事務局からのお知らせ

虐待・搾取・ハラスメントのない活動環境の実現を目指して

2023年10月10日

国境なき医師団(MSF)は、いかなる虐待やハラスメントも許さない活動環境づくりを推進しています。MSFの指導部は率先してこの問題に向き合い、虐待・ハラスメントの防止や問題発覚後の対応策の強化に取り組んでいます。また、全てのMSFスタッフには、MSFの行動規範憲章で規定された基本理念の遵守を徹底させます。

MSFは、虐待・ハラスメント撲滅に向けて行ってきた取り組み、課題、前年度に寄せられた容認できない行動の通報件数と内部調査の結果を声明として発表してきました。そして今年も、2022年の通報件数、および現在の取り組みに関する最新状況をご報告いたします。MSFは引き続きこの重大な問題に一丸となって取り組んでまいります。(2021年度の報告はこちら

不正行為の通報体制

MSFでは、あらゆる種類の不正行為を、予防、発見、通報、対応するため、組織内外から通報できる体制を以前から導入しています。全てのMSFのスタッフは、所属部門長や専用のメールアドレスをもつ窓口を通じて不正行為を通報するよう奨励されています。MSFの活動地においても同様に、不正行為の被害者や目撃者はMSFに通報するよう奨励されています。

MSFは団体内での意識向上を目指して全スタッフに通報体制の存在を周知しています。通報体制に関する情報はマニュアル化されているほか、ブリーフィング、活動地視察、研修等の際に伝えられています。さらに、虐待とその対応に関するオンライン教育ツールは定期的に更新・改善されています。

過去数年の間にMSF全体でこの問題に対して行われたさまざまな取り組みの例です。
・ 研修、活動地視察、調査を担う新たな役職の創設や人員増強
・ 問題解決に必要な対策を検討するためのスタッフ向けワークショップや個別相談の実施
・ ハラスメント、虐待、搾取の通報の仕方についてスタッフに提供される手引きの改善・周知・徹底
・ 活動地における患者や地域社会への啓発の強化
・ MSF全体でのデータ収集・共有
・ 組織的課題への取り組み強化および多様性・公平性・包摂性(DEI)の奨励

機密保持

 MSFが目指すのは、最大限の機密保持性の徹底です。被害者および内部通報者の身の安全や雇用、守秘的情報を守り、安心して通報できる環境を作ります。

不正行為が通報された際、MSFは被害者と内部通報者の安全と健康を最優先します。被害者には細心の注意のもと、直ちに心理ケアと医療ケア、法的なサポートを提供します。

事態を司法の手に委ねるべきか否かについて、MSFは常に被害者の判断を尊重しています。未成年に対する性的虐待が起きた場合には、MSFは司法当局への通報を基本方針としています。しかしその場合も子どもの利益と、該当する司法プロセスの有無を最優先しています。

2022年実態

2022年は世界全体で約6万8000人がMSFの活動に携わりました。この年、虐待ないし不適切行為に係る合計695件の通報・苦情が申し立てられ、うち606件が活動地で働くスタッフから、89件が活動統括本部(オペレーション・センター、事務局など)から寄せられました。活動地と活動統括本部の事案は、法制度や通報体制の違いから必ずしも同様に扱うことができないため、以下では事案をそれぞれ分けて詳細を報告しています。

2022年の通報・苦情の件数は、前年と比較して24%増加しました。患者やその介護者、地域住民の方々に通報・苦情の体制を浸透させるという課題は引き続きありますが、数値の増加は、長期的な問題への取り組みによる進展であり、通報体制や手段に対する認識と信頼が高まっていることを示しています。

2022年には、「搾取」と「通報事案の管理違反」に関する苦情も報告に含めるようにしました。後者は、通報者の保護および、通報の仕組みの誤用を避けるために導入したものです。また、「不適切なコミュニケーション」に関する苦情についても情報を収集しています。

