国外脱出、そしてコロナ禍──苦境の中、新たな人生や役割を見つけるベネズエラ移民
2020年09月14日かつて豊かだった経済が崩壊し、国民の約3分の1が飢餓状態(※)に瀕している南米ベネズエラ。国境を接するブラジル北部のロライマ州には、先住民族を含む多くのベネズエラ人が避難している。新型コロナウイルスの感染拡大によってさらなる窮地に置かれた彼らはいま、移民・難民としてどのように暮らしているのか──。国境なき医師団(MSF)が活動する州都ボアビスタのキャンプで話を聞いた。
※2020年2月世界食糧計画の発表
町のバスターミナルは支援の中心地
ボアビスタのバスターミナルは、ベネズエラから逃れてきた人びとに援助を行う中心地だ。テントが張られたエリアで寝泊や食事ができるほか、人道支援団体がさまざまなサービスを提供。MSFは、移動診療所で心のケアを行っている。ミライダさんもブラジルに到着したばかりの頃、ここで心理療法士の診療を受けた。
「ボアビスタへ着いたのは今年2月、新型コロナが大流行する直前でした。その前の町でお金は底をつき、朝6時から昼まで歩き続けました。着いたばかりの4日間は路上で寝て、バスターミナルの食堂で食事の提供を受けました。そんな時、心理療法士さんと出会って、本当に慰められました。絶望的な状況にひどく落ち込んで、泣いてばかりいた時期でしたから。
ベネズエラでは仕事がなく、食べ物も何もないのです。少なくともここには援助があり、仕事を見つけることもできる。今は庭の草刈りや掃除の仕事をしています。
移民であり支援者でもある
ジャルディム・フロレスタ(ポルトガル語で「森の庭」)と呼ばれる保護施設のテントで、子どもや孫たちと暮らすレベカさん。医療系の仕事をする傍ら、工芸品の制作も行っている。
「ここに滞在する人たちで支援グループを立ち上げて、障害者の介護をしています。感染が広がる中で働くのは大変ですが、こんな状況でも人助けができると実感できるのはいいものです。
先住民族が暮らす“すみか”
ワラオ語で「私たちのすみか」を意味するカウバノコは当初、先住民のワラオ族の宿泊所として始まった。今ではエニェパ族や先住民族でない人びとも身を寄せ、およそ900人が暮らす。ワラオ族の首長であるバウディリオさんも、妻子と孫たちとともにここで身を落ち着けた。
「ブラジルには2017年4月に来ました。故郷が恋しいです。新型コロナの大流行で多くのことが様変わりし、ベネズエラにいる家族は本当に苦しんでいます。飢えているのです。私の兄弟姉妹は、家族を食べさせるためにブラジルへの入国を望んでいますが、今はそれもかなわないません。
ブラジルのことを学びつつ、ワラオの文化を人びとに伝えようと思っています。この前、マクシ族の地域を訪問したんです。他の先住民と会えるのはいいですね。私たちとは兄弟のようなものですから。
ワラオ族でありながら、カウバノコに住むエニェパ族の首長となることを請われたデイリスさんはこう話す。
「ブラジルは言葉も通じず、知り合いもいない、まったくの異郷でした。カウバノコがどこにあるのかもわからず、入国1日目の夜は道路に段ボールを敷いて寝ました。
意思疎通で苦労しているのは、スペイン語をあまり話さないエニェパ族の首長となったからです。徐々に信頼を得て、30世帯近くのお世話をしています。どんなことも皆で共に行うのですが、私より年上の首長たちに支えられていると感じます。健康や教育の面でさまざまな問題はあるものの、少しずつ解決しています」