MSFインターナショナルと多くのODでは、本部職位、さらには部署全体を、従来の欧州の拠点から他の地域に移す事例が増えています。そのため、ナイロビ、アンマン、ダカール、ドバイ、ボゴタ、ブエノスアイレスなど、各地域で本部職の募集が行われ、一部の職や部門、本部全体の多様性が高まっています。
- 求人情報ページ:msf.orgに求人情報ページが開設され、MSFで働くことに関心のある人なら誰でも、各MSF事務局で募集されている求人情報にアクセスできるようになりました。2022年4月のサイト開設以来、2023年末までに1,685件の求人情報が掲載されました。
- アクセスしやすいMSF雇用方針のサイト:「MSFによる雇用」に関する情報と報酬規定を掲載した新しいウェブサイト(rewards.msf.org)が2022年に開設され、MSFの全スタッフ(MSFの電子メールアドレスを持たず、MSFのイントラネットにアクセスできないスタッフも含む)がアクセスできるようになりました。
- 人事ポータル:新たな人事ポータルが開設され、MSFのコンピューターにアクセスできるスタッフは、すべての人事方針とガイドラインをアラビア語、英語、フランス語、スペイン語で閲覧できるようになりました。同ポータルにアクセスできないスタッフは、www.msf.orgの報酬ページで方針を閲覧できるようになりました。
- データ報告と分析の改善:2023年6月に発表された2022年版MSFスタッフ・データ・トレンド・レポートには、人員とその傾向の変化についての理解を深めるため、人員構成に関する分析と、より詳細な報告が含まれました。ODは、採用・キャリア管理プラットフォームを通じて、この情報を採用・育成のアプローチに活用しています。
5:広報と資金調達
「私たちは、治療を受ける人びとの尊厳と主体性を尊重することを約束し、このことが人間の苦しみについて証言し、声を上げるというMSFの使命を果たすための基本であると認識しています。私たちは、それに関するガイドライン、基準、ポリシーの改善に取り組んでおり、また、私たち自身の考え方も変化させています」
MSFインターナショナル会長 クリストス・クリストゥ
MSFの広報や資金調達のための制作物は、MSFの公的な顔となりえます。こうした制作物のなかで患者やスタッフの尊厳と主体性を示し、白人救世主主義、新植民地主義、人種主義といった認識を払拭するよう求める声は、MSFの内外から急速に高まっています。課題は依然として残されていますが、DEI問題への取り組みにおいて、広報部門と資金調達部門に課された目標の達成には、以下の点を含む大きな進展がありました。
- 広報のためのDEIガイドライン:DEIガイドラインは、MSFのスタッフ、患者、そしてMSFが共に活動するコミュニティを正確に表現し、より尊重的、倫理的、包括的な広報資料の作成について、MSF全スタッフに助言する指針として、専門タスクフォースによって作成されました。またDEIガイドラインを使用するための研修コースが、英語、フランス語、スペイン語で開発され、MSF内の研修プラットフォームで公開されています。
- DEI言語ガイドライン:2021年半ばから2022年にかけて、「MSFのコミュニケーションにおける、公平、尊重、包摂な言語ガイドライン」を英語、フランス語、アラビア語、スペイン語で発表しました。DEIガイドラインを補完するこれらの指針は、MSFコンテンツの制作、編集、発信において、適切な用語を用いて人びとや危機、状況を表現するために活用できます。また、2022年と2023年には、トピックに特化型のガイドライン(障害に関するものなど)を作成・配布しました。
- DEI担当職員の採用:2022年末、DEIガイドラインの展開とトレーニングを促進するため、DEIガイドライン展開コーディネーターを臨時採用し、DEIファシリテーターとしてのトレーニングを受けた資金調達部門の担当者も任命しました。同職は、ガイドラインの展開が想定通りに完了したことを受けて役務終了となりました。
- オンラインDEIハブ:MSFの広報・資金調達担当者のためのDEIナレッジ・ハブ、通称「Ubuntu」が2022年9月に開設されました。このオンライン・ハブの目的は、広報・資金調達チームにDEIに関する情報を提供し、インスピレーションを与えることであり、このテーマに関する組織内外の情報源にリンクすることです。