2022年の医療・人道援助活動地からの通報

  • MSFで働くスタッフの9割(約6万2000人)は活動地での業務に従事しており、そうしたスタッフからの通報・苦情は、2022年は606件となり、2021年の490件から増加しました。
  • このうち、調査によって204件が虐待ないし不適切行為にあたる事案と認定しました(2021年は158件)。
  • その中で121件を、何らかの形態の虐待(性的搾取・虐待・ハラスメント、権力の乱用、心理的嫌がらせ、差別、搾取、報復や守秘義務違反を含む不適切な事案管理、身体的暴力など)と認定しました(2021年は102件)。
  • 何らかの形態の虐待を理由に合計52人のスタッフを解雇しました(2021年は54人)。また、事案の重大性に応じて、停職、降格、正式な文書による警告、強制的な研修など、他の処分も行っています。
  • 121件の虐待事案のうち、60件が性的搾取・虐待・ハラスメントで、2021年の 67 件より減少しました。当該の事案調査の結果に基づいて解雇されたスタッフは35人で、2021年の33人から増加しています。
  • その他の事案として、心理的嫌がらせが22件、権力の乱用が17件、身体的暴力が12件、差別が3件、搾取が7件確認されています。
  • 不適切行為として確認または発覚した事案は83件で、2021年の56件から増加しました。不適切行為にあたるのは、不適切な人事管理、不適切な人間関係、社会通念上不適切とされる行動、チームの団結を揺るがす行動、不適切なコミュニケーション、薬物やアルコールの乱用などが含まれます。

現地採用されたスタッフから提出された苦情の総数は2022年には232件となり、この数値の報告を開始して以降初めて減少しました(2021年は262件)。現地採用スタッフからの通報を奨励するためになすべきことは多くあります。なぜなら、現地採用スタッフはMSFの労働力の80%近くを占める一方で、通報者の3分の1強を占めるにすぎないからです。

患者とその介護者からの通報は67件で、2021年の53件から増加しました。MSFが毎年数百万人もの患者を診療していることを考慮すると、患者とその介護者からの通報が依然として少ないことは問題であると認識しています。MSFスタッフの行動基準や通報体制について患者とその介助者に伝える努力は継続しているものの、患者がその権利を認識し、虐待や不適切な行為の責任を追及できる制度の利用を促すという面で、さらに多くのなすべきことが残されていることが示されました。

その他の外部関係者からの通報は107件となり、2021年の37件から増加しました。これは、物資の納入業者、メディア関係者、他団体の職員、現地コミュニティ、協力先パートナー、元MSFスタッフ、MSFの契約外のスタッフ、アソシエーションメンバー、その他からの通報を含みます。

差別や人種差別に関する通報は40件で、2021年の32件から増加しました。差別や人種差別にはMSF全体で取り組んでいるにもかかわらず、通報は比較的少ない件数となっています。多様性と包摂性については、スタッフの行動・振る舞いに関する問題として継続して強調し、スタッフが躊躇なく内部通報できるよう奨励することが重要であると認識しています。

活動統括本部からの通報

MSFは活動地からの通報とともに、世界各地の活動統括本部(オペレーション組織、事務局など)からの通報・苦情も集計しています。MSFの全スタッフの約10%が世界各地の統括本部に勤務しています。

活動統括本部における通報・苦情のデータは、異なる法律や人事プロセスに関連しているため、団体内で完全に調整していない可能性があり、引き続き標準化する努力を続けています。

2022年は38の事務局から89件の事案が通報され、2021年の38事務局からの49件通報と比較して増加しました。

上記の通報・苦情のうち、44件が確定となり、調査によって38件が虐待、30件が不適切行為に当たる事案と確認しました(一部案件は両方に相当)。2021年の30件の確定、19件の虐待と11件の不適切行為から増加となりました。確定案件のうち17件が、解雇または厳重注意などの処分を受けています(2021年は13件)。

MSFは引き続き、虐待や搾取、ハラスメントのない職場環境を実現・維持するために、また私たちが支援する人びとに危害を加えないために一丸となって取り組み、患者、MSFスタッフ、その他MSFと接するすべての人が、虐待や容認できない行為を通報できるよう、引き続き努力してまいります。

この記事のタグ

活動ニュースを選ぶ