イベント報告

【イベント報告】トークイベント「忘れられた人道危機」を生きる人びと、ロヒンギャと共に

2022年10月28日

国境なき医師団(MSF)は、難民や移民の人びとが置かれた状況や医療ニーズについて紹介する「エンドレスジャーニー展・大阪~終わらせたい、強いられた旅路~」の開催に合わせ、会期中の10月8日(土)に同展会場内およびオンラインで、迫害を受け5年以上避難生活を余儀なくされているロヒンギャの人びとに光を当てたトークイベントを行いました。

今年の7月にバングラデシュのロヒンギャ難民キャンプを視察した国境なき医師団日本 事務局長の村田慎二郎に加え、在日ロヒンギャ女性で通訳・翻訳家の長谷川留理華さん、数々のロヒンギャ難民の現地取材を行ってきたルポライターの増保千尋さんをゲストに迎え、現在進行形のこの人道危機だけでなく、ロヒンギャの人びとの文化や歴史についても理解を深める内容のトークが、それぞれの写真とともに繰り広げられました。

村田からはバングラデシュの難民キャンプの苛烈な環境で5年間の生活を余儀なくされてきたロヒンギャの人びとの抱える深刻な医療問題とMSFの援助活動について説明がありました。
また、そこで出会った数々のロヒンギャのボランティアスタッフや難民の人びと交わした会話を振り返り、難民100万人分の一人ひとりのストーリーを忘れられた危機にしてはいけないと強く訴え、援助活動の継続の必要性を強調しました。

会場で参加した方からは「このような人道支援の活動は、どこを区切りに終わるのか、MSFとしてはどうなった時に支援を終えると決めているのか」というご質問をいただきました。それに対し村田からは、本来MSFは緊急事態において生命が脅かされている人びとに対する人道援助を行う組織であり、5年経過した今となっては、より開発援助を担う組織に引き継がれるべきだと説明しました。

増保さんからは、数年に及ぶバングラデシュでの取材を通じて交流を深めてきた2人のロヒンギャ女性の紹介がありました。ミャンマーで激しい性的暴行を受け、心と体に深い傷を負い、苦しみながらも力強く生きていこうとする女性、MSFのボランティアとして女性の性に関する正しい知識の普及に努める熱心な若いスタッフ——。そうした彼女たちの声なき声を代弁する増保さんの言葉と写真に対し、参加者からは「バングラデシュの難民キャンプで暮らす女性がスマホで撮影した故郷(ミャンマー)の風景写真を見て涙が止まりませんでした」といった感想がアンケートで寄せられました。

長谷川さんからは、幼少期よりロヒンギャとして一家が迫害を受ける中、祖国ミャンマーのラカイン州から当時の首都ヤンゴンへ、そして20年前、日本に辿り着くまでのご自身の体験についてお話がありました。
差別を受けたミャンマーから日本に逃れたものの、言葉も通じない日本の中学校では「毎日(お弁当の)カレーを食べているから肌が茶色い、気持ち悪い」といういじめに遭います。
しかし、そうした体験があったからこそ「食べることは人類に共通する。料理を通して私たちロヒンギャのことを知ってもらいたい」という思いでロヒンギャの伝統的な料理の数々を紹介くださいました。

長谷川さんはイベントの参加者に対してまず「知る」ということ、そしてそこから更に「広まる」ことを期待していると述べられました。またバングラデシュの難民キャンプでは子どもたちに対する「教育」が不足しており、医療へのアクセスと同時に教育支援の重要性を訴えかけました。 

登壇者プロフィール

長谷川 留理華氏(通訳・翻訳家)

ミャンマー西部アラカン(ラカイン)州にロヒンギャとして生まれる。ミャンマー名はティダ・ルイン。迫害を受けて2001年に日本に逃れ、2013年に日本国籍を取得。17歳でロヒンギャの男性と結婚し、二男三女の母。現在は通訳・翻訳家として、日本とミャンマーの「2つの祖国」をつなぐ活動に取り組む。

増保 千尋氏(ルポライター)

宮城県出身。2002年、早稲田大学第一文学部卒業。2012年、国連平和大学メディアと平和構築修士課程修了。出版社、国際機関などを経て独立。シリア難民やミャンマーの少数民族の独立闘争など、紛争や難民をテーマに取材したルポルタージュを「COURRiER Japon」「Newsweek Japan」「集英社オンライン」などで発表。2017年10月よりロヒンギャの取材プロジェクトを開始し、これまでにバングラデシュ、ミャンマー、マレーシア、イギリス、群馬県館林などを訪問した。バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプでは「国境なき医師団」の援助活動も取材している。

村田 慎二郎(国境なき医師団日本 事務局長)

🄫 MSF
🄫 MSF
静岡大学を卒業後、外資系IT企業での営業職を経て、2005年にMSFに参加。現地の医療活動を支える物資輸送や水の確保などを行うロジスティシャンや事務職であるアドミニストレーターとして経験を積む。2012年、派遣国の全プロジェクトを指揮する「活動責任者」に日本人で初めて任命され、シリアや南スーダン、イエメンなどで援助活動に関する国レベルでの交渉などに従事。以来のべ10年以上を派遣地で過ごす。2020年8月より現職。 

<進行>堀越 芳乃(国境なき医師団日本 アドボカシー・医療渉外チーム 渉外担当シニアオフィサー)

🄫 MSF
🄫 MSF
大学院卒業後、南米ガイアナの国連機関に勤務の後、NGOにて緊急支援、難民支援、地雷対策に携わる。2014年より現職。日本の政府機関や他の援助機関、学術機関などとの協議や関係構築、「人道援助コングレス東京」の開催等を担う。2001年にバングラデシュのロヒンギャ難民キャンプでのインターシップに参加して以来、ロヒンギャ問題に関心を寄せ、2007年、2022年にキャンプを訪問。 

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