- フィードバック・グループ:MSF内で制作される広報コンテンツの正当性に関する意見を集約するために、「ピア・フィードバック・グループ」を立ち上げました。組織全体から集まった大勢のボランティア・グループが、広報コンテンツを精査し、患者やコミュニティを品位に欠ける方法で描写したり、ステレオタイプを助長したり、ヒーローや白人救世主主義の文脈を盛り込んだ表現があれば報告します。この取り組みの効果は認められ、広報や資金調達キャンペーン制作の開発プロセスなどにおいて、早い段階でサポートを求めることができるよう、その後さらに推進されています。
- メディア・データベースの見直し:2021年に視聴覚素材データベースの見直しが開始され、2023年8月に写真の見直しが完了しました。倫理基準やDEIコミットメントに準拠していない画像を特定するため、15万枚以上の写真が見直され、うち11万4千枚が2度にわたる見直しを受けました。約1万2500枚の写真にフラグが立てられ、その後2500枚が閲覧・使用から除外されました。
- 問題のある画像に取り組むことを誓約:2022年6月、全広報ディレクター・プラットフォーム(DirCom)は声明を発表し、医療プロジェクトの現場で撮影された写真やビデオの収集、使用、配布、保管をよりよく管理するために、多方面から行動を加速させることを誓約しました。
- 外部からの助言と勧告:全広報ディレクター・プラットフォームの誓約に続き、またデータベースの見直し作業に基づいて、MSF内部の医療およびその他部門の専門家と、外部の学者および専門家の2つの諮問委員会による一連のワークショップが開催され、視聴覚素材を用いる活動の実践に関する助言と勧告が集められ、報告書を作成しました。
- 視聴覚倫理フレームワーク:報告書の提言に基づき、MSFの新しい視聴覚倫理フレームワーク(ガイドライン)を開発、普及、展開(適切なトレーニングによるものを含む)するための予算が確保され、担当者を任命、2024年1月に業務を開始しました。
- フォトグラファーとの契約に関する提案:過去にMSFの活動現場において撮影された写真の中で、DEIコミットメントに準拠していない写真が、撮影したフォトグラファーや写真エージェンシーを通じて入手可能なままであるとの指摘を受け、フォトグラファーとの契約書を収集・見直し、新たな条項や契約に関する提案書を作成しました。
6:MSFが医療・人道援助を届ける患者と地域社会に対する援助の基準
MSFは、活動国において、どこで、どのように活動するかを決定する際、また、MSFが活動するコミュニティの援助基準を定める際に、多様性・公平性・包摂性の原則を体系的に統合することを約束しました。このコミットメントは、援助する人びとに焦点を当てると同時に、MSFスタッフが包括的で差別のないケアの提供を実践することを保証するものです。
MSFはこの原則を、次の3つの核となる点に基づいて、現行の医療方針や活動、取り組みに適用していきます:
- 多様性・公平性・包摂性の行動指針を医療ガイドラインや方針に組み込む
- 患者・個人・コミュニティ中心のアプローチを実践し、プログラムの選択とプロジェクトの設計に多様性・公平性・包摂性の視点を含める
- 進捗状況の適切なモニタリングと評価のために、関連する指標の特定および適用を促進し、説明責任を共有する
過去2年間の、この分野における取り組みは以下の通りです:
- 患者憲章:2023年、患者憲章が、内外の専門家および患者代表との協議のもとに作成され、インターナショナル理事会(International Board=IB)と協力して最終決定された。この憲章の原則は、MSFが活動する状況において、効果的で安全かつ公平な医療を提供することに基づき、「尊厳と尊重」「安全な医療と保護」「アクセス」「情報」「参加と同意」「プライバシーと守秘義務」「フィードバックと苦情処理」を含んでいます。これらの原則は今日、各ODが各自のプロジェクト環境の文化的、状況的特殊性に応じて実施・適応するための指針となっています。
- 患者データの保護:患者データ保護戦略の実施に向けた取り組みが継続されており、患者の権利と医療上の守秘義務を中心とした患者の健康データの保護が確保されています。データ保護を確実にする上で重要なのは、患者に自分の医療情報がどのように使用され、懸念がある場合にどのような解決のための仕組みが利用できるかを知らせることです。この取り組みの一環として、患者医療情報通知書が完成し、MSFで組織的に取り入れられています。
