ベネズエラ地震:国境なき医師団、人道ニーズの変化に合わせ援助活動を拡大
2026年07月10日
変化する人道ニーズに対応
6月24日に発生した2度の大地震を受け、首都カラカスに隣接するラグアイラ州では各国の組織による国際的な捜索・救助活動が続いている。しかし、時間の経過とともに新たな生存者が発見される可能性は低下している。当局によると、これまでに3500人以上が死亡し、1万6000人超が負傷、約1万8000人が避難を余儀なくされている。実際の被害状況はさらに大きい可能性がある。
カラカスとラグアイラでは、多くの人びとが家を失い、あるいは避難を余儀なくされ、今も公園や学校、競技場、非公式の避難場所で生活している。MSFは、避難所の過密状態に加え、安全な飲み水や衛生設備へのアクセス不足が感染症の発生・拡大につながる恐れがあると、懸念を示している。
現在、約50人のMSFスタッフが被災地で活動しており、今後さらに追加要員の派遣も予定されている。MSFは発災直後、緊急外傷キットや医療物資を提供し、対応に追われる医療施設への支援に注力してきた。これまでに、地震で負傷した約1万人の治療に必要な医療物資を届けている。現在は、拡大する人道ニーズに対応するため、移動診療や心のケア、水・衛生活動、避難生活を送る人びとへの援助を強化している。
発災直後、医療施設は対応の限界に
地震発生直後、MSFのチームがカラカスから震源地周辺へ向かうには、通常であれば約45分の道のりに4時間以上を要した。ラグアイラでは広範囲で電話やインターネット、電力が途絶え、多くの建物が倒壊・損壊し、立ち入りが危険な状態となっていた。
「まるで戦場のようでした」
当時の状況について、ベネズエラにおけるMSFの現地活動責任者アンドレアス・シュペットはそう振り返る。
これまでの活動経験の中で、このような光景を目にしたことは何度もあります。でも、今回の被災地は本当に戦場のようでした。
MSFの現地活動責任者 アンドレアス・シュペット
被災地で最大規模の医療施設であるラグアイラのホセ・マリア・バルガス病院では、診療を待つ人びとで中庭が埋め尽くされた。また、主に小児医療を担うカラカスのドミンゴ・ルシアーニ病院では、1時間当たりの受け入れ患者数が通常の10~15人から40~50人へと急増した。
MSFはこれまでに、カラカスとラグアイラにある9つの医療施設に加え、地域の緊急対応チームへの支援を行ってきた。また、ベネズエラ保健省と連携し、患者の急増に対応する医療施設を支援するため、医薬品や医療・衛生資材あわせて8.5トンを提供した。
避難する人びとへの対応を強化
医療施設では、地震直後に集中した負傷者の受け入れが徐々に落ち着きつつあり、MSFは避難生活を送る人びとへの対応を強化している。
MSFは、ラグアイラのプラヤ・ベルデとカラカス中心部に常設の移動診療チームを配置するとともに、依然としてニーズの高いカティア・ラ・マールやナイグアタなどの被災地でも移動診療を行っている。医師や看護師、心理士、ヘルスプロモーター、水・衛生専門家で構成されるチームが、避難生活を送る人びとに対し、基礎医療や心のケア、健康推進活動、水・衛生環境の調査を実施している。
活動開始から数日間で、MSFは120件を超える診療を行った。慢性疾患や下痢症、呼吸器感染症、皮膚疾患の患者への対応に加え、約50回の個人・グループセッションを通じた心のケアも提供した。
「人びとが自然発生的に形成された避難場所や過密な施設に集まっている状況を確認していますが、組織的な支援は極めて限られています。多くの人が深い心の傷を負っており、メンタルヘルス支援も非常に重要です」とシュペットは話す。
MSFのチームは、支援が十分に届いていない地域やコミュニティを特定するため、被災地でニーズ調査も進めている。
水・衛生環境の悪化による感染症リスク
MSFが現在特に懸念しているのが、水・衛生環境の悪化に伴う感染症リスクだ。多くの被災地域では今も組織的な衛生システムが十分に整備されておらず、安全な飲み水への安定したアクセスも確保されていない。住民やボランティアによる給水活動が続けられているものの、ニーズは大きいままだ。
「安全な飲み水や衛生設備、適切な衛生環境が不足すると、感染症の流行につながる恐れがあります」と、ブラジルを拠点とするMSFの医療コーディネーター、カルロス・アリアスは話す。
アリアスはこれまでにも地震の被災地でのMSFの緊急対応に携わっており、2023年にトルコ南部とシリアで発生した地震への対応にも参加した。
住民や市民グループによる給水活動は行われているものの、安全な飲み水は現在も不足しています。また、廃棄物を適切に処理するための組織的な仕組みもほとんど確認できていません。
MSFの医療コーディネーター カルロス・アリアス
アリアスは、地震によって本来は飲料水と下水を分離しているインフラが損傷し、水源が汚染されるリスクが高まると説明する。さらに、過密状態の避難所や非公式の避難場所では、人びとが密集して生活するため、感染症の発生・拡大につながりやすい。
MSFはこれまでの地震における緊急対応において、過密状態の避難所や避難した人びとの居住地で発生したコレラやはしか、呼吸器感染症の流行に対応してきた。ベネズエラでも現在、水系感染症に加え、デング熱やジカ熱、チクングニア熱など蚊が媒介する感染症の動向を注視している。
こうしたリスクを軽減するため、MSFは被災地における水源や衛生環境の状況、感染症監視体制のニーズ調査を進めている。また、感染症の発生を防ぎ、安全な水へのアクセスを改善するとともに、人びとが尊厳を保って生活できる環境を整えるため、水・衛生活動を強化している。
今後は、給水車による水の供給や水源の塩素消毒、緊急用のトイレやシャワー設備の設置、衛生キットの配布に加え、避難所や人びとが集まる場所への定期的な移動診療などを展開する予定だ。MSFは、カラカスとラグアイラで引き続きニーズ調査を行うとともに、状況の変化に応じて援助活動を継続していく。




