イエメン南部でいま、何が起きているのか──知っておきたい「5つのこと」

2026年10月16日
イエメン西海岸での戦闘激化を受け、南部のシェイク・オスマン地区に避難したユセフさん。小さなテントで家族と暮らしている=2026年10月8日 © Alexandre Marcou/MSF
イエメン西海岸での戦闘激化を受け、南部のシェイク・オスマン地区に避難したユセフさん。小さなテントで家族と暮らしている=2026年10月8日 © Alexandre Marcou/MSF

イエメン西海岸で2026年9月以降、戦闘が激化し、多くの人びとが南部への避難を余儀なくされている。

厳しい暑さの中、長い道のりを歩いて逃れた先でも、食料や安全な水、身を寄せる場所が十分にない。長年の紛争で医療体制が不安定になる中、栄養失調やコレラの拡大も懸念されている。

国境なき医師団(MSF)は、病院への支援や移動診療を通じて医療を届けている。現地の状況と必要な援助について、5つの問いに答える形で伝える。

目次

  • Q1. いまイエメンで起きていることは
  • Q2. 人びとはどのような状況に置かれているのか
  • Q3. 現場では、どのような医療が特に必要とされているのか
  • Q4. MSFはどのように援助しているのか
  • Q5. 今後、さらに何が求められるのか

(本記事は2026年10月8日時点の情報に基づく)

Q1. いまイエメンで起きていることは

イエメン南部におけるMSFの緊急対応(2026年10月8日時点) © MSF
イエメン南部におけるMSFの緊急対応(2026年10月8日時点) © MSF
2026年9月、アンサール・アッラーの部隊がイエメン西海岸を南下する軍事作戦を急速に進め、南西部のモカ市やバベルマンデブ海峡などの要衝を掌握した。部隊は国内第3の都市タイズの近郊まで迫り、道路が封鎖され、南部への移動も妨げられている。
 
これに対し、隣国のサウジアラビアから支援を受け、アデンを拠点とする国際的に承認された政府は、10月5日に反攻を発表。前線はバベルマンデブやドゥバブ方面へ進んでいると報じられている。現在、各地域をどの勢力が支配しているかは、はっきりしていない。
 
戦闘の激化に伴い、西海岸各地の制圧された地域から多くの人びとが避難している。長年の紛争と人道危機に苦しみ、急性栄養失調に加えて、コレラや急性水様性下痢症、はしかなどの感染症も極めて深刻な地域の人びとに、さらなる支援が必要となっている。

Q2. 人びとはどのような状況に置かれているのか

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、イエメン全土で2200万人以上が緊急の人道援助を必要とし、約520万人が国内で避難生活を送っている。

今回の戦闘激化以前から、イエメンでは深刻な人道危機が続き、援助資金も慢性的に不足していた。国連によると、この1カ月で治安の悪化によって20万人以上が避難を余儀なくされた。

MSFが最近の移動診療で出会った人びとは、より安全な場所を求めて、非常に長い距離を移動してきた。多くは厳しい暑さの中、雨風をしのいで落ち着ける場所や食料も十分に確保できないまま砂漠地帯を歩いていた。

多くの人びとが、ラヘジ県周辺やアデン郊外の学校やモスクなどに身を寄せている。しかし、こうした環境では水を介して広がるコレラなどの感染症リスクが急速に高まっており、安全な水や衛生設備の確保を含む医療・人道援助が切実に求められている。

戦闘の激化は、すでに限界に近かった医療体制に、さらなる負担をかけている。人道危機によって医療施設の機能が損なわれていたところに戦闘が再燃し、増え続ける医療ニーズへの対応が一層難しくなっている。

イエメン南部のシェイク・オスマン地区では、避難民が簡易なテントをつくって共同生活を送っている。日中は気温がかなり高くなるが、強い日差しを避けられる日陰はほとんどない=2026年10月8日 © Alexandre Marcou/MSF
イエメン南部のシェイク・オスマン地区では、避難民が簡易なテントをつくって共同生活を送っている。日中は気温がかなり高くなるが、強い日差しを避けられる日陰はほとんどない=2026年10月8日 © Alexandre Marcou/MSF

Q3. 現場では、どのような医療が特に必要とされているのか

十分な食料を確保できず、生計を立てる手段も失われる中、栄養失調が増えている。また、コレラも拡大する一方、医療機関の受診や、必要な治療を受けられる施設への紹介・搬送が難しくなっている。

