事務局からのお知らせ
虐待・搾取・ハラスメントのない活動環境の実現を目指して
2024年07月16日MSFは、虐待・ハラスメント撲滅に向けて行ってきた取り組み、課題、前年度に寄せられた容認できない行動の通報件数と内部調査の結果を声明として発表してきました。そして今年も、2023年の通報件数、および現在の取り組みに関する最新状況をご報告いたします。MSFは引き続きこの重大な問題に一丸となって取り組んでまいります。(2022年度の報告はこちら)
不正行為の通報体制
MSFは団体内での意識向上を目指して全スタッフに通報体制の存在を周知しています。通報体制に関する情報はマニュアル化されているほか、ブリーフィング、活動地視察、研修等の際に伝えられています。さらに、虐待とその対応に関するオンライン教育ツールは定期的に更新・改善されています。
過去数年の間にMSF全体でこの問題に対して行われたさまざまな取り組みの例です。
機密保持
不正行為が通報された際、MSFは被害者と内部通報者の安全と健康を最優先します。被害者には細心の注意のもと、直ちに心理ケアと医療ケア、法的なサポートを提供します。
事態を司法の手に委ねるべきか否かについて、MSFは常に被害者の判断を尊重しています。未成年に対する性的虐待が起きた場合には、MSFは司法当局への通報を基本方針としています。しかしその場合も子どもの利益と、該当する司法プロセスの有無を最優先しています。
2023年実態
2023年は世界全体で約6万9000人がMSFの活動に携わりました。この年、虐待ないし不適切行為に係る合計823件の通報・苦情が申し立てられ、うち714件が活動地で働くスタッフから、109件が活動統括本部(オペレーション・センター、事務局など)から寄せられました。これらの通報・苦情のうち、調査の結果、300件が虐待または不適切な行為と認定され、2023年末時点で調査中のものあります。活動地と活動統括本部の事案は、法制度や通報体制の違いから必ずしも同様に扱うことができないため、以下では事案をそれぞれ分けて詳細を報告しています。
2023年の通報・苦情の件数は、前年と比較して18%増加し、714件にのぼりました(2022年はその前年比較で24%増加の606件)。国境なき医師団の活動内容の幅広さや活動範囲の広さを鑑みると、患者やその介護者、地域住民の方々から虐待や不適切行為について十分に報告されていないことを懸念しています。
2023年の医療・人道援助活動地からの通報
- MSFで働くスタッフの89%(約6万9100人)は活動地での業務に従事しており、そうしたスタッフからの通報・苦情は、2023年は714件となり、2022年の606件から増加しました。
- このうち、調査によって264件を虐待ないし不適切行為にあたる事案と認定し(2022年は204件)、2023年末時点で調査中のものあります。
- その中で187件を、何らかの形態の虐待(性的搾取・虐待・ハラスメント、権力の乱用、嫌がらせやいじめ、差別、搾取、攻撃的行為、報復や虚偽の報告、介入、守秘義務違反を含む不正な事案管理など)と認定しました(2022年は121件)。
- 何らかの形態の虐待を理由に合計85人のスタッフを解雇しました(2022年は52人)。また、事案の重大性に応じて、停職、降格、正式な文書による警告、強制的な研修など、他の処分も行っています。
- 187件の虐待事案のうち、85件が性的搾取・虐待・ハラスメントで、2022年の 60 件より増加しました。当該の事案調査の結果に基づいて解雇されたスタッフは45人で、2022年の35人から増加しています。セクシャル・ハラスメントのような行動には、さまざまなものが含まれます。
- その他の事案として、嫌がらせやいじめが31件、権力の乱用が30件、攻撃的行為が23件、搾取が13件、差別が9件、不正な事案管理(4件認定)が確認されています。
- 不適切行為として確認または発覚した事案は77件で、2022年の83件から減少しました。不適切行為とは、上記の虐待行為にはあたらないものの、MSFの行動基準に沿わない行動のことで、不適切な人事管理、不適切な人間関係、社会通念上不適切とされる行動、チームの団結を揺るがす行動、不適切なコミュニケーション、薬物やアルコールの乱用などが含まれます。
現地採用スタッフなど、これまで通報・苦情が少なかったグループからの件数も増加していますが、特に患者や地域住民からの通報・苦情件数については、まだ改善の余地があります。
2023年、患者とその介護者からの通報は33件で、地域住民(MSFスタッフが遭遇した患者およびその他の地域住民を含む)からの苦情件数36件と合わせて、合計69件でした(2022年 は67件)。その他の外部関係者からの通報は24件で、これは、物資の納入業者、メディア関係者、他団体の職員、現地コミュニティ、協力先パートナー、元MSFスタッフ、MSFの契約外のスタッフからの通報を含みます。
患者やその介護者、地域住民からの通報が非常に少ないままであることは、依然として問題です。患者や地域住民への働きかけを強化し、彼らの権利、MSFスタッフの行動基準を周知するとともに、虐待や不適切な行為に対するMSFの責任を追及するために、利用しやすい適切な苦情処理メカニズムを確保する必要があります。
現地採用されたスタッフから提出された苦情の総数は2023年には328件となりました(2022年は232件)。現地採用スタッフからの通報を奨励するためになすべきことは多くあります。なぜなら、現地採用スタッフはMSFの労働力の78%近くを占める一方で、通報者の58%を占めるにすぎないからです。
MSFのスタッフおよび組織外の個人から寄せられたすべての苦情を検討した結果、差別に関する通報は50件で、2022年の40件から増加しました。差別についてはMSF全体で取り組んでいるにもかかわらず、通報は比較的少ない件数となっています。このことは、ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)に関して、いかなる形態の差別行為であれ、その被害を受けた人々が確実に報告できるよう、継続的かつ持続的な取り組みが必要であることを示唆しています。
活動統括本部からの通報
MSFは2020年以降活動地からの通報とともに、世界各地の活動統括本部(オペレーション組織、事務局など)からの通報・苦情も集計しています。MSFの全スタッフの約11%が世界各地の統括本部に勤務しています。
活動統括本部における通報・苦情のデータは、異なる法律や人事プロセスに関連しているため、団体内で完全に調整していない可能性があり、引き続き標準化する努力を続けています。
2023年は全ての事務局から109件の事案が通報され、2022年の89件から増加しました。
上記の通報・苦情のうち、36件を虐待もしくは不適切行為にあたる事案と認定しました(内、2023年末時点で11件は調査中で、虐待ではない通報も含まれます。一部案件は両方に相当することから、2023年は34件の虐待と21件の不適切行為がありました。2022年の38件の虐待と22件の不適切行為から微減となりました。全体で13人が指導もしくは文書か口頭による注意などの処分を受けているほか、15人が解雇処分を受けています。
MSFは引き続き、虐待や搾取、ハラスメントのない職場環境を実現・維持するために、また私たちが支援する人びとに危害を加えないために一丸となって取り組み、責任を担います。患者、MSFスタッフ、その他MSFと接するすべての人が、虐待や容認できない行為を通報できるよう、引き続き努力してまいります。