- 医療の質に関する指標のリスト:医療の質に関する指標のリストが作成され、医療ディレクター・プラットフォーム(DirMed)とオペレーション・ディレクター・プラットフォーム(MedOps)によって承認されました。これにより、医療の質レベルが一定期間にどれだけ達成されたを測ることが可能になります。さらに、患者の安全性に関する指標も標準化されつつあります。
- 医療活動データの一貫した最適化:DirMedの下で、医療活動データ(診察回数、種類など)の最適化と確実な利用を目的とした健康データ戦略が開発され、OD全体で首尾一貫したアプローチがとられています。この戦略では、データの最小化というアプローチをとり、質の高いモニタリング、不必要なデータの収集の回避、患者情報の最適な利用を実現しています。
- 高品質医療製品のレビュー:高品質の医療・ヘルスケア製品を確実に提供するために、品質保証チームの業務見直しが実施され、進展した分野とさらなる改善が必要な分野の特定が行われました。この作業は、国際医療品質製品・出版チーム、供給センター、グローバル調達ユニットなどの間で調整されています。
- 相互説明責任の改訂プロセス:MSFの活動の質と妥当性を測定するためのツールや方法論である相互説明責任の仕組みの改訂プロセスが2022年に開始され、使用される類型指標、ガバナンス・プロセス、分析の質を見直すとともに、多様性・公平性・包摂性が反映されるようになりました。この見直しの重要な部分は、関連する情報、データ、報告を把握するために、どのチームや利害関係者と関わり、協議する必要があるかを見極めることです。
7:執行部のガバナンス(統治)とMSFの多様性を反映させた団体内の権限バランス
MSFの創設と過去50年にわたる進化の歴史の中で、MSF内における権限と意思決定の仕組みは欧州に集中してきました。近年、MSFは、この意思決定権限をMSFの組織全体にどのように行きわたらせるべきかについて自問してきました。2019年に西・中央アフリカ地域にODが設立され、MSFの活動の場所と方法に関する意思決定が、初めて欧州以外でされるようになって以来、状況は徐々に変化しています。しかし、現在でもMSFの意思決定主体は、ほぼ引き続き欧州内にあります。
そうした状況に対処するため、MSFは組織構造そのものを批判的に評価することに取り組んでいます。MSFは、堅固で説明責任を擁するガバナンス・システムを維持しつつ、欧州外に設立された意思決定機関をより柔軟に活用できるようにするプロジェクト立ち上げ、これを実践します。
2023年末までの間、運営執行委員会は、現在および将来の事業体の数と場所をどのように管理するかについて、これらの事業体がMSFの活動にどのような利益をもたらすかを常に判断の中心に据えたビジョン文書を作成しました。
終わりに——前進はあったが、まだ多くの課題が残されている
「私たちは、行動計画を掲げてからの公約の進捗にばらつきがあることを認識しています。飛躍的に前進した分野もあれば、ほぼ前進していない分野もあります。しかし、どの分野においても改善を続ける必要があります。この報告での概説は、MSFが行っていることすべてを網羅しているわけではありませんが、私たちは努力を続けており、さらなる発展を目指しています」
MSFインターナショナル会長 クリストス・クリストゥ
MSFは、最終的には組織文化、ガバナンスを変え、仕事のやり方を変えるプロセスに着手しました。完全な実施には時間がかかりますが、MSFはこれらの変革プロセスの実行に全力を尽くしています。MSFは、こうした組織改革がスタッフ、患者、地域社会に変化をもたらすと信じています。
この2年間で、いくつかの分野では大きな前進を遂げることがきましたが、その他の分野では予想したほど前進していないことも認識しています。MSFは今ここで立ち止まるのではなく、前進していくことをお約束します。
MSFにおける意思決定プラットフォームについて
インターナショナル理事会(International Board =IB)
MSFインターナショナルの理事会。MSFインターナショナル総会(International General Assembly=IGA)に代わって活動し、IGAに対して説明責任を負う。MSFインターナショナル会長が率いる理事会は、選挙で選ばれたメンバーと他に選任されたメンバーで構成される。詳細はこちら
運営執行委員会(Executive Committee=ExCom)