ラヘジとアデン両県にある避難民キャンプで、MSFの移動診療を受けた患者の7割は女性と子どもだった。皮膚の感染症や発熱、下痢、その他の感染症などの症状が見られている。さらに、長距離の避難によって、足をけがしたり、耳や目の感染症を患ったりした人もいる。

受け入れ先となる地域社会や、公式・非公式のキャンプに身を寄せる場所を見つけられず、路上で過ごしたり、木陰で眠ったりする人びとの姿もMSFは現地で目にしている。

イエメン南部のシェイク・オスマン地区に避難してきたユセフさん。「ここでは仕事もなく、文字通り何もない状態です」と訴える=2026年10月8日 © Alexandre Marcou/MSF
イエメン南部のシェイク・オスマン地区に避難してきたユセフさん。「ここでは仕事もなく、文字通り何もない状態です」と訴える=2026年10月8日 © Alexandre Marcou/MSF

Q4. MSFはどのように援助しているのか

MSFは医療を届け続けられるよう注力するとともに、増大する医療・人道援助のニーズに対応する保健当局を支援している。

モカでは戦闘が激化する前から医療ニーズが非常に高く、モカ総合病院に出産のために来院する女性の多くが栄養失調の状態だった。MSFは引き続き、同病院の小児科と産科を支援している。9月10日~10月6日の約1カ月間に、救急外来で567人の患者を受け入れ、45件の出産を介助した。

また、モカの北に位置するハウハでは、MSFが支援する基礎診療所で医療チームが1日平均130~160件の診療をしている。同じ期間にトリアージで患者2122人の緊急度を判定した。この施設内のコレラ治療ユニットも再稼働させた。

9月初旬には、ハウハとマフラク・アル・モカの基礎診療所2カ所に加え、ドゥバブの基礎診療所にも緊急医療キットを配備した。現時点では、MSFは外傷患者を直接治療していない。

攻撃を逃れ、イエメン西海岸のハウハから2日間かけて南部へ避難したアルワさん。「いま最も必要なのは安心して過ごせる場所とテント、料理に使う道具です。いつかハウハに戻れるよう願っています」=2026年10月8日 © Alexandre Marcou/MSF
攻撃を逃れ、イエメン西海岸のハウハから2日間かけて南部へ避難したアルワさん。「いま最も必要なのは安心して過ごせる場所とテント、料理に使う道具です。いつかハウハに戻れるよう願っています」=2026年10月8日 © Alexandre Marcou/MSF

さらに、避難した人びとのニーズに対応するため、アデン県とラヘジ県の各地に移動診療チームを派遣した。9月15日以降の診療件数は計775件で、このうち20人の子どもが重度の急性栄養失調と診断された。同時に、イエメン南部各地で調査を進めており、医療を受けることが難しいキャンプや、仮設の避難先がどこにあるか確認している。

保健当局の緊急対応を支えるため、ラヘジのイブン・ハルドゥーン病院で医療対応力の強化を支援している。タイズの病院には、外傷治療キット4セットを送った。アデンの共和国病院でも、救急外来での外傷診療を支援し、物資を提供している。

MSFは新たに生じるニーズに応えられるよう、活動をどのように調整すべきか、引き続き検討している。

イエメン南部で子どもを診察するMSFの医師(右)。患者には皮膚感染症や発熱、下痢、その他の感染症などが多く見られる=2026年10月8日 © Alexandre Marcou/MSF
イエメン南部で子どもを診察するMSFの医師(右)。患者には皮膚感染症や発熱、下痢、その他の感染症などが多く見られる=2026年10月8日 © Alexandre Marcou/MSF

Q5. 今後、さらに必要なことは

差し迫った支援ニーズが拡大する中、人道援助を速やかに、大幅に拡充する必要がある。厳しい環境で避難生活を送る人びとには、食料、安全な水と衛生設備、雨風をしのげる場所、生活必需品が緊急に必要だ。

人道援助団体と当局は、危機の影響を受けた人びとが医療を受けられるようにし、その機会を広げなければならない。避難や治安の悪化、医療体制のひっ迫によって、緊急に必要な治療を受けられない人が数多くいるからだ。

治安が一層悪化する中であっても、市民と医療は必ず守られなければならない。

イエメン南部でMSFの移動診療を受けに訪れた避難民の家族。女性や子どもが多く、診察や治療の順番を待っている=2026年10月8日 © Alexandre Marcou/MSF
イエメン南部でMSFの移動診療を受けに訪れた避難民の家族。女性や子どもが多く、診察や治療の順番を待っている=2026年10月8日 © Alexandre Marcou/MSF

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