陣痛がきて、2時間歩いて病院へ お母さんと赤ちゃんの前に立ちはだかる困難とは

2019年05月12日掲載

レールの施設で男の子を出産し、笑顔を見せるニャラムさん © Sarah Pierre/MSFレールの施設で男の子を出産し、笑顔を見せるニャラムさん © Sarah Pierre/MSF

1歳の子どもを抱いて、病院まで何時間も歩いた母親——。長年の紛争で医療がすぐに受けられない南スーダン北部の町レールで、国境なき医師団(MSF)は4月に産科医療とリプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する保健医療)、救急医療を中心とした医療施設を開設した。3年前、レールでは患者とスタッフを狙った一連の襲撃事件が起き、MSFは医療活動を停止していた。新しい施設ではこれまでに300人以上が治療を受け、うち100人以上が妊婦だ。 

困難を乗り越えて

何時間もかけて歩いて受診にきたニャチョトさんと1歳のニアルちゃん © Sarah Pierre/MSF何時間もかけて歩いて受診にきたニャチョトさんと1歳のニアルちゃん © Sarah Pierre/MSF

「8日前、息子が下痢になり、熱も出てきました。MSFがレールの町に戻ったと聞いて、治療を受けさせるために来ることにしたんです。自宅を出たのは今朝7時で、息子を連れて2時間かけて到着しました。残してきた3人の子どもは、夫の他の妻と一緒にいます」

そう語るニャチョトさんは、1歳のニアルちゃんを連れて地元の村から数時間も歩き、MSFの容体安定化施設にたどり着いた。ニアルちゃんは肺炎と診断され、抗生物質と解熱剤の治療を開始。やがて熱は下がり、呼吸も楽になって退院した。ニアルちゃんが引き続き外来診療を受けられるよう、レール町内の他の医療施設も紹介された。 

3年を経て、MSFは4月にレールで活動を再開した © Sarah Pierre/MSF3年を経て、MSFは4月にレールで活動を再開した © Sarah Pierre/MSF

MSFは30年前からレール地域で活動している。2015年の襲撃の際には、MSFの南スーダン人スタッフが地元民とともに湿地帯に避難し、持ち出したわずかな医薬品で下痢、気道感染症、マラリアなどの治療をした。この状況で、多くの人は移動診療がなければ医療を受けられずにいた。

3年が経ち、MSFは地元の保健担当局や保健医療関係省と連携して再びレールで活動することを決定した。この地域で大いに必要とされている医療を拡大し、重症患者の容体安定化施設、産科病棟、産前診療、性およびジェンダーに基づいた暴力(SGBV)経験者のための救急ケアなどを展開している。活動再開以来、 4月第3週までに343人がMSFの手当てを受けた。産科病棟で行った産前ケア診療は198件、支援の対象となった妊婦は分娩介助10件を含め34人に上る。さらに111人が容体安定化施設で治療を受け、その大半が下痢、気道感染症、脱水症、栄養失調の5歳未満児だった。 

子どもたちの面倒を見てやりたい

MSF助産師が、4人目の子どもを妊娠中のニャタバさんと話す © Sarah Pierre/MSFMSF助産師が、4人目の子どもを妊娠中のニャタバさんと話す © Sarah Pierre/MSF

13歳、9歳、5歳の子どもの母親のニャタバさんは、現在4人目を妊娠中だ。「紛争でいろいろなものが壊れてしまいました。病院も…。道を歩くのも安全でなく、女性はレイプされる恐れがあり、男性は殺される恐れがありました。あまりに危険で、外出も控えていました。今は状況も上向きつつあり、外出して、近所の人にあいさつできるようになっています」

「一昨日、出血が始まりました。流産の経験もあるので、よくない状態なのもわかりました。以前は、近くの村の小さな診療所で手当てを受け、ベンティウ文民保護区のMSF病院を紹介されていたんです。今はレールの町にもMSFがいるので、きっと治療を受けられると思っていました。村からここまで2時間かかります。今日はもう痛みもありませんし、出血も止まりました。自宅では夫と、夫の2人の妹と母と暮らし、きびやトウモロコシ、カボチャや豆を育てています。でも食糧が足りません。私は毎日、薪と水も集めています。家に帰って、子どもたちの面倒を見てやりたい。私たち女性が優先すべきことは、子どもを世話して、どうやって養うか考えることなんです」 

産前診療で母子の状況を変える

マラリアにかかった妊婦を診察するMSFのベアトリス・アコンゴ助産師 © Sarah Pierre/MSFマラリアにかかった妊婦を診察するMSFのベアトリス・アコンゴ助産師 © Sarah Pierre/MSF

MSFの助産師ベアトリス・アコンゴは、「早い段階での保健医療は妊婦さんには特に重要です。マラリアや性感染症などの病気を確実に予防・治療することで、妊娠合併症も回避できます」と訴える。

MSF助産師はレールの町で、わずか3週間のうちに少なくとも10人の母親のお産を安全な環境で介助した。妊婦の大半が、数時間歩いて来院していた。この3週間は流産の診療も多く、産科病棟では12人の女性が処置を受けている。長年、最低限の保健医療もままならなかった結果、本来は予防可能な病気が今も妊婦を脅かしているのだ。また、多くの女性は自分に時間を使えることがほとんどない。南スーダン全土で、女性は薪や水を集めるために何時間も歩く。21歳の母親ニャトウォルさんは毎日8時間かけて、30リットルの水を自宅に持ち帰る。妊娠中に出血し、残念ながら流産してしまった。

「アドク近郊の村から3時間かけて来ました。地元で医療は受けられず、女性や母親を支える人もいません。出血が始まったので、受診に来たんです。きっと援助が受けられるだろうと思っていました。5歳と2歳の息子がいますが、流産は今回が初めてです。家族の食事をつくるため、水と薪を集めるのが私の日課です。薪拾いの場所までは、毎日1時間ほどかかります。水場まではさらに遠く、2時間かかります。そこに1日2回行くんです。帰り道では、大きな貯水容器を頭に乗せ、小さいのを手に持って運びます」 

安全な環境でお産を

妊婦健診と安全な環境が母子の健康を守る © Sarah Pierre/MSF妊婦健診と安全な環境が母子の健康を守る © Sarah Pierre/MSF

レールの町の産科ケアとリプロダクティブ・ヘルスケアの情報を聞き、妊娠初期に健診を望む女性の数が増えた。アコンゴ助産師は「これは大いに歓迎すべきことです。母子の健康のため、よりよい手立てが講じられるのがまさに妊娠初期です」と語っている。

34歳のニャラムさんも、レールの施設で出産した1人だ。「7人の子どもを自宅で産みました。何週間か前にMSFがレールの町で妊婦向けの医療を行っていると聞いて、質のいいケアが受けられることもわかっていました。助産師さんが、安全な環境で出産したければまた来るようにと勧めてくださったんです。昨日、陣痛が始まったようなので、自宅を出て、またレールの町に来ました。地元の村からここに着くまで、1人きりで歩いて2時間。お産が無事に済み、生まれた息子も元気で嬉しいです」 

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