Full ExCom:MSFの24事務局の事務局長(Directors General)と国際医療主事(International Medical Secretary)で構成され、インターナショナル事務局長(International Secretary General)が議長を務める業務執行の意思決定機関。
Core ExCom(中央運営執行委員会):6つのオペレーション組織のディレクター(Directors General/Executive Directors of the six operational directorates)、選出された2つのパートナー事務局の事務局長、国際医療主事で構成され、インターナショナル事務局長が 議長を務める業務執行の中核的な意思決定機関。
オペレーション組織(Operational Directorates =OD)
MSFが活動する国や地域で、いつ、どこで、何を、どのように医療や人道的ニーズに対応するかを決定する6つの組織。互いに独立して運営され、アムステルダム、バルセロナ、ブリュッセル、ジュネーブ、パリ、そしてコートジボワールのアビジャン(西・中央アフリカOD)を拠点とする。
国際オペレーション・ディレクター会議( Réunion Internationale de Operational Directors =RIOD)
6つのオペレーション組織のディレクターで構成されるプラットフォーム。国際オペレーション人道代表コーディネーター(International Operations Humanitarian Representation Coordinator)が議長を務める。
国際人事ディレクター・プラットフォーム(IDRH)
6つのオペレーション組織の人事ディレクターと、選出された2つの事務局の人事ディレクターで構成される。国際人事コーディネーター(International Operations Humanitarian Representation Coordinator)が議長を務める。
広報ディレクター・プラットフォーム(Directors of Communication platform =DirCom)
Full DirCom:MSF各事務局の広報ディレクター(Directors and Heads of Communications)で構成されるプラットフォーム。国際広報コーディネーター(International Communications Coordinator)が議長を務める。
DirCom5:6つのオペレーション組織の広報ディレクター(Directors of Communications for the six operational directorates)と、2つのパートナー事務局から選出された広報ディレクターで構成されるMSFの広報活動における中核的意思決定機関。国際広報コーディネーターが議長を務める。
資金調達ディレクター・プラットフォーム(Directors of Fundraising =DirFund)
MSFの各事務局または支部から選出された5名の資金調達ディレクター(Heads of fundraising from MSF sections or branch offices)で構成されるプラットフォーム。国際資金調達コーディネーター(International Fundraising Coordinator)が議長を務める。
医療ディレクター・プラットフォーム(Medical Directors’ platform =DirMed)
6つのオペレーション組織の医療ディレクター、アクセス・キャンペーンの医療ディレクター、国際医療コーディネーター、国際医療主事で構成。
医療およびオペレーション・ディレクター・プラットフォーム(Medical and Operational Directors platform =MedOp)
6つのオペレーション組織の医療ディレクター、オペレーション・ディレクター、アクセス・キャンペーンのエグゼクティブ・ディレクターと医療ディレクター(Executive and Medical directors of the Access Campaign)、国際医療コーディネーター(International Medical Coordinator)、国際オペレーション人道代表コーディネーターを含むDirMedとRIODのメンバーで構成される。国際医療主事が議長を